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五話 なぜ男なんだ、そして俺は
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藤崎が書いたSFにシーヴ・イェフォーシュというエイリアンが出てくる。金髪碧眼の美形でご丁寧に苗字まで同じときた。
しかし、何故、男なんだ。
藤崎が書いた話では美女だった筈だ。大体、テレビに映っていたシーヴはちゃんとした女性だった。藤崎は彼女の深い胸の谷間をまだ覚えている。
シーヴが女性なら、テレビで見た彼女なら、藤崎は喜んで尻尾でも何でも振っていたかも知れない。しかし目の前に居る奴は、どこからどう見ても男に見える。
男同士で愛し合うというのは、あの女流作家の作品の中だけでいい。考えるのも遠慮したい。
もしかして地球にまで来れるようなエイリアンだし、変身の技術とか持っているんだろうか。本当は女性だけど、夜道の一人歩きは危険だから、今だけ男の格好をしているのだろうか。
「あの、もしかしてシーヴさんは女性では……」
藤崎は恐る恐る目の前の金髪碧眼の美丈夫に聞いてみる。意味が通じるかと思ったが、シーヴはすぐに返事を寄越す。
「私は男だ」
藤崎の淡い期待は、あっさりとシーヴの一言で崩れ去った。
「お前たち人間は、我々を見て与し易しと思ったことだろう」
(という事は、この男があの美女に化けて地球人を騙くらかしていたのか!? こっちが本物なのか!?)
さぞかし鼻の下を伸ばした各国首脳が、お目出度かったことだろう。
シーヴは床に這い蹲ったままの藤崎の目の前に立つ。足の形にぴったり合った長靴は、踝から編み上げブーツのように男の足に絡み付いている。
ゆっくりと目を上げてゆくと、カーキのキラキラとモールと勲章を付けた軍服姿の体格のよい身体に金色の巻き毛が落ちていて、その上に真ん中から分けた長い金髪、碧い瞳の、どこからどう見ても非の打ち所のない顔が乗っかっている。
この男が女にも簡単に化けられるのなら、この姿も本来の姿とは違うのではなかろうか。きっと本当は二本足で歩く恐竜のラプトルのような恐ろしい姿をしているんだ。
だがシーヴは藤崎の考えが分かったかのように言ったのだ。
「上辺の形は気にしなくてよい。真実はもっと深くて単純なものだ」
シーヴが藤崎に手を伸ばす。逃れようと床を這いずったけど、あっさり掴まってしまった。
「や、止めてっ!! 食わないでっ!! 俺は不味いです」
悲鳴を上げてシーヴの腕の中で暴れる。しかし軽々と藤崎を抱き上げたシーヴは、腕を後ろに捻って抵抗を軽く封じて、次の間に向かう。
シーヴが部屋の奥にあるドアの形の前に立つとシュッとドアが開いた。
その部屋は薄暗くて二人が入っても灯りが点かない。何故か土と植物のにおいがした。
シーヴは藤崎をドサッと床に下ろした。湿って濡れたような床だ。粘土のような土と柔らかい植物。濃い緑色をしてもこもこと生えたそれは苔だろうか。部屋の形はいびつで、まるで大昔の竪穴のような穴倉だ。
近代的な宇宙船の中に、そのような土くれだらけの部屋があるなんて。
シーヴを振り返ると、彼は慣れた様子でスタスタと部屋の中の一点に歩んで佇んだ。すると天井から光が降り注いで、シーヴの纏っていた軍服が全て消えうせた。非常に美しい男の裸像が現れる。まるで彫刻のように均整の取れた肢体だ。
藤崎はごくりと唾を飲み込んだ。身体を反転させ、這うようにして洞穴の中を逃げだした。
