上 下
9 / 53

09 村は賑やかだった

しおりを挟む

「それで、君の方の情報を聞かせてくれないか」
 改まって、銀髪のルパートに言われて頷く。
「分かったわ」

「私の名前はエマ。こちらに来て一カ月になるわ」
 私は髪を染めてからの、こちらに来た経緯をかいつまんで話した。

「こちらには目隠しをして、連れて来られたからここが何処か分からないわ。神殿みたいな所に転移して来たはずだけど」
「転移場所は五か所でランダムに発動して五、六時間で閉じる。一往復限りの魔法陣なんだ。放流する時に場所を特定されないように、渡り人の身の安全の為だな」

 それでも場所が分かってしまえば、私みたいに襲われる人はいたんだろうな。もしかして町の人は知っていたんだろうか。だから余所余所しかったのか。町の人までグルだとしたら、私、この世界の人々が嫌いになりそう。


 私が考え込んでいる間に、話は次にいったようだ。
「君が放流されたと聞いて、我々が君を保護することになった」
「え、いつの間にそんな事に──」
「話し合いの結果そうなった。君の容姿は今の所誰にも知られていないからな。噂じゃピンクの髪の中年のご婦人だと聞いたが」
「神気も魔力もないと聞いた」
「それで放流されても誰も手を挙げないから、ウチが貰い受ける事にした」

 ああ、そうかい。もう決まっているんだな。どこも要らないから引き取ってやろうって、何か哀れげだよね。少しいじけそうになる。でも彼らは上から目線ではないのだけれど。
 全然知らない世界で、行く所のない私が、頼る人もいなくては、彼らを頼るしかないのだろうか。彼らはわざわざここまで迎えに来てくれたんだし。

「すまないがエマ、一度隠蔽を解いてくれないか」
 改まったようにルパートに頼まれる。
「え、私が隠蔽かけているの分かるの?」
「ああ、分かる。しかし今の状態だとエマの姿がダブって二重に見えるのだ。一応本来の姿を把握しておきたい」
「ルパートとキリルは魔力が高いからな」とオレンジ茶髪のレオンが言う。
「ああ、そうなんだ」
 身バレしてしまったわ。どうしよう。
「もしかして寝てた時から気が付いた?」
「まあな」
 うわ、もう手遅れやん。

 私は自分の姿を鏡で見ただけで、他人が見たらどう思うかなんて知らない。自分がモテた事もない。モテ男そうなイケメンたちだから、様々な美女をあしらっているだろうし、私はたかが十五の小娘だとあっさり隠蔽を解いた。

 もし目の前に鏡があったら、疲れた少女が薄汚れて、鳥の巣のような髪を梳きもせず、笑いもしない無表情で、みっともない姿が映っている筈だ。
 なのに──、

「「「…………っ!」」」
「ごくり」と唾を飲み込む音が聞こえた。
 警報が鳴る。ジリジリジリ……、と。

『隠蔽ー昔の姿』

 警報が鳴り止んだ。
 一体何なんだこの反応は。私は普通のオバサンだった。こんな反応なんか知らない。なんか怖くなって慌てて隠蔽して隠した。
 男たちが溜め息を吐く。私はフードも被った。
「君は隠蔽を解かない方がいい」
 銀の髪のルパートは口元を押さえてそう言った。
「隠蔽かけてると二重に見えるからな」
「いきなり見ると心臓に悪い」
 いや、そんな大げさな。


  ◇◇

「国に帰るまではそのままで」とルパートに念を押されたので、そのまま隠蔽を解くこともなく森の中を移動する。彼らに案内されて町で見た大雑把でいい加減な地図の、森の道を通れば行けると思しき村に翌日の昼前に着いた。

「早いー」とはしゃぐ私に「回り道をして森の外を通れば四日以上掛かるんだぞ」とレオンが言い「森の中を通って魔物が出れば、何日かかるか分からない」とキリルが脅し「俺たちのような、しっかりした道案内がいて、魔物が出ないという好条件の上だからな」とルパートが締めくくる。

「よく私の居た所が分かったわね」と聞けばキリルの肩の小鳥が『ピピピーチュ』と高らかに囀った。
「コイツは神気や魔力を感じ取る。こんな所にいきなり神気を纏った奴が現れる訳は無いからな」
「へっ、そんなの分かるの?」慌てて、自分の身体を探る。
「俺らには見えない。この鳥にだけ分かるんだ。こいつも魔物だからな」
「キリルは鳥使いのスキルがあるからな」
「へえ……」
 魔物に見えないけど。じっと小鳥を見ると小鳥が首を傾ける。
『チチチ』
「ありがとうね。みんなのお陰ね」
 笑うと小鳥は私の頭に止まって『ピルピルピー』と鳴いた。


 その村は町よりも賑やかだった。煉瓦塀で緩く囲った村で外を溝のような堀が囲んでいる。石橋を渡って村に入ると、高い建物は殆んどなく、樹木が多く植わっている。
 初めはお祭りかなんかだと思った。人出が多くて、それが村の入り口付近にたむろしているのだ。
「俺ら、見世物になってんぞ」
「物好きだな。自分たちは引き取らないと言ったくせに」
「暇なんだろうよ」

 いいや、きっと違う。私は思った。見物人には女性も結構多いのだ。キャラキャラ言いながら、最初チラッと私を見た女性たちは、ふふんと勝ち誇った顔をして、後は連れの三人のイケメンに流し目やら色目やら、挙句の果てに腕やら肩やら触って引っ張り込もうとする勢いだ。彼ら目当ての人が多いに違いない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

処理中です...