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十四話 食われたい
しおりを挟むシーヴに飽きられて払い下げられたら、部下に食われて処理されてしまうのか!?
藤崎の書いた話と全然違うけれど、もしかしたら、もう書き換えられてしまったのかもしれない。一体誰が……。
パソコンは盗まれてしまった。まさか、エイリアンの仲間が盗んだのか。あの話は、普通の人間にとっては、どうでもいいような架空の話だ。でも、エイリアンにしてみれば……。
ラーゲルがナイフを持って近付く。明るい所に来れば、この男の虹彩も縦に細い。笑った口の中に、ギザギザの歯が見えたような気がする。
怖気を震って見ていると、ラーゲルがニタリと笑った。
藤崎にとって、絶体絶命のピンチだった。
だが、その時、話に書いた通りのことが起こったのだ。
バターンとドアが開いた。エイリアンたちが一斉にそちらの方を向く。
「おいっ!! 連邦警察の手入れだ!!」
店のドアを開いた男が叫んだ。
ファンファンと、何やらサイレンのような音がする。
「逃げろ!!」
もう一度男が叫ぶ。どやどやと足音まで聞こえてきた。
そこに居た連中は驚いて、右往左往する。
「こっちだ!!」
店のマスターが客を呼んで、皆はそちらへと逃げ出した。
あっという間に店はもぬけの殻となった。
助かったのか――!?
男が一人店の中に入ってきた。静まり返った店内に男の足音が響く。
間近まで来て聞いた。
「大丈夫か?」
すっきりしたイケメンの顔が藤崎を覗き込む。
「甲斐? どうして」
「お前が安斎係長と一緒に出て行ったから、心配になって――」
甲斐は藤崎の手の戒めを外しながら言う。
「いや、これは焼きもちかな」
「え…」
まだ一つ外れていない手首を残して、甲斐は藤崎の唇に軽くキスを寄越した。それから顔を背けて、慌てたように最後の一つを外した。
「どうして……」
信じられない。甲斐はもてる奴だった。だが今は、そんな事を考えている暇はなかった。
藤崎が皿の上から飛び降りると、甲斐は藤崎の服を掻き集めて渡す。
ソースが付いてねとねとの身体で、とりあえず服を身に着けた。甲斐が藤崎の手を引っ張って、入ってきた階段を駆け上がり、その店を飛び出す。
ビルの外はいつもと同じ、電飾に溢れた街の夜景が広がっていた。
この街の中にエイリアンが居て、人と入れ替わっている。
見分ける方法なんてあるのだろうか。
藤崎が傷つけたあの男は、皮膚の下が緑で虹彩が猫の瞳のようだったけれど、安斎係長の瞳は普通だったように思う。あの皮膚の下は、もしかしたら緑色をしているかもしれないが、いちいち怪しげな人間を捕まえて、怪我をさせる訳にもいかない。
人通りのある通りに出て、甲斐が藤崎の手を離した。
「悪かった。男を相手に気持ち悪いよな」
頬を掻いてそっぽを向く。
「えっと、いや、その、まあ…」
藤崎はどう返事をしていいか分からない。確かにシーヴとはそういう関係になったが、あのエイリアンは飽きたら部下に払い下げて、食わせて処分するような奴だった。
甲斐の方が、あんなエイリアンよりかましだ。断然ましだ。
「俺、頑張るよ」
今はまだ、何をどう頑張っていいのか分からないけれど。甲斐が眩しそうに藤崎を見て頷く。
「ひとまず、俺の所に来るか?」
そう提案されて頷いた。
しかし、甲斐と一緒に歩き出そうとした藤崎だが、薬が効いているのか、それとも先ほどの恐怖が今頃になってきたのか、膝がガクガクしてうまく歩けない。
甲斐は藤崎を近くの路地に連れて行って言う。
「ここで待ってろ。車を持ってくるから」
藤崎が頷くと走り去った。藤崎は甲斐の後姿を見送って、壁に寄りかかる。
エイリアンに払い下げられて、甲斐に助けてもらって、役立たずで、足手まといで、情けなさが込み上げる。
いっそ食われてしまった方が良かったか。
自己嫌悪に陥っていると、路地の奥から誰かが来る。