狭いと思った穴はどこまでも続いている。追いついて来たシーヴが藤崎の上着を掴んだ。藤崎は背広を脱ぎ捨てて逃げる。またも追いつかれて、ズボンを掴まれる。殻から抜け出るようにズボンを脱ぎ捨てて男の手から逃れる。
シーヴはまるで狩でも楽しむように藤崎を追って来る。シャツの襟を掴まれて、ボタンが弾け飛ぶ。そのままシャツを引き千切られた。弾みで床に転がる。生えている苔の所為で身体は痛くないけれど、もう疲れて息が切れている。
ゼイゼイと息を吐くと「どうした、もう終わりか」低い美声がからかうように聞く。
藤崎はでこぼこの床の上をよろよろと這った。男の手が藤崎のパンツを掴んで、あっさり脱がす。いつの間にか靴も靴下も脱げ落ちて全裸になっている。
まだ藻掻く藤崎を抱え上げて、シーヴは更に穴倉の奥へと運ぶ。そしてまたも藤崎は投げ出された。
違っていたのは、そこが苔を集めて出来ていて、柔らかくてクッションが効いたまるでベッドのような所だったのと、藤崎を投げ出したシーヴが、すぐに乗っかかって来たことだった。
「ひっぎゃあ――!!!」
悲鳴を上げてジタバタと藻掻く。食われると思った。命の危険を感じると誰でも必死になる。藤崎は手も足も口も総動員して抵抗した。
「お前、男だろ!? 俺は男だぞ!! もっと美味そうな女にしろ。女の方が柔らかいぞ」
「女になりたいか」
低い美声が呟いた。藤崎の腕を掴んで引き摺る。床に投げ出された。その日何度目かと数える暇もなく、天井から光のシャワーが降りてくる。
シーヴが先ほど服を脱ぐ時に浴びていたシャワーだと気付く。案外近くにある。逃げ回ったような気がしたけれど、部屋の中をぐるぐると回っていただけかもしれない。
シャワーが終わると、目の前に光の壁のようなものが下りた。壁の向こうに床に座った女が映っている。裸の女だ。
藤崎がまじまじとその女を見ると、女もまじまじと藤崎を見返した。
歳は藤崎ぐらいか、色素が薄いのか色が白くて、短い髪も茶色掛かっている。グリーンと茶色の混ざったような淡い榛色の瞳が見開かれて、呆然と藤崎を見ている。
大人のくせに、まだ成熟していない堅いつぼみのような女だ。
どこかで見たような顔だと思っていると、シーヴが声をかける。
「もういいか?」
目の前の光のスクリーンが消えて、女の姿も消える。シーヴが藤崎の腕を取った。
「待てよ、今の女は……」
聞きかけて喉を押さえる。声が高い。まるで女の声のようだ。
「俺の声――」
シーヴは藤崎を抱き上げて、またも苔のベッドに放った。
「お前が望んだからだ。どちらでも大差ない」
藤崎の上に乗り上がってくる。身体を抱き締めて唇を啄ばんだ。長い金髪がサラリと藤崎の頬を掠めて落ちた。
「待てよっ! お、俺は女になったのか!?」
甲高い女の声で喚く。
どこかで見たことがあるも通り、あの女は藤崎自身に限りなくよく似ていた。
「元に戻りたいか?」
シーヴが耳に囁く。低い美声に身体がゾクッと震える。フッと笑って、シーヴは藤崎の耳を舌で弄ぶ。
「やっ…、あっ……」
ぞくぞくとした快感が背筋を這う。こんな感覚は知らない。
シーヴの手が藤崎の胸を掴んだ。膨れ上がった女のような胸をやわやわと揉み拉かれる。
「元に戻りたければ、少しは大人しくするんだな」
耳元で男が囁いた。指が乳首を探し当てる。摘んで弄ばれて、親指で捏ねられて、何ともいえぬ快感で身体が痺れたようになる。
「やっ……、やめ…て……」
抗おうとする気持ちが、見知らぬ感覚に飲み込まれて負けそうになる。
