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47 黒い森で襲撃に遭う

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 すっかり緩み切った私の頭の中で突如ジリジリジリと警報が鳴った。顔を上げて慌てて周りを見回すが馬車の中だ。ヨハンナ様がハッとして馬車から外の様子を窺う。
 馬車は半分森に入りかかった薄暗い街道を進んでいる。
 不意にドーンと爆発音がして、馬車が急に止まった。間近でないと警報は鳴らないらしい。そういや帝都の離宮では警報は鳴らなかったし、久しぶりだ。

「襲撃かもしれません、お顔を出さないで下さい」
 緊張した声でヨハンナ様が言う。『防御』の魔法陣を出して起動した。それで私も「ここは私のお立ち台~」とあまり緊張感のない決め台詞を吐く。馬車の周りでいいだろうか。馬とか御者とか入れて、もう少し広く出来るようだし、後で範囲を詰めないといけないわね。

 外では戦闘が始まっている。右でも左でもドンパチやっているから、どうも二手に分かれて襲撃して来たようなのだ。片側が囮になって、手薄になった所をもう一方が襲い掛かるというやり口だろうか。指揮する者がいるのか、ただの野盗とかではないようだ。

 行軍は長々と伸びていて、部隊の中程を行く馬車を狙って襲撃したのだ。ということは私を狙ったのだろうか。
「エマ様。馬車の中は安全ですから、絶対ここから出てはなりません」
 ヨハンナ様が私を庇うようにしてカーテンの隙間から馬車の外の様子を窺う。かなりの人数で戦闘しているようだ。時々ドーンと音がして炎が上がる。何処に向かって撃っているのか結構危ない。そちらに気を取られていると間近で怒声が上がった。
「いたぞー!」
 おっと、見つかってしまったわ。

 たちまち十人ばかりが押し寄せて馬車に取り付いた。馬車が揺れてる。御者と馬は大丈夫なのかしら。馬の嘶きと剣戟の音が聞こえる。襲撃者がガツガツと馬車のガラスや扉を開けようと遠慮なく剣や槍で殴ってる。くそう。
「攻撃してもいい? するわよ!」
「はい!?」
 ヨハンナ様のお返事を肯定と見做して、外の曲者を指さして叫んだ。

「襲撃者はみんな死んじゃえーーー!」

 バチバチバチドッシーーーーン!!
 ガラガラガラドッシャーーーーン!!

 えっ? 氷じゃないの? 雷が落ちた。すっごい派手!

「ぐわああぁぁ!」
「ぎゃああぁぁ!」

「敵がみんな痺れています、すごいですね」
 ヨハンナ様が外を覗いて感心している。これ、ヴィリ様が言わなきゃ使っていなかったな。馬とか御者とか護衛とか大丈夫なのかしら。それに今ので足りるの?
「ええと、もう一丁って、やらなくてもいいのかな」

 外を覗くと必死に馬を宥めている御者がいる。下の方で護衛兵たちが斃れている者を縛っているようだ。こちらに来たのは別動隊らしい。前の方の戦闘はまだ終わっていない。囮と主力と別動隊、三手に別れて襲い掛かってきたのだろうか。
 前方の囮と主力隊は制圧し終わったらしく、ヴィリ様が駆け付けて来る。

「エマ、大丈夫か!」
「はい」
 痺れてそこらに倒れている人々は、御者と護衛兵が縛って連れて行った。
「随分派手な魔法だな。エマは雷魔法が使えたのか?」
「いいえ、ヴィリ様の仰る通りに死んじゃえを遠慮せずに使いました。氷漬けになると思っていましたが」
「そうか、属性は適当に発動するのだな、面白い魔法だ」
 そう言って下さるのはヴィリ様だけだわ、きっと。

「本隊はガリアの偵察隊です。別動隊が潜んでいて、近くに馬車が停止したので偵察に来て、エマ嬢を発見し襲い掛かったのです」
 ルパートが状況を説明する。
「目の前で雷が弾けた時は驚きました」
「ごめんなさい」
「いや、全然こちらには被害はないです。遠慮なくお願いします」
 ルパートが慌てて訂正している。彼はとても真面目な方のようだ。


  ◇◇

 ドゥルラハは辺境伯領の領都だが辺境伯は冬の戦争でガリア側についた。ここらあたりの小領主は彼に誘われて軒並みガリア側についたのだ。
 ドゥルラハの街に着くと、駐屯地を預かる連隊長と副官の他に、中年の熊のような男性と妙齢の女性が出迎えた。
「この度は兄が大変なご迷惑をかけ面目次第もございません」
「皆様お疲れでございましょう。どうぞ、ごゆるりと館でお寛ぎくださいまし」
 彼らに対してルパートとグイードが一緒に対応する。
「ご配慮かたじけないが、行軍の途中であります」
「聖女様もお疲れの為、本日は早々に宿舎にお運びいただく」
「ヴィルヘルム殿下だけでもお運びいただく訳には──」
 女性が食い下がるが「規則です」と突っぱねた。

 一緒の馬車にヴィリ様が乗っていて、素知らぬ振りで説明をする。
「戦争に負けて辺境伯は家族を連れて逃げた。それで家屋敷などは今駐屯地として使わせて貰っている。彼には叔父甥などの親族がいるから、家が潰れることはないだろう」
「あの人たちがそうなのですか」
「多分、叔父御と姪か令嬢かだろうな」
 むむ、売り込みに来たのかしら。油断ならないわ。
「どこに住んでいるのですか」
「城と屋敷があるからな。こちらは城を駐屯地として使わせてもらっている」
「そうなんですか」

「先程の襲撃は?」と話題を変えた。
「ガリアの兵もいたが、ここらの兵もいた。まあまだどちらにつくか分からない状態だし、用心するに越したことはない」
 襲撃してきたガリアの兵たちは駐屯地の守備隊に渡した。魔獣化した兵士はいなかったようだが念の為に魔素の無い清浄な部屋に暫らく入れられるという。

 そういう訳で今夜はお城で休みます。広いお部屋でちゃんとベッドがあります。お風呂もあります。お城は広くて快適です。ヴィリ様も続きのお部屋で休むようです。
 ドキドキして眠れないかと思いましたが、ぐっすり寝てしまいました。
 うう、私の根性なし!

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