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磯崎、独り言
しおりを挟む「ねえ、どう思う?」
直樹が磯崎に思い出したようにそう聞いてきたのは年が明けてからだった。
「倉庫にさ、冷凍モノを広げていたんだ。お歳暮だよ。着く前に解けて不味くなるんじゃないかな。苦情が来たらどうするんだろう」
前髪の奥の黒い綺麗な瞳が心配そうに磯崎を見る。
「気をつけるんだな、苦情が来たらメーカーの所為にされる」
「まさか、老舗のデパートなんだよ。それに広げていたのは配送する運輸会社の倉庫で……」
「スーパーだったら千円のモノを三千円で売るようなところだからな。まあ、贈られた側はあまり苦情を言ってこないが」
「ふうん、じゃあ嫌いな上司とか、うるさい取引先とかに贈ればいいわけだ」
綺麗な瞳がニコと笑った。あの男の事でも考えたのか。
直樹があの男と一緒に居るのを見たのは何時だったか。磯崎の知らない男だった。あれは誰なのか。
一応、好きな会社に行けと言ったが、直樹は自分がどれだけ人目を引いているかという事に無頓着で、ともすれば自分を過小評価する嫌いがある。特に最近は、何気なく見上げたその顔でさえもハッともう一度目を向けてしまうほどだというのに。
これもそれも全部自分が育て上げたからだと磯崎は思っている。せっかくこれだけ綺麗にしたのに他の奴に取られるのはつまらないことだった。
磯崎は直樹と一緒にいた男の素性を聞いた。何と直樹の会社の上司だと言う。どういう事だ。直樹が入る会社はチェック済みであった。おかしな男は居なかった筈だが。
その男、景山の事を調べてみると、直樹がはじめて相手をしたユエンという中国系の男の息のかかった男だった。直樹の勤務先を調べて巧妙に送り込んできたのだ。
まだ直樹に未練があるらしい。
おまけに向こうも磯崎が邪魔と見えて、あの手この手の邪魔をしてきた。縁談がその一歩だった。相手は取引先の企業のオーナーの娘だった。断るよりも踏み台にする。それが磯崎のやり方だが直樹が嫌がってそれは実現しなかった。次に来たのが磯崎も関わった海外の子会社のトラブルだった。育て上げて管理職を任せられる程になっていた社員を引き抜かれてしまったのだ。
これはヤバイ。直樹を放って現地に行かなくてはならない。早急に子会社を立て直す必要があった。何も言わずに行くことは不安だがそんな暇はなかった。それに直樹に弱みを見せたくない。景山という男に見張りだけ置いて出て行くが、直樹は誘惑に弱いから心配だった。
磯崎は現場で陣頭指揮を取って混乱を拭い、代わりの人間の人選を断行した。
しかし、やはりというか、やっとの思いでトラブルを解決して磯崎が帰ったときには、直樹は罠にかけられた後だった。磯崎は間に合わなかった。いや、間に合ったのか。
どちらにしても磯崎を怒らせたのは確実だった。目には目をだ。ユエンがオーナーをしている会社にトラブルを起こして追い返してやった。だがこれぐらいで済むと思うなよと磯崎は思っている。仕返しはきっちりする男だった。
磯崎があれこれ算段しているとベッドの上で直樹が呼んだ。綺麗な身体を開いて催促している。
俺を愛しているくせに意地っ張りな奴だ。
「え、何か言った?」
直樹が磯崎の首に腕を回して聞いてくる。
「いや、何でもない」
磯崎はニヤリと笑って直樹をベッドに押し倒した。
終
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想像してたのよりかなりインモラルなお話で驚きましたがすぐに引き込まれました。
直樹が花開いてきましたね。
今後の展開を楽しみにしております