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51 魔王討伐戦
しおりを挟む向かう先は暗雲垂れ込めるガリア主都。
「聖女と魔術師と五人の勇者戦隊、行きまーす!」
「「「おうっ!!」」」
そういう事で聖女と魔術師と五人の勇者戦隊は魔王の許に向かうのだった。
唖然と見送る駐屯地の兵たち。
首都の手前で待ち構えていた魔王の居る場所に下りる。
私の先制攻撃。魔王を指さして決めつける。
「あんたはもうお仕舞よ。大人しく観念しなさい」
『何だコイツは、お気楽で軽くてふわふわで可愛いくて、何でこんなものが殺伐とした男の戦場に来るのだ? 悪気がヘショヘショになるではないかーーー!』
ヘショヘショとは何じゃ。この魔王は可愛い系は好みではないのか、ゾフィーア様のような美人系が好きなのか。そこまで考えて、私はゾフィーア様に化けたエリーザベトが言っていたことを思い出した。
『あの方は魔王になられるのじゃ。わらわはその妃になる』
やっぱりこの男が悪の根源なんだな。魔王なんだな。
『そうか、分かったぞ。きさまが聖女だな。私が施した数々の妨害を乗り越えてここまで来るとは、なかなかしぶとい奴だ。褒めてつかわす』
「いや褒めていらないけど、もしかしてこの世界にそのまま来ちゃったのもあんたの所為?」
『異界の芥を落すロンダリングの門を封じたのだ。ロンダリングをしないまま、この世界に顕現できる者がいるとはな』
「えー、オバサンのまま来たのって、こいつの所為? そもそもこの世界に来れなかったかもしれないの?」
『そのまま宙のゴミになっておればよいものを──』
「ゴミ…………」
『ゴミでなければ穀潰しだ。女は誰も彼も役に立たん。あ奴も、男一人、国一つ潰すこともできぬ能無しだ』
何という言い草か。こんな奴許せん。女の敵、乙女の敵、私の敵、オバサンの敵、みんなの敵。私の心にふつふつと滾る怒りを魔王にぶつける。
これでも喰らえ。聖女の先制攻撃!
「魔王なんか死んじゃえーーーー!!」
今度は氷でも雷でも水でもない、そこらにある岩が魔王めがけて飛んで行く。
ドカドカドカドカーーー!!
ちょっと尖った固そうな岩だ。あっという間に魔王の牢獄を作った。
「それっ!」
五人の勇者戦隊が岩の牢獄に居る魔王に榴弾を撃ち込む。
ドドドド!! ドカンドカン!!
魔王は牢獄もろとも吹っ飛ばされた。
『うがああああーーー!! 許さん、許さんぞ!!』
逆上した魔王が『大砲隊!!』と呼ぶ。魔王の兵士が大砲をずらりと並べる。
『葡萄弾、撃てーーーー!!』
それを見た鳥さんが吠えた。
『ガオオオオン!』
「みんなトリに乗るんだ!」
キリルの指示でみんなが鳥さんに乗る。私はヴィリ様に抱えられて乗った。ヨハンナ様はグイードが小脇に抱えて乗る。
鳥さんがふわんと飛び上がった。
飛んで来た砲弾が爆裂する。飛び散る爆弾、そこら中にボンボンと落下して爆発した。当たれば死ぬか酷い怪我をする。
「ここはみんなのお立ち台ー!」
「結界」
みんなの周りに結界を張る。ヨハンナ様の結界も張られる。
魔王の砲撃隊が撃った葡萄弾が、私たちの居た場所でボカンドカンと弾ける。とんでもない攻撃であった。あの場に居たら、あの将軍よりぐちゃぐちゃになっていた。
『くそっ! 砲撃隊!』
魔王がもう一度砲撃隊に命令する。
『葡萄弾、撃てーーーー!!』
大砲隊が空にいる鳥さんに向かって砲撃する。ボンボンと飛んでくる弾を鳥さんがひょいひょいと身軽に避けている。
「もう一回、魔王なんか死んじゃえーーー!!」
鳥さんの上から決め台詞を叫ぶ。
ドカドカドカドカーーーー!!
