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二話 話と似た事件

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 こうして藤崎のパソコンにはどんどん話が増えていった。
 その日も藤崎は話を書いていた。



 地球に来たエイリアンは実はトカゲが進化した種で、人類を家畜化して地球を乗っ取る計画だったのだ。

 話が進んで、一息入れるためにテレビをつけると、ニュースをやっている。
 どこかで見たような女の顔がテレビに映った。誰だったかと考えている間に、テレビが女の名前を告げる。

『今日午前二時ごろ、作家の園城寺翠子さんが――』
 あの女流作家だった。
『頭を怪我して死んでいるのが見つかり――』

 藤崎が書いた死に方と若干違うようだが、死んでいることに変わりはない。
 まさか――。藤崎はパソコンの中の話を公開していないし、誰にも話していない。誰も読めない筈だ。何でだ。偶然の一致だろうか。

 その日はさすがに気味が悪くなって、もう書く気になれなかった。藤崎は、そのままパソコンを閉じた。

 会社は相変わらずで、係長の安斎は今日も藤崎を捕まえてぐちぐちと零す。いつもと変わらない。それが藤崎には変に嬉しかった。

 だがその日、アパートに帰ってテレビをつけると、例のいけ好かない俳優が死んだと報じたのだ。
 それも、藤崎の書いた死に方と若干違うが事故死だった。


  ***

 格調高い訳の解らん文章を書く女流作家、園城寺翠子は死んでしまった。

 藤崎朔也はファンタジー好きだ。だから、ファンタジーと銘打ったその本を買った。しかし、その本はやたら美形の男がぞろぞろ出てくるわ、話は読めないわで壁に投げてしまった。お金と時間を帰せという気分である。

 八つ当たりのように自分の書いた話の中で、その気に入らない女流作家を殺され役に回したら、どういう訳か話を書いて一週間も経たない内に、園城寺翠子が本当に死んでしまった。

 おまけに、もう一人の殺され役の荻野目允といういけ好かない俳優まで死んでしまった。

 藤崎はその事件が薄気味悪くて仕方がない。新聞や週刊誌やネットの記事を漁って、その後の経過を調べた。
 その後の警察の捜査によって、編集者の一人が逮捕されたと新聞が報じると、藤崎はもう居ても立っても居られなくなる。



「ちゃんと考えて仕事をしているのかい」
 安斎係長のいつものぐちぐちが聞こえてきて、藤崎はハッと自分の思いを振り払った。

「申し訳ありません」
 納入日に合わせて製品が仕上がるよう手順を組んでいたのに、当の安斎係長から横槍が入って、そちらに取り掛かっていたら間に合わなくなったのだ。

「この前も言ったじゃないか」
 いつも言われているし、藤崎だってちゃんと仕上がるよう組んでいた。

「何回同じ事を言えばいいんだ」
 女子社員は藤崎に言われたことと、安斎係長に言われたことと、どちらを優先してよいか迷う。やりかけの仕事を放って他の作業をすれば、ただでさえ狭い仕事場がごちゃごちゃになって訳が分からなくなる。

 作業が遅れるばかりか、違う部品を間違えて取り付けてしまったりもする。
 それらが全て藤崎の所為にされる。女子社員だって藤崎が目の前で何度も叱られれば、藤崎の事を信用しなくなる。

 社員を少しでも育てようと思っているのだろうか。そんな叱り方をして、社員が育つだろうか。新人社員の藤崎にはそんな事は分からない。
「申し訳ありません」
 と頭を下げながら、ただただ、情けなくなるばかりだ。


 八つ当たりなら安斎係長を犠牲者にすればいいのだが、小心な藤崎は虚構とはいえ自分の身の回りに居るような人間を充てる事は出来なくて、見知らぬ女流作家を犠牲者に当てたのだ。それがこんな事になるなんて。

 だがまだ、藤崎の所為と決まった訳じゃない。

 その日の新聞で、その編集者は外車を乗り回したり、女性作家と付き合って派手に遊び回ったりと分不相応な派手な生活をして、借金に首が回らなくなった。
 その日も、園城寺翠子に借りた金を返す返さないで揉めて、金銭貸借のもつれから犯行に及んだ。

 死因は、揉み合った弾みに家具に頭をぶっつけて、打ち所が悪かった為という記事を見て、藤崎は自分の書いたものと若干違うことにホッとして溜め息を吐く。

 記事には、はじめはその場に居た人が口裏を合わせて事故に見せかけようとしたが、不審に思った警察に追い詰められて、犯人が犯行を自供したとあった。


 一方、俳優の荻野目允の事故死は、隣に既婚の大物女優が乗っていたのがばれて、スキャンダルに発展した。

『彼は私に一緒に死んでくれと言いました』
 と大物女優は主張する。しかし、遺族はそんな事はないと真っ向から反対する。週刊誌の格好のネタになった。

 記事は遺族と女優の間で二転三転したが、警察の化学分析による捜査の結果、運転していた俳優の荻野目允の手やハンドルに、女優のしていた絹手袋の繊維が付着していたことが明らかになった。観念した女優が別れ話を切り出され、カッとなってやったと自白した。

 藤崎の書いた話とやはり若干違う。事実というものは、人が考え出したものよりも何倍も奥が深くて面白いと、藤崎はしみじみ思ったのだ。


 藤崎が現在書いている話はSFだった。現実に起こる話とも思えない。

 喉元過ぎれば熱さを忘れるというが、会社で毎日安斎係長の苛めの標的にされている藤崎には、話を書く事で憂さを晴らすことが必要だった。
 藤崎はしばらくぶりにパソコンの電源を入れ、話の続きを書いた。



 金髪碧眼の美しいエイリアンの艦隊司令長官シーヴ・イェフォーシュとの愛欲に溺れていた藤崎だが、彼女らがトカゲから進化した生物で、人類を家畜化する計画だと知って、シーヴに止めて欲しいと哀願する。

 愛する恋人の頼みだが、命令を受けてこの地に赴任して来たシーヴは、命令に逆らうわけには行かないと云う。

 藤崎は愛するエイリアンの彼女と決別して、人類を救うために立ち上がる。

 だが、地球の指導者たちはエイリアンに上手く操作され、藤崎の事を相手にしない。反ってエイリアンに知られ、藤崎は付け狙われるようになった。

 だが、エイリアンたちに不審を持つ者も居たのだ。自分の両親がエイリアンに連れ去られ帰って来ないという男が、エイリアンに付け狙われる藤崎を救った。
 その男は――。


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