「お前…ら…、くっ…、トカゲじゃ…ないのか……」
エイリアンはトカゲの筈だ。愛し合うことにしたけれど、本当に愛し合うことが出来るのか。経験のない藤崎は、話の中でそのシーンを割愛していた。
だがシーヴは美しい顔を心持傾けて言ったのだ。
「何の事だ?」
しかし、何故、男なんだ。
藤崎が書いた話では美女だった筈だ。大体、テレビに映っていたシーヴはちゃんとした女性だった。藤崎は彼女の深い胸の谷間をまだ覚えている。
シーヴが女性なら、テレビで見た彼女なら、藤崎は喜んで尻尾でも何でも振っていたかも知れない。しかし目の前に居る奴は、どこからどう見ても男に見える。
男同士で愛し合うというのは、あの女流作家の作品の中だけでいい。考えるのも遠慮したい。
もしかして地球にまで来れるようなエイリアンだし、変身の技術とか持っているんだろうか。本当は女性だけど、夜道の一人歩きは危険だから、今だけ男の格好をしているのだろうか。
「あの、もしかしてシーヴさんは女性では……」
藤崎は恐る恐る目の前の金髪碧眼の美丈夫に聞いてみる。意味が通じるかと思ったが、シーヴはすぐに返事を寄越す。
「私は男だ」
藤崎の淡い期待は、あっさりとシーヴの一言で崩れ去った。
「お前たち人間は、我々を見て与し易しと思ったことだろう」
(という事は、この男があの美女に化けて地球人を騙くらかしていたのか!? こっちが本物なのか!?)
さぞかし鼻の下を伸ばした各国首脳が、お目出度かったことだろう。
シーヴは床に這い蹲ったままの藤崎の目の前に立つ。足の形にぴったり合った長靴は、踝から編み上げブーツのように男の足に絡み付いている。
ゆっくりと目を上げてゆくと、カーキのキラキラとモールと勲章を付けた軍服姿の体格のよい身体に金色の巻き毛が落ちていて、その上に真ん中から分けた長い金髪、碧い瞳の、どこからどう見ても非の打ち所のない顔が乗っかっている。
この男が女にも簡単に化けられるのなら、この姿も本来の姿とは違うのではなかろうか。きっと本当は二本足で歩く恐竜のラプトルのような恐ろしい姿をしているんだ。
だがシーヴは藤崎の考えが分かったかのように言ったのだ。
「上辺の形は気にしなくてよい。真実はもっと深くて単純なものだ」
シーヴが藤崎に手を伸ばす。逃れようと床を這いずったけど、あっさり掴まってしまった。
「や、止めてっ!! 食わないでっ!! 俺は不味いです」
悲鳴を上げてシーヴの腕の中で暴れる。しかし軽々と藤崎を抱き上げたシーヴは、腕を後ろに捻って抵抗を軽く封じて、次の間に向かう。
シーヴが部屋の奥にあるドアの形の前に立つとシュッとドアが開いた。
その部屋は薄暗くて二人が入っても灯りが点かない。何故か土と植物のにおいがした。
シーヴは藤崎をドサッと床に下ろした。湿って濡れたような床だ。粘土のような土と柔らかい植物。濃い緑色をしてもこもこと生えたそれは苔だろうか。部屋の形はいびつで、まるで大昔の竪穴のような穴倉だ。
近代的な宇宙船の中に、そのような土くれだらけの部屋があるなんて。
シーヴを振り返ると、彼は慣れた様子でスタスタと部屋の中の一点に歩んで佇んだ。すると天井から光が降り注いで、シーヴの纏っていた軍服が全て消えうせた。非常に美しい男の裸像が現れる。まるで彫刻のように均整の取れた肢体だ。
藤崎はごくりと唾を飲み込んだ。身体を反転させ、這うようにして洞穴の中を逃げだした。
狭いと思った穴はどこまでも続いている。追いついて来たシーヴが藤崎の上着を掴んだ。藤崎は背広を脱ぎ捨てて逃げる。またも追いつかれて、ズボンを掴まれる。殻から抜け出るようにズボンを脱ぎ捨てて男の手から逃れる。
