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41 帝都に行きます
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ハルデンベルク侯爵邸に戻るとブリュック大司教が聖職者二人をお供に連れて来ていて、ヴィリ様の執事と秘書官が来ている。すでに書類は揃っていて、ヴィリ様と私と侯爵家の人達とでサインを交わして大司教様が受け取って終わった。
結婚ってもっとロマンチックでドキドキしてなんかこう、思っていたのと違う。事務的でテキパキして、普段着だしベールもドレスもないし、書類にサインしてはい終わりとか入社書類の提出みたいで、釈然としない。
そういえば、結婚の前に婚約とか、その前にプロポーズとか……、何かそれらしきものはあったけど、全部すっ飛ばして結婚なの?
──初夜は……?
ヴィリ様は花嫁を実家に残して帰って行っちゃったし。
いつもの自分の部屋の自分のベッドに、いつものように転がって思う。
そういえば最初のデートは博物館で魔獣の剥製を見て、閃光弾の話をして──。
最初から全然ロマンチックじゃなかった。
このままロマンチックじゃない街道をまっしぐらに進むのかしら。思うに私自身にロマンチック要素が無いというか、魔獣を見て興味津々だったり、おせんべいが食べたくなったり、むさい男にリュックを作って喜んだり、大体カレーって、ロマンチックからかけ離れた最たるものだ。
◇◇
三日後、ヴィリ様が迎えに来てくれて、私たちは一緒に帝国に旅立った。と言っても、このアルンシュタット王国に来た時と同じようにゲートを通って移動する。
帝都ヴィエナ近くのゲートを出ると大勢の人が迎えに来ていて、立派な馬車に乗せられる。ずっとヴィル様と一緒だ。うへへ、一応これは新婚旅行なのだ。
「この前、帰ったら皆にどつかれた。花嫁を置いてのこのこ帰って来るバカがどこにいるかって呆れられた」
「そうですか、でも結婚の方が突然なので、仕方ないのでは」
「私としては待ちきれないんだけれど、君が卒業するまで待って欲しいのであれば待つよ」
「私としてもあまり待つのは……」そう言うと嬉しそうに引き寄せるのだけれど「それよりどうして、こんなに早く結婚することになったのか知りたくて」と聞くとヴィリ様は少しためらう感じなので、黙って待っていると話し始める。
「帝国の同盟国にヴァリャーグという北の王国があるんだが、彼らは自国を帝国で、国王は皇帝を名乗っている。北の強力な国だ。今回一緒に戦って、ヴァリャーグ国王は私をいたく気に入り、自分の娘と娶わせようとした。私は断ったが、兄上は乗り気で私の気持ちなど一顧だにしない」
皇族であれば政略結婚が義務なんだろう。でも、私に言い寄れと命令しておいて、今更、手の平を返すなんて馬鹿にしているの? 何だか許せないんだけど。
「君との結婚を急いだのはそんな理由がある。それでも皇帝の手によって無かったことにされるかもしれない。私はそんなことになったら君を連れて逃げる」
教会に届け出た婚姻でさえ無効にするというのか。何たる横暴。
「私は君と一緒になる為ならどのような事もする。君には何があっても私を信じて欲しい。それと、君は遠慮することはないんだ」
「でも、私は何もできません」
「そんな事はない。君は自信を持って君のしたいようにしてくれ。それで私が氷漬けになっても全然構わない」
氷漬けって何? 戦場で氷の池に落ちたのかしら。ヴィリ様ってマゾなの?
それにしても、またあのゾフィーアに似た女性が出て来るのかしら。
ヴィリ様は私の懸念には気付かないで続ける。
「戦争が終わったら、君に会って婚約を申し込んで、それから、それから──、そう思っていたのに、急に冷水を浴びせられた気分だった」
やっぱり氷漬けになりたいのかしら。でも、魔法って生活魔法くらいだし、どうやって氷とか出したのかしら。
「後先になって、君のウェディングドレス姿も見ない内に先に結婚してしまって申し訳ないし、とても残念だが、私は君に断られなくて嬉しかった。ちゃんと教会で式を挙げて、パレードもして、披露の宴もして、みんなで踊りあかし飲み明かし」
「はい」と返事をしたけれど、どこまでするんかね。
彼は上着のポケットから小さな宝石箱を取り出した。
「指輪だ。受け取ってくれるかい」
箱を開けると青い宝石、サファイアだろうか、周りをダイヤで飾られた指輪が入っている。彼は私の指に嵌めてくれた。ぴったりだわ。
「大きな宝石ですね」
ヴィリ様の瞳の様な紺碧のブルーの宝石が、手を動かすとブリリアントカットに光が当たって七色にキラキラと光る。
「ああ、ブルーダイヤだ。母上が私の愛する人に贈るようにと」
「でもこれって、とても高価そうで……、私には勿体無いです」
「戦争に負けたらこれが幾つも買えるお金を支払う。そして土地も割譲する。これでは全然足りない」
そうなのですね、とはとても言えない。戦争ってお金かかるんだな。戦闘機一機とかミサイル一個とかいくらするのかしら。この世界に無くてよかったわ。
「エマにとても似合うよ」
そんな極上の笑みで見ないで。
◇◇
ヴィエナは遠くになだらかな山々が連なり、街の西部には森林が広がり、北から東に街を横切る大河と街を囲むように運河がある。街を縦横に走る石畳の道路は広く、高い尖塔の聳える大聖堂、立派な宮殿、博物館や大学、劇場などが威容を誇っている。
昔の救国の英雄が建てたという夏の離宮に着いた。上宮と下宮があって驚くほど広くて絵画や彫刻磁器などの美術品がこれでもかと飾られている。
「宝物殿みたいですね」
みたいじゃなくてその通りだが。
「夏の離宮は迎賓館なんだ。私は植物を採集してはここに植えている、前は野菜畑だったらしいが。街に、もうひとつある離宮で今、会議をやっているんだ。ガイアの統領が島送りにされたので、ここらの国々が集まって、和約について協議しているところだ」
結婚ってもっとロマンチックでドキドキしてなんかこう、思っていたのと違う。事務的でテキパキして、普段着だしベールもドレスもないし、書類にサインしてはい終わりとか入社書類の提出みたいで、釈然としない。
そういえば、結婚の前に婚約とか、その前にプロポーズとか……、何かそれらしきものはあったけど、全部すっ飛ばして結婚なの?
