上 下
20 / 53

20 殿下との親睦のお茶会です

しおりを挟む

 王子様との親睦のお茶会なんかが設定されて、恐る恐る王宮に参上すれば、ジリジリジリ……と警報が鳴る。サロンに案内されてしばらくすると、アンドレアス殿下が護衛を引き連れて入って来た。すぐお茶が出される。
 目の前のお茶とお菓子を『鑑定』した。
(お茶(王室御用達高級茶、下剤入り) お菓子(バヴァロワ))

(ふーん、下剤か)
 唇の端が少し持ち上がるのをアルカイック・スマイルで隠すアンドレアス殿下に、苦情の申し立てなぞできないから、飲むふりをして【アイテムボックス】のカップに収納する。
 隣のバヴァロワってババロアなのかな。白いババロアにカスタードソースとクリームが乗っかっている。美味しそうだし、こちらは大丈夫だから頂いちゃおう。
 柔らかいけれどプルプルして生クリームが濃厚で美味しい。美味しそうにババロアを食べる私を見て殿下と侍女が顔を見合わせている。

「ええと、エマ嬢」
 コホンと殿下が仕切り直した。
「はい、何でございましょう、アンドレアス殿下」
 身体を真っ直ぐにして畏まり少し小首を傾げ傾聴する態度を取る。殿下は首を少し引き目をパチパチとした。それからパッと立ち上がり、取ってつけたように「エマ嬢に、庭を案内しよう」と手を差し出した。
「はい」

 何だかフォークダンスみたい、と不敬な事を思いながらエスコートされて庭園に行く。警報が鳴らないから大丈夫だろうか。護衛が後ろからついて来る。
 広い庭園の植木は綺麗に刈り込まれ季節の花々が咲いている。真ん中には噴水があってその向こうに縦長の高いガラス窓の並ぶ建物が見える。

「あれは?」
「オランジェリーだ」
「オランジェリーですか?」
「そうだ。南の国々から持ち帰った植物を植えて、枯れないよう温度を保ち研究する温室と研究室だ」
「そうなんですか、すごいですね」
 その言葉に気を良くしたのか「特別に案内してやろう」という。

 オランジェリーの中は広くて真ん中にテーブルがある。少人数のパーティならできそうだ。季節は秋で温室の窓は開け放たれていて、小さなグリーンの実を付けた木が植わっている。
「これがオレンジでしょうか」
「そうだ。向こうにあるのはレモンの木だ」
「レモンもあるのですね」
「花もあるぞ。あれは蘭だ。冬になれば綺麗な花が咲く」
「まあ、ステキですね」
 ヤシのような木が植わっていて、そこから鉢がぶら下がり葉っぱが生えている。天井がガラスじゃないのは何でだろう。そんな事を考えながら見ていると「どうした」とアンドレアス殿下が聞く。
「あ、天井はガラスではないのですね」
「ああ、ガラスは高価だし貴重だ。他国では建てていると聞く。この国も──」
 そこに殿下の近侍が呼びに来た。
「アンドレアス殿下、お時間でございます」
「そうか」
 彼は紳士的にサロンまで送ってくれたので礼を言って別れた。下剤の効き目はどれくらいなのか、悪戯をしないで突っ張らなければいい子そうだけど。


  ◇◇

 翌日学校に行ってみれば、苛めはさらにエスカレートしていた。
 本が破かれ、ノートが捨てられ、制服が汚される。これは器物損壊罪だろうに、どうしたもんか、もう黙っていられないし、どこまで報告するべきか。誰に──?

 そう思っていたら、警報がジリジリジリ……と鳴るのだ。上の階から私めがけてバケツの水をバシャッと浴びせかけられた。思わず口を突いて出る言葉は、
「何すんねん!」
 零した女生徒がびくっと震えた。
 もう何でこんな目に遇わなきゃいけないの。もうやだって思ったら、決め台詞スキルを覚えた。

(エマはスキル『決め台詞』「無礼者! 名を名乗れ」を覚えました)
 よっしゃ。
「無礼者! 名を名乗れ」

「わ、いや、ザルム伯爵が娘カロリーネですぅ」
 令嬢は名乗ってから、きゃあと泣きながら逃げて行った。

 なるほど、この前の王宮舞踏会でフェルデンツ公爵令嬢ゾフィーアの取り巻きにいたザルム伯爵家の令嬢か。使いっぱかしら、この前もワインをかけた令嬢だ。
 それにしても、このびちょびちょの制服どうしてくれよう。秋風が身にしむ今日この頃、これでは風邪をひいてしまう。
 すると、いきなり耳元で鐘の音がカランカランと鳴ったのだ。

(エマのスキル『決め台詞』が進化しました。
 スキル『決め台詞』は『決め台詞二』に移行します。
 これ以降スキル『決め台詞二』が発動します。
 スキル『決め台詞二』には『専守防衛』が付属します。
 これ以降、常時『専守防衛』が自動的に発動します)

「はあ?」

 専守防衛って何だったっけ、攻撃されたら穏便な方法でやり返すみたいな、あんまり役に立たないんじゃ。取り敢えずびしょ濡れでは授業に行けない。生活魔法で『清浄』を唱えたが生乾きっぽい。
 何だか疲れたし、迎えの馬車が来るまで自分のスキルでも見ながら保健室で休もう。そうしよう。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》

カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!? 単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが…… 構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー! ※1話5分程度。 ※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。 〜以下、あらすじ〜  市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。  しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。  車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。  助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。  特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。  『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。  外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。  中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……  不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!    筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい! ※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。 ※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

ドラゴン王の妃~異世界に王妃として召喚されてしまいました~

夢呼
ファンタジー
異世界へ「王妃」として召喚されてしまった一般OLのさくら。 自分の過去はすべて奪われ、この異世界で王妃として生きることを余儀なくされてしまったが、肝心な国王陛下はまさかの長期不在?! 「私の旦那様って一体どんな人なの??いつ会えるの??」 いつまで経っても帰ってくることのない陛下を待ちながらも、何もすることがなく、一人宮殿内をフラフラして過ごす日々。 ある日、敷地内にひっそりと住んでいるドラゴンと出会う・・・。 怖がりで泣き虫なくせに妙に気の強いヒロインの物語です。 この作品は他サイトにも掲載したものをアルファポリス用に修正を加えたものです。 ご都合主義のゆるい世界観です。そこは何卒×2、大目に見てやってくださいませ。

夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します

もぐすけ
ファンタジー
 私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。  子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。  私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。  

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...