シーヴはまるで狩でも楽しむように藤崎を追って来る。シャツの襟を掴まれて、ボタンが弾け飛ぶ。そのままシャツを引き千切られた。弾みで床に転がる。生えている苔の所為で身体は痛くないけれど、もう疲れて息が切れている。
ゼイゼイと息を吐くと「どうした、もう終わりか」低い美声がからかうように聞く。
藤崎はでこぼこの床の上をよろよろと這った。男の手が藤崎のパンツを掴んで、あっさり脱がす。いつの間にか靴も靴下も脱げ落ちて全裸になっている。
まだ藻掻く藤崎を抱え上げて、シーヴは更に穴倉の奥へと運ぶ。そしてまたも藤崎は投げ出された。
違っていたのは、そこが苔を集めて出来ていて、柔らかくてクッションが効いたまるでベッドのような所だったのと、藤崎を投げ出したシーヴが、すぐに乗っかかって来たことだった。
「ひっぎゃあ――!!!」
悲鳴を上げてジタバタと藻掻く。食われると思った。命の危険を感じると誰でも必死になる。藤崎は手も足も口も総動員して抵抗した。
「お前、男だろ!? 俺は男だぞ!! もっと美味そうな女にしろ。女の方が柔らかいぞ」
「女になりたいか」
低い美声が呟いた。藤崎の腕を掴んで引き摺る。床に投げ出された。その日何度目かと数える暇もなく、天井から光のシャワーが降りてくる。
シーヴが先ほど服を脱ぐ時に浴びていたシャワーだと気付く。案外近くにある。逃げ回ったような気がしたけれど、部屋の中をぐるぐると回っていただけかもしれない。
シャワーが終わると、目の前に光の壁のようなものが下りた。壁の向こうに床に座った女が映っている。裸の女だ。
藤崎がまじまじとその女を見ると、女もまじまじと藤崎を見返した。
歳は藤崎ぐらいか、色素が薄いのか色が白くて、短い髪も茶色掛かっている。グリーンと茶色の混ざったような淡い榛色の瞳が見開かれて、呆然と藤崎を見ている。
大人のくせに、まだ成熟していない堅いつぼみのような女だ。
どこかで見たような顔だと思っていると、シーヴが声をかける。
「もういいか?」
目の前の光のスクリーンが消えて、女の姿も消える。シーヴが藤崎の腕を取った。
「待てよ、今の女は……」
聞きかけて喉を押さえる。声が高い。まるで女の声のようだ。
「俺の声――」
シーヴは藤崎を抱き上げて、またも苔のベッドに放った。
「お前が望んだからだ。どちらでも大差ない」
藤崎の上に乗り上がってくる。身体を抱き締めて唇を啄ばんだ。長い金髪がサラリと藤崎の頬を掠めて落ちた。
「待てよっ! お、俺は女になったのか!?」
甲高い女の声で喚く。
どこかで見たことがあるも通り、あの女は藤崎自身に限りなくよく似ていた。
「元に戻りたいか?」
シーヴが耳に囁く。低い美声に身体がゾクッと震える。フッと笑って、シーヴは藤崎の耳を舌で弄ぶ。
「やっ…、あっ……」
ぞくぞくとした快感が背筋を這う。こんな感覚は知らない。
シーヴの手が藤崎の胸を掴んだ。膨れ上がった女のような胸をやわやわと揉み拉かれる。
「元に戻りたければ、少しは大人しくするんだな」
耳元で男が囁いた。指が乳首を探し当てる。摘んで弄ばれて、親指で捏ねられて、何ともいえぬ快感で身体が痺れたようになる。
「やっ……、やめ…て……」
抗おうとする気持ちが、見知らぬ感覚に飲み込まれて負けそうになる。
「お前…ら…、くっ…、トカゲじゃ…ないのか……」
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