──初夜は……?
ヴィリ様は花嫁を実家に残して帰って行っちゃったし。
いつもの自分の部屋の自分のベッドに、いつものように転がって思う。
そういえば最初のデートは博物館で魔獣の剥製を見て、閃光弾の話をして──。
最初から全然ロマンチックじゃなかった。
このままロマンチックじゃない街道をまっしぐらに進むのかしら。思うに私自身にロマンチック要素が無いというか、魔獣を見て興味津々だったり、おせんべいが食べたくなったり、むさい男にリュックを作って喜んだり、大体カレーって、ロマンチックからかけ離れた最たるものだ。
◇◇
三日後、ヴィリ様が迎えに来てくれて、私たちは一緒に帝国に旅立った。と言っても、このアルンシュタット王国に来た時と同じようにゲートを通って移動する。
帝都ヴィエナ近くのゲートを出ると大勢の人が迎えに来ていて、立派な馬車に乗せられる。ずっとヴィル様と一緒だ。うへへ、一応これは新婚旅行なのだ。
「この前、帰ったら皆にどつかれた。花嫁を置いてのこのこ帰って来るバカがどこにいるかって呆れられた」
「そうですか、でも結婚の方が突然なので、仕方ないのでは」
「私としては待ちきれないんだけれど、君が卒業するまで待って欲しいのであれば待つよ」
「私としてもあまり待つのは……」そう言うと嬉しそうに引き寄せるのだけれど「それよりどうして、こんなに早く結婚することになったのか知りたくて」と聞くとヴィリ様は少しためらう感じなので、黙って待っていると話し始める。
「帝国の同盟国にヴァリャーグという北の王国があるんだが、彼らは自国を帝国で、国王は皇帝を名乗っている。北の強力な国だ。今回一緒に戦って、ヴァリャーグ国王は私をいたく気に入り、自分の娘と娶わせようとした。私は断ったが、兄上は乗り気で私の気持ちなど一顧だにしない」
皇族であれば政略結婚が義務なんだろう。でも、私に言い寄れと命令しておいて、今更、手の平を返すなんて馬鹿にしているの? 何だか許せないんだけど。
「君との結婚を急いだのはそんな理由がある。それでも皇帝の手によって無かったことにされるかもしれない。私はそんなことになったら君を連れて逃げる」
教会に届け出た婚姻でさえ無効にするというのか。何たる横暴。
「私は君と一緒になる為ならどのような事もする。君には何があっても私を信じて欲しい。それと、君は遠慮することはないんだ」
「でも、私は何もできません」
「そんな事はない。君は自信を持って君のしたいようにしてくれ。それで私が氷漬けになっても全然構わない」
氷漬けって何? 戦場で氷の池に落ちたのかしら。ヴィリ様ってマゾなの?
それにしても、またあのゾフィーアに似た女性が出て来るのかしら。
ヴィリ様は私の懸念には気付かないで続ける。
「戦争が終わったら、君に会って婚約を申し込んで、それから、それから──、そう思っていたのに、急に冷水を浴びせられた気分だった」
やっぱり氷漬けになりたいのかしら。でも、魔法って生活魔法くらいだし、どうやって氷とか出したのかしら。
「後先になって、君のウェディングドレス姿も見ない内に先に結婚してしまって申し訳ないし、とても残念だが、私は君に断られなくて嬉しかった。ちゃんと教会で式を挙げて、パレードもして、披露の宴もして、みんなで踊りあかし飲み明かし」
「はい」と返事をしたけれど、どこまでするんかね。
彼は上着のポケットから小さな宝石箱を取り出した。
「指輪だ。受け取ってくれるかい」
箱を開けると青い宝石、サファイアだろうか、周りをダイヤで飾られた指輪が入っている。彼は私の指に嵌めてくれた。ぴったりだわ。
「大きな宝石ですね」
ヴィリ様の瞳の様な紺碧のブルーの宝石が、手を動かすとブリリアントカットに光が当たって七色にキラキラと光る。
「ああ、ブルーダイヤだ。母上が私の愛する人に贈るようにと」
「でもこれって、とても高価そうで……、私には勿体無いです」
「戦争に負けたらこれが幾つも買えるお金を支払う。そして土地も割譲する。これでは全然足りない」
そうなのですね、とはとても言えない。戦争ってお金かかるんだな。戦闘機一機とかミサイル一個とかいくらするのかしら。この世界に無くてよかったわ。
「エマにとても似合うよ」
そんな極上の笑みで見ないで。
◇◇
ヴィエナは遠くになだらかな山々が連なり、街の西部には森林が広がり、北から東に街を横切る大河と街を囲むように運河がある。街を縦横に走る石畳の道路は広く、高い尖塔の聳える大聖堂、立派な宮殿、博物館や大学、劇場などが威容を誇っている。
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「宝物殿みたいですね」
みたいじゃなくてその通りだが。
「夏の離宮は迎賓館なんだ。私は植物を採集してはここに植えている、前は野菜畑だったらしいが。街に、もうひとつある離宮で今、会議をやっているんだ。ガイアの統領が島送りにされたので、ここらの国々が集まって、和約について協議しているところだ」
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