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01 異世界に来ました
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それはいつもの美容院に行った時の事だ。女ばかり集まって久しぶりに温泉に行こうということになった。それで、美容院にパーマをかけに行って、ついでにヘアカラーをしてもらう事にしたのだ。
一緒に染めるとお安いですよと勧められて飛びついた私は、ミーハーで「お安い」という言葉にとっても惹かれるオバサンなのだ。
しかし、シャンプーして鏡の前に座って驚いた。
「うわあ、ピンク!!」
大きな声が出た。どうして、どうして、どうして。そこにはピンクのぐりぐり巻き毛がボワンと広がったオバサンがいる。
ピンク。どう見てもピンク。美容院の照明にテカテカ光輝く蛍光紫ピンク。
こんなド田舎で、ハロウィンでもないのに、コスプレ感満載のドピンク頭のオバサン…………。どうしよう、もう表をまともに歩けない。
「染め直すと髪が痛みますし、斑になったりもしますよ」と美容師に言われる。ピンクの斑オバサンを想像して震えた私は、すごすご料金を払って美容院を出た。
ああ、恥ずかしくて表を歩けない。小雪のちらつく中、首に巻いていたマフラーでほっかむりして、急ぎ足に解けかかった雪道を歩き出した。べちゃべちゃの雪道は歩きにくい。丁度、変わりだした横断歩道の信号に慌てて足を踏み出した私は滑って後ろにひっくり返った。
この世界の記憶はそこまでだ。
◇◇
目が覚めると冷たい床に転がっていた。底は円形で周りはぐるりと階段がある円形劇場のような作りだが、それほど大きくはなく、地面は大理石っぽい模様のつるつるの石で階段も同じだ。
私は雪道で滑った時と同じ格好をしていた。濃いグレーのダウンにジーンズで、紺のセーターを着ている。マフラーは見当たらない。
そろりと周りを見回すと、階段は上の方まで続いていて、段々と見上げると、上の方は柱が等間隔に並んでいて、間に人がいる。
鎧を着て槍を持った衛兵らしき人間にかしずかれた豪華なマントを羽織った男と、聖職者風の白い長い服の者たちに囲まれた白い冠を被った男と、黒いローブを着た人々に囲まれた三角帽子の男とがいた。
何だろう、コスプレだろうか。何でこんな会場に居るのか。何処の会場だろう。市内にこんな場所があっただろうか。私はコスプレなんかしたことがないので知らない。ただ彼らの顔は彫りが深くて体形もゴツイ。
まさか、本当に異世界とかあるのだろうか──。
異世界転生とか転移とか、物語の中の世界じゃないのか。スマホで読んだ数々の物語が頭を過ぎるが、こんな事が現実に起こるとは思えない。そっと頬を抓った。痛かった(涙)。
「大司教。この者は男性のようだが」
豪華なマントを羽織った中年の男が喋った。なんか違う知らない言葉で喋っているのに意味が分かるとは、異世界あるあるだろうか。やっぱり異世界に来ているのだろうか。こんなオバサンが何で来たのか分からない。
足元が光ったとか無かったし、私はひとりでいたので巻き込まれでもないし、トラックも向かって来なかったし、猫を助けたりもしていない。
「女性の筈じゃが」
大司教と呼ばれた冠を被った白い髭の偉そうな高齢の男が答える。その隣に手に持った水晶球をかざして私の方に向けている中年の男がいる。彼は私をじっと見た後、偉そうなお爺さんに向かって首を横に振った。
「神気を感じられません。違うようです」
「そうか、聖女ではなさそうじゃの」
大層ガッカリした感じである。
「この者には魔力も無いようです。我らにも用がないようですな」
同じような水晶玉を抱えて黒いローブを羽織った面々は肩を竦めた。
「この女の髪はピンク色である。ピンクの髪の女性は王家に災いをもたらすという。こちらでは引き取れぬ」
豪華なマントを羽織った中年の男は宣言した。
「かしこまりました。それでは所定の手続きを進めましょう」
豪華なマントを羽織った男の近くに居た、貴族が着るような刺繍のある上着を着た中年の男が恭しく礼をする。
話が付いたのか、男たちはお付きをぞろぞろと引き連れて部屋を出て行った。残ったのは銃や槍を持った衛兵みたいな男数名と文官らしき男が数名だ。
この世界には銃があるのか。ライフルみたいな細長い銃で火縄は付いていない。先によく斬れそうな槍の穂先みたいな刃が付いている。
その穂先をこちらに向けていて、ひとりが手荒く私の持ち物検査をする。
銃とか槍とかこっちに向けるなや。人様に刃物を向けてはいけませんて、小さい時に習わなかったの?