「……誰? 甲斐?」
じっと見詰める藤崎の瞳に、おぼろげな輪郭がやがてくっきりとした形をとる。
背の高い男だ。靴は踝まで足にぴったりで、後は編み上げ風に足に添っている。今日は闇にまがう黒い軍服姿で、黒いマントを羽織っていて、真ん中から分けた長い金色の巻き毛が流れ落ちている。
こんな薄暗い場所でも、それと分かる見事に整った美貌、碧い瞳の美丈夫。
男が藤崎の側まで来て、金の光がキラキラと零れた。
「シーヴ……」
(ごめん、甲斐。せっかく助けてくれたのに……)
整った無表情なシーヴの顔を見上げて、藤崎は恐ろしさより不思議な安堵感に包まれた。
自分を払い下げた男になのに。もう少しで藤崎は、エイリアンたちに食われそうだったのに。
藤崎を乱暴に抱き上げて、男は上空に指輪をかざす。光に包まれてあっという間にシーヴの船に着いた。
船で食べるのだろうか。ならば逃げることは出来ない。藤崎は殆んど諦めの中にいた。
相変わらず広い部屋に着いて、偉丈夫な連中が迎える。シーヴは藤崎を床に落とさなかった。片手で抱えたまま、自分の部屋に大股に歩いてゆく。
部屋に着いても投げ出さなかった。そのまま奥の部屋に連れて行く。
奥の部屋は普通のベッドルームになっていて、低くて大きなベッドが中央に置かれてある。
シーヴは藤崎を下ろさなかったので、光のシャワーは一緒に浴びた。そのままベッドに下ろされる。
「シーヴ……」
男を見上げて問うように名前を呼ぶ。
「払い下げたんじゃなかったのか?」
「何のことだ」
金髪のエイリアンはあまり表情を変えずに言う。分からない。だがシーヴは説明する気は無さそうだ。
長い金色の巻き毛が藤崎の頬を滑って落ちた。間近にある碧い瞳が、捉えるように藤崎を見ている。冷たいのか温かいのか、表情があるのかないのか、その瞳の奥で何を考えているのだろう。
藤崎には、シーヴが何を考えているのか皆目見当もつかない。
碧い瞳を見上げていると唇が下りてきた。額に目に頬に。優しいキスが段々激しくなる。
あの薬を飲んでいても、熱いのは身体の芯だけで、恐ろしさに震えていた。
でも今は、身体中がじんわりと熱を持っている。
藤崎はシーヴの身体に腕を回す。この男になら食べられてもいい。
しかし、シーヴの口にはギザギザの歯はないし、虹彩も猫のようにならないで、碧く澄んだままだ。
舌を絡めた濃厚なキスをされて、藤崎の息が上がる。
「ああ……、シーヴ……」
もう一度呼びかける。
それに答えるかのように、シーヴの指が藤崎の身体を這う。舌がそれを追いかけて、喉から胸、腹から脇へと官能の焔を灯してゆく。
身体をうつ伏せにされて、尻を持ち上げられた。尻を割ってシーヴの舌が奥に入ってくる。
そんな所を……。
奥の窄まりを舌がノックして、入ってくる。
「ああ…、ダメ……」
羞恥心で身体中が染まる。シーヴの舌で解され、藤崎の身体が蕩けてゆく。
やがて舌が出て行って、強靭なものが侵入を開始した。藤崎の身体をゆっくりと穿ってゆく。藤崎の身体を一杯にするものが、満ち満ちてくる。
「ああ……、どうしてこんなにイイんだ」
心も身体も蕩けてしまう。
シーヴがゆっくりと動き出す。藤崎の身体を強靭なもので徐々に激しく攻めてくる。
「ああ…ん、シーヴ……」
声を上げて男の名を呼んだ。
背後から好きなだけ揺さぶった男は、藤崎の身体を仰向けにして足を抱え、またグイグイと攻め立てる。
シーヴに揺さぶられている内に、藤崎はもう何も考えられなくなる。
ベッドの上をのたうって、何度も欲望を吐き出した。
熱が冷めない。欲しい。もっともっと。貪欲に求める。
「シーヴ……、シーヴ……」
うわ言のように、その名前を何度も呟いた。
奥の奥まで突き上げ、シーヴが欲望を吐き出す。
大きな波が何度も押し寄せて、頭の中が真っ白になって、訳が分からなくなった。
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