魔王に岩が襲い掛かった。
「もう一丁!」
ドカドカドカドカーーーー!!
魔王は岩の牢獄に閉じ込められた。
「ほれもう一丁、もうひとつおまけでもう一丁ーーー!!」
ドカドカドカドカーーーー!!
魔王は岩の塊になった。
『おのれおのれおのれーーーー!!』
魔王は岩の塊を全て弾き飛ばして復活した。
魔王が弾き飛ばした岩がドカドカと鳥さんに向かって降ってくる。
「わあ」
「きゃああ」
『ガオオオーーン!』
鳥さんは魔王の弾き飛ばし攻撃をスイスイと避けていたが「あいつらを狙え」とヴィリ様が砲撃隊を指すと『オン!』と魔王の弾き飛ばした岩を砲撃隊に向けて尻尾でボカスカ打ったのだ。岩は砲撃隊に直撃した。
「わあああ!!」
「逃げろーー!!」
魔王の砲撃隊は潰れてしまった。
「鳥さんスゴイ!」思わず拍手してしまうのであった。
「エマ、ここまでだ。後は見ていろ、私達で倒す」
「はい、ヴィリ様」
ヴィリ様は銃を片手に鳥さんの差し出す翼から地面に滑り降りる。五人の勇者が次々に滑り降りて魔王に向かって行く。鳥さんは付かず離れずの距離で、ヨハンナ様と私を乗せて飛んでいる。
魔王対五人の勇者の死闘が始まった。魔王の装甲は固かったけれど黒鬼ほどではなかった。
そして、とうとう魔王は斃されたのだ。
『ぐわああああああぁぁぁーーー!!』
『グッ、魔素が……、魔素がもう少しあれば……。覚えていろ、私は、私は必ず復活する。いつの世でも、どんな世界でも、必ず、必ず復活するー…………』
あ、何か嫌な感じ。向こうの世界で復活したのって、こいつかしら。
そうして魔王はがっくりと息絶えたのだ。その姿は普通の人間へとゆっくりと変わっていった。
「終わったな……」
すると騎馬で小隊を率いてここに駆け付けて来る将がいる。
「貴様らどこの部隊の者か!」と馬上から居丈高に誰何した。向こうの方が人数が多いからって感じが悪い。
鳥さんがゆっくりと降下する。五人の勇者の後ろに舞い降りた。
恐ろしい鳥さんの姿に小隊は驚き騒ぎ、隊長らしき者が「な、な、な、何を──」と口を開いたまま二の句が継げないでいる。
そこには、大きな鍵爪のある翼を広げ、大きな口にはギザギザの牙が幾つも生えて、どっしりとした足には鱗があり鋭い爪が生えて、長い尻尾は鱗に覆われグルンと巻いている、小山のように大きな魔獣がいるのだ。
『ガオオオーーーン!』
鳥さんが一声鳴いただけで小隊は散り散りに逃げて行く。かろうじて隊長だけが百メートルくらい先で踏み留まった。
私の決め台詞攻撃。
「無礼者! 名を名乗れ!」
私の顔を見て隊長は「聖女!?」と驚きの声を上げた。
「私はガリア国首都国民衛兵隊セルリエであります!」
「私はエストマルク帝国ヴィルヘルム・ユーリヒである。そこにガリア国前統領の御遺骸がある。手厚く埋葬して下さるようお願い申し上げる」
「な、な、何と、統領がお亡くなりになったと……」
「そうだ。もう我々が戦う必要はない。これにて失礼する。詳細はヴィエナの会議で決まるであろう」
ヴィリ様は敬礼をし鳥さんに乗る。グイードとルパートとレオンとキリルが鳥さんに乗ると、ガリアの兵士たちを残してアルゲントラテの駐屯地に向け出発した。
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