普通に怖くて、抵抗する気も何か言う気も起きないというのに。
衛兵の着ている軍服が、この前見に行った映画の前に流された予告編で見たような格好だ。この穂先に槍の刃が付いた銃は、マスケットだったっけ?
彼らは私を身体検査をした後、腕を持って連行する。
兵士に連れられて聖堂のような建物を出て、馬車に乗せられしばらく走って、小さな二階建ての古ぼけた宮殿のような建物に連れて行かれた。部屋のひとつに入れられてドアに鍵をかけられる。
何畳あるのか広い部屋には、頑丈で飾り気のないベッドと毛布があるだけでガランとしている。出口以外にドアがあったので開けてみると、部屋の真ん中にオマルのようなトイレと横にちり紙の入った籠がぽつんと置いてある。何だか侘しい。
ベッドに腰かけて溜め息を吐く。
頭を打ってその後、死なずにこの世界に来たのだろうか。髪を引っ張って見ると紫ピンクのままだ。偉そうな大司教さんが聖女じゃないと言っていたし、魔力もないそうだし、こんなオバサンじゃ誰も見向きもしないだろうな。口をへの字にしてもう一度溜め息を吐く。
ダウンを脱いでベッドに横になって、いつの間にか眠ってしまった。
一緒に染めるとお安いですよと勧められて飛びついた私は、ミーハーで「お安い」という言葉にとっても惹かれるオバサンなのだ。
しかし、シャンプーして鏡の前に座って驚いた。
「うわあ、ピンク!!」
大きな声が出た。どうして、どうして、どうして。そこにはピンクのぐりぐり巻き毛がボワンと広がったオバサンがいる。
ピンク。どう見てもピンク。美容院の照明にテカテカ光輝く蛍光紫ピンク。
こんなド田舎で、ハロウィンでもないのに、コスプレ感満載のドピンク頭のオバサン…………。どうしよう、もう表をまともに歩けない。
「染め直すと髪が痛みますし、斑になったりもしますよ」と美容師に言われる。ピンクの斑オバサンを想像して震えた私は、すごすご料金を払って美容院を出た。
ああ、恥ずかしくて表を歩けない。小雪のちらつく中、首に巻いていたマフラーでほっかむりして、急ぎ足に解けかかった雪道を歩き出した。べちゃべちゃの雪道は歩きにくい。丁度、変わりだした横断歩道の信号に慌てて足を踏み出した私は滑って後ろにひっくり返った。
この世界の記憶はそこまでだ。
◇◇
目が覚めると冷たい床に転がっていた。底は円形で周りはぐるりと階段がある円形劇場のような作りだが、それほど大きくはなく、地面は大理石っぽい模様のつるつるの石で階段も同じだ。
私は雪道で滑った時と同じ格好をしていた。濃いグレーのダウンにジーンズで、紺のセーターを着ている。マフラーは見当たらない。
そろりと周りを見回すと、階段は上の方まで続いていて、段々と見上げると、上の方は柱が等間隔に並んでいて、間に人がいる。
鎧を着て槍を持った衛兵らしき人間にかしずかれた豪華なマントを羽織った男と、聖職者風の白い長い服の者たちに囲まれた白い冠を被った男と、黒いローブを着た人々に囲まれた三角帽子の男とがいた。
何だろう、コスプレだろうか。何でこんな会場に居るのか。何処の会場だろう。市内にこんな場所があっただろうか。私はコスプレなんかしたことがないので知らない。ただ彼らの顔は彫りが深くて体形もゴツイ。
まさか、本当に異世界とかあるのだろうか──。
