ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり

文字の大きさ
上 下
41 / 53

41 帝都に行きます

しおりを挟む
 ハルデンベルク侯爵邸に戻るとブリュック大司教が聖職者二人をお供に連れて来ていて、ヴィリ様の執事と秘書官が来ている。すでに書類は揃っていて、ヴィリ様と私と侯爵家の人達とでサインを交わして大司教様が受け取って終わった。

 結婚ってもっとロマンチックでドキドキしてなんかこう、思っていたのと違う。事務的でテキパキして、普段着だしベールもドレスもないし、書類にサインしてはい終わりとか入社書類の提出みたいで、釈然としない。

 そういえば、結婚の前に婚約とか、その前にプロポーズとか……、何かそれらしきものはあったけど、全部すっ飛ばして結婚なの?
 ──初夜は……?
 ヴィリ様は花嫁を実家に残して帰って行っちゃったし。


 いつもの自分の部屋の自分のベッドに、いつものように転がって思う。
 そういえば最初のデートは博物館で魔獣の剥製を見て、閃光弾の話をして──。
最初から全然ロマンチックじゃなかった。
 このままロマンチックじゃない街道をまっしぐらに進むのかしら。思うに私自身にロマンチック要素が無いというか、魔獣を見て興味津々だったり、おせんべいが食べたくなったり、むさい男にリュックを作って喜んだり、大体カレーって、ロマンチックからかけ離れた最たるものだ。


  ◇◇

 三日後、ヴィリ様が迎えに来てくれて、私たちは一緒に帝国に旅立った。と言っても、このアルンシュタット王国に来た時と同じようにゲートを通って移動する。

 帝都ヴィエナ近くのゲートを出ると大勢の人が迎えに来ていて、立派な馬車に乗せられる。ずっとヴィル様と一緒だ。うへへ、一応これは新婚旅行なのだ。

「この前、帰ったら皆にどつかれた。花嫁を置いてのこのこ帰って来るバカがどこにいるかって呆れられた」
「そうですか、でも結婚の方が突然なので、仕方ないのでは」
「私としては待ちきれないんだけれど、君が卒業するまで待って欲しいのであれば待つよ」
「私としてもあまり待つのは……」そう言うと嬉しそうに引き寄せるのだけれど「それよりどうして、こんなに早く結婚することになったのか知りたくて」と聞くとヴィリ様は少しためらう感じなので、黙って待っていると話し始める。

「帝国の同盟国にヴァリャーグという北の王国があるんだが、彼らは自国を帝国で、国王は皇帝を名乗っている。北の強力な国だ。今回一緒に戦って、ヴァリャーグ国王は私をいたく気に入り、自分の娘と娶わせようとした。私は断ったが、兄上は乗り気で私の気持ちなど一顧だにしない」

 皇族であれば政略結婚が義務なんだろう。でも、私に言い寄れと命令しておいて、今更、手の平を返すなんて馬鹿にしているの? 何だか許せないんだけど。

「君との結婚を急いだのはそんな理由がある。それでも皇帝の手によって無かったことにされるかもしれない。私はそんなことになったら君を連れて逃げる」

 教会に届け出た婚姻でさえ無効にするというのか。何たる横暴。

「私は君と一緒になる為ならどのような事もする。君には何があっても私を信じて欲しい。それと、君は遠慮することはないんだ」
「でも、私は何もできません」
「そんな事はない。君は自信を持って君のしたいようにしてくれ。それで私が氷漬けになっても全然構わない」
 氷漬けって何? 戦場で氷の池に落ちたのかしら。ヴィリ様ってマゾなの?

 それにしても、またあのゾフィーアに似た女性が出て来るのかしら。

 ヴィリ様は私の懸念には気付かないで続ける。
「戦争が終わったら、君に会って婚約を申し込んで、それから、それから──、そう思っていたのに、急に冷水を浴びせられた気分だった」
 やっぱり氷漬けになりたいのかしら。でも、魔法って生活魔法くらいだし、どうやって氷とか出したのかしら。

「後先になって、君のウェディングドレス姿も見ない内に先に結婚してしまって申し訳ないし、とても残念だが、私は君に断られなくて嬉しかった。ちゃんと教会で式を挙げて、パレードもして、披露の宴もして、みんなで踊りあかし飲み明かし」
「はい」と返事をしたけれど、どこまでするんかね。

 彼は上着のポケットから小さな宝石箱を取り出した。
「指輪だ。受け取ってくれるかい」
 箱を開けると青い宝石、サファイアだろうか、周りをダイヤで飾られた指輪が入っている。彼は私の指に嵌めてくれた。ぴったりだわ。
「大きな宝石ですね」
 ヴィリ様の瞳の様な紺碧のブルーの宝石が、手を動かすとブリリアントカットに光が当たって七色にキラキラと光る。
「ああ、ブルーダイヤだ。母上が私の愛する人に贈るようにと」
「でもこれって、とても高価そうで……、私には勿体無いです」
「戦争に負けたらこれが幾つも買えるお金を支払う。そして土地も割譲する。これでは全然足りない」
 そうなのですね、とはとても言えない。戦争ってお金かかるんだな。戦闘機一機とかミサイル一個とかいくらするのかしら。この世界に無くてよかったわ。
「エマにとても似合うよ」
 そんな極上の笑みで見ないで。


  ◇◇

 ヴィエナは遠くになだらかな山々が連なり、街の西部には森林が広がり、北から東に街を横切る大河と街を囲むように運河がある。街を縦横に走る石畳の道路は広く、高い尖塔の聳える大聖堂、立派な宮殿、博物館や大学、劇場などが威容を誇っている。

 昔の救国の英雄が建てたという夏の離宮に着いた。上宮と下宮があって驚くほど広くて絵画や彫刻磁器などの美術品がこれでもかと飾られている。
「宝物殿みたいですね」
 みたいじゃなくてその通りだが。

「夏の離宮は迎賓館なんだ。私は植物を採集してはここに植えている、前は野菜畑だったらしいが。街に、もうひとつある離宮で今、会議をやっているんだ。ガイアの統領が島送りにされたので、ここらの国々が集まって、和約について協議しているところだ」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

殿下、私は困ります!!

IchikoMiyagi
恋愛
 公爵令嬢ルルーシア=ジュラルタは、魔法学校で第四皇子の断罪劇の声を聞き、恋愛小説好きが高じてその場へと近づいた。  すると何故だか知り合いでもない皇子から、ずっと想っていたと求婚されて? 「ふふふ、見つけたよルル」「ひゃぁっ!!」  ルルは次期当主な上に影(諜報員)見習いで想いに応えられないのに、彼に惹かれていって。  皇子は彼女への愛をだだ漏らし続ける中で、求婚するわけにはいかない秘密を知らされる。  そんな二人の攻防は、やがて皇国に忍び寄る策略までも雪だるま式に巻き込んでいき――?  だだ漏れた愛が、何かで報われ、何をか救うかもしれないストーリー。  なろうにも投稿しています。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

処理中です...