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09 村は賑やかだった
しおりを挟む「それで、君の方の情報を聞かせてくれないか」
改まって、銀髪のルパートに言われて頷く。
「分かったわ」
「私の名前はエマ。こちらに来て一カ月になるわ」
私は髪を染めてからの、こちらに来た経緯をかいつまんで話した。
「こちらには目隠しをして、連れて来られたからここが何処か分からないわ。神殿みたいな所に転移して来たはずだけど」
「転移場所は五か所でランダムに発動して五、六時間で閉じる。一往復限りの魔法陣なんだ。放流する時に場所を特定されないように、渡り人の身の安全の為だな」
それでも場所が分かってしまえば、私みたいに襲われる人はいたんだろうな。もしかして町の人は知っていたんだろうか。だから余所余所しかったのか。町の人までグルだとしたら、私、この世界の人々が嫌いになりそう。
私が考え込んでいる間に、話は次にいったようだ。
「君が放流されたと聞いて、我々が君を保護することになった」
「え、いつの間にそんな事に──」
「話し合いの結果そうなった。君の容姿は今の所誰にも知られていないからな。噂じゃピンクの髪の中年のご婦人だと聞いたが」
「神気も魔力もないと聞いた」
「それで放流されても誰も手を挙げないから、ウチが貰い受ける事にした」
ああ、そうかい。もう決まっているんだな。どこも要らないから引き取ってやろうって、何か哀れげだよね。少しいじけそうになる。でも彼らは上から目線ではないのだけれど。
全然知らない世界で、行く所のない私が、頼る人もいなくては、彼らを頼るしかないのだろうか。彼らはわざわざここまで迎えに来てくれたんだし。
「すまないがエマ、一度隠蔽を解いてくれないか」
改まったようにルパートに頼まれる。
「え、私が隠蔽かけているの分かるの?」
「ああ、分かる。しかし今の状態だとエマの姿がダブって二重に見えるのだ。一応本来の姿を把握しておきたい」
「ルパートとキリルは魔力が高いからな」とオレンジ茶髪のレオンが言う。
「ああ、そうなんだ」
身バレしてしまったわ。どうしよう。
「もしかして寝てた時から気が付いた?」
「まあな」
うわ、もう手遅れやん。
私は自分の姿を鏡で見ただけで、他人が見たらどう思うかなんて知らない。自分がモテた事もない。モテ男そうなイケメンたちだから、様々な美女をあしらっているだろうし、私はたかが十五の小娘だとあっさり隠蔽を解いた。
もし目の前に鏡があったら、疲れた少女が薄汚れて、鳥の巣のような髪を梳きもせず、笑いもしない無表情で、みっともない姿が映っている筈だ。
なのに──、
「「「…………っ!」」」
「ごくり」と唾を飲み込む音が聞こえた。
警報が鳴る。ジリジリジリ……、と。
『隠蔽ー昔の姿』
警報が鳴り止んだ。
一体何なんだこの反応は。私は普通のオバサンだった。こんな反応なんか知らない。なんか怖くなって慌てて隠蔽して隠した。
男たちが溜め息を吐く。私はフードも被った。
「君は隠蔽を解かない方がいい」
銀の髪のルパートは口元を押さえてそう言った。
「隠蔽かけてると二重に見えるからな」
「いきなり見ると心臓に悪い」
いや、そんな大げさな。
◇◇
「国に帰るまではそのままで」とルパートに念を押されたので、そのまま隠蔽を解くこともなく森の中を移動する。彼らに案内されて町で見た大雑把でいい加減な地図の、森の道を通れば行けると思しき村に翌日の昼前に着いた。
「早いー」とはしゃぐ私に「回り道をして森の外を通れば四日以上掛かるんだぞ」とレオンが言い「森の中を通って魔物が出れば、何日かかるか分からない」とキリルが脅し「俺たちのような、しっかりした道案内がいて、魔物が出ないという好条件の上だからな」とルパートが締めくくる。
「よく私の居た所が分かったわね」と聞けばキリルの肩の小鳥が『ピピピーチュ』と高らかに囀った。
「コイツは神気や魔力を感じ取る。こんな所にいきなり神気を纏った奴が現れる訳は無いからな」
「へっ、そんなの分かるの?」慌てて、自分の身体を探る。
「俺らには見えない。この鳥にだけ分かるんだ。こいつも魔物だからな」
「キリルは鳥使いのスキルがあるからな」
「へえ……」
魔物に見えないけど。じっと小鳥を見ると小鳥が首を傾ける。
『チチチ』
「ありがとうね。みんなのお陰ね」
笑うと小鳥は私の頭に止まって『ピルピルピー』と鳴いた。
その村は町よりも賑やかだった。煉瓦塀で緩く囲った村で外を溝のような堀が囲んでいる。石橋を渡って村に入ると、高い建物は殆んどなく、樹木が多く植わっている。
初めはお祭りかなんかだと思った。人出が多くて、それが村の入り口付近にたむろしているのだ。
「俺ら、見世物になってんぞ」
「物好きだな。自分たちは引き取らないと言ったくせに」
「暇なんだろうよ」
いいや、きっと違う。私は思った。見物人には女性も結構多いのだ。キャラキャラ言いながら、最初チラッと私を見た女性たちは、ふふんと勝ち誇った顔をして、後は連れの三人のイケメンに流し目やら色目やら、挙句の果てに腕やら肩やら触って引っ張り込もうとする勢いだ。彼ら目当ての人が多いに違いない。
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