異世界転生とか転移とか、物語の中の世界じゃないのか。スマホで読んだ数々の物語が頭を過ぎるが、こんな事が現実に起こるとは思えない。そっと頬を抓った。痛かった(涙)。
「大司教。この者は男性のようだが」
豪華なマントを羽織った中年の男が喋った。なんか違う知らない言葉で喋っているのに意味が分かるとは、異世界あるあるだろうか。やっぱり異世界に来ているのだろうか。こんなオバサンが何で来たのか分からない。
足元が光ったとか無かったし、私はひとりでいたので巻き込まれでもないし、トラックも向かって来なかったし、猫を助けたりもしていない。
「女性の筈じゃが」
大司教と呼ばれた冠を被った白い髭の偉そうな高齢の男が答える。その隣に手に持った水晶球をかざして私の方に向けている中年の男がいる。彼は私をじっと見た後、偉そうなお爺さんに向かって首を横に振った。
「神気を感じられません。違うようです」
「そうか、聖女ではなさそうじゃの」
大層ガッカリした感じである。
「この者には魔力も無いようです。我らにも用がないようですな」
同じような水晶玉を抱えて黒いローブを羽織った面々は肩を竦めた。
「この女の髪はピンク色である。ピンクの髪の女性は王家に災いをもたらすという。こちらでは引き取れぬ」
豪華なマントを羽織った中年の男は宣言した。
「かしこまりました。それでは所定の手続きを進めましょう」
豪華なマントを羽織った男の近くに居た、貴族が着るような刺繍のある上着を着た中年の男が恭しく礼をする。
話が付いたのか、男たちはお付きをぞろぞろと引き連れて部屋を出て行った。残ったのは銃や槍を持った衛兵みたいな男数名と文官らしき男が数名だ。
この世界には銃があるのか。ライフルみたいな細長い銃で火縄は付いていない。先によく斬れそうな槍の穂先みたいな刃が付いている。
その穂先をこちらに向けていて、ひとりが手荒く私の持ち物検査をする。
銃とか槍とかこっちに向けるなや。人様に刃物を向けてはいけませんて、小さい時に習わなかったの?
普通に怖くて、抵抗する気も何か言う気も起きないというのに。
衛兵の着ている軍服が、この前見に行った映画の前に流された予告編で見たような格好だ。この穂先に槍の刃が付いた銃は、マスケットだったっけ?
彼らは私を身体検査をした後、腕を持って連行する。
兵士に連れられて聖堂のような建物を出て、馬車に乗せられしばらく走って、小さな二階建ての古ぼけた宮殿のような建物に連れて行かれた。部屋のひとつに入れられてドアに鍵をかけられる。
何畳あるのか広い部屋には、頑丈で飾り気のないベッドと毛布があるだけでガランとしている。出口以外にドアがあったので開けてみると、部屋の真ん中にオマルのようなトイレと横にちり紙の入った籠がぽつんと置いてある。何だか侘しい。
ベッドに腰かけて溜め息を吐く。
頭を打ってその後、死なずにこの世界に来たのだろうか。髪を引っ張って見ると紫ピンクのままだ。偉そうな大司教さんが聖女じゃないと言っていたし、魔力もないそうだし、こんなオバサンじゃ誰も見向きもしないだろうな。口をへの字にしてもう一度溜め息を吐く。
ダウンを脱いでベッドに横になって、いつの間にか眠ってしまった。
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