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03 現実世界は厳しいのだ
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翌朝になったら目が覚めているかと思ったが、相変わらず豪華なベッドで目を覚まし、豪華な食堂で食事をし、綺麗に磨かれて学校へ行く。
しかし、家の中は文句ないほど立派だが、玄関のドアを開けると、庭は相変わらず草ぼうぼうで、馬車もない。夢だったのかと家の中を見ればキンキラキンだ。
そういうものかと諦めて、侍女に「行ってらっしゃいませ」と見送られて玄関を一歩出ると、現実に引き戻される。
乗合馬車に乗って学校に行くしかない。
いつものヨレヨレの制服ではなく、綺麗な制服で髪をハーフアップに結いリボンを付けて薄く化粧したまま学校に行った。さあ、見直して頂戴、と心の中で願ったが意地悪グループは余計に意地悪になった。
「何よ、その恰好」
「どこで泥棒したの」
学校の事務長も意固地になった。
「そんなお金があるなら、さっさと寄付金を出しなさい!」
足を引っ掛けられ、転んだところを水をかけられ、ドロドロになってみんなに笑われて、やっと家に帰った。
玄関に入ると鏡が玄関に居た。
『ちょっと何だよ、あんた。その恰好、呆れるぞ』
「うっく……」
鏡を見た途端泣きたくなった。私だって綺麗にしたかった。折角綺麗になったのにこんな事をされて惨めで、惨めで心が折れそう。
「仕方ないじゃない、だって私んちはみすぼらしい男爵家で、没落しそうなほど貧乏で、それなのに私はこんなに可愛くて魔力は沢山あるし。だからみんなでやっかんで苛めるの」
『へえ、そうなんだ? 許せないのだ』
鏡は低い声になって、しばらくの沈黙ののち言った。
『じゃあ、あんた、これ持って行け』
私の手にポトンと手鏡が落ちる。
「これ」
『あんたに乱暴狼藉なんぞ許せるか。目にもの見せてやる』
こんな手鏡ひとつでどうなるものでもあるまいに。まあいいか、少しは苛めが止んでくれないかしら。
お屋敷に一歩入ると我らの世界だ。侍女は至れり尽くせりだし、ドレスは素晴らしいしお茶にお菓子に申し分ない。
「ねえ、このドレス売っちゃいけないの」
『ボクのドレスが気に入らないと申すか、ケチをつける気か』
「違う違う。我が家はお父様が投資に失敗して借金だらけで没落しそうなの」
『没落か、それは気の毒だ』
そして金貨が鏡からどっちゃりと出て来たのだ。
「わあ、徹底的に甘やかしてくれるわね。でもこれはいらないわ、自分で何とかしなくちゃあね」
鏡に甘えっぱなしではダメ人間になると思うのよね。自分でできることは何とか頑張らなくちゃあ。頑張ってもこの様だけど。
『ボクはここが気に入った。ショバ代として払ろうて取らす』
「でも鏡さん。もう、それ以上の事をしていただいています」
この夢のような生活だけで十分に満たされている。癒されている。
『よいのだ。ボクは強大な魔術師だった。時の国王がボクの力を恐れて、この鏡に封じ込めたのだ。あれから何百年経ったろうか。あんたに呼ばれて王宮の宝物庫からやっと出られたが、最早ボクの姿も形も影もない。これらはボクにはもう用のないものだ。使える者が使うがよかろう』
「でも、侍女さんは?」
『侍女は使い魔だ。お前は魔力が多い。これぐらいの使い魔など造作なく維持できるであろう』
「そうなのね。ありがとう」
『ついでにボクが魔法も教えてやろう』
まあ、何て素敵な鏡さんなのだろう。もっと早くお会いしたかったわ。
それで両親と話し合って借金を返す事にした。借金は利子も増えて何倍かになっていて、払ってしまうと残りはわずかだった。
「これは領地に回して役立ててもらおう」
と、お父様が言って、すっからかんになった。いっそ潔い。
学校に行くとクラスの意地悪グループに相変わらず虐められる。
「まだ学校に来るの」
「いい加減で辞めたらどう」
「そうよ、退学しなさい」
リボンを引っ張って、髪を引っ張って、制服を引っ張って小突き回して足蹴にしようとする。すると制服のポケットから手鏡がポロンと転がり落ちた。
慌てて鏡を拾おうとすると手を踏ん付けられる。でも今の私には鏡の方が大事。
その時、手鏡がぴかりと光った。
「なんだろう」
びっくりしていると、空から鏡がボトボト降って来る。
『自分の顔を見なさい。自分が今どんな顔をしているか。どんなに醜い顔をしているか、見るのだーーー!!』
意地悪グループは目の前の鏡で自分の顔を見た。
「「「うっ、ぐっ!!」」」
吐き気を催すその顔に彼女たちは「「「オエッオエッ!」」」と嘔吐きながら逃げて行った。そんなに吐くほど自分の顔が酷かったのかね。
落ちた鏡を拾い集めて持って帰ることにする。売れる、と思ったのは内緒だ。
さらにしばらくして、お父様の借金の原因である、投資をした船が無事に難を逃れて帰って来たのだ。たくさんの荷物を載せて。
男爵家は鏡さんのお金ですっかり借金を払い終えていた。投資の儲けがドーンと丸々転がり込んできたのだ。そのお金で馬車と馬を購入し馬丁を雇い、庭師を雇い、屋敷はすっかり見違えるほどになった。
だがお父様は家族を心配させ苦労させたことを肝に銘じたのか、それ以降賭けのような危険な投資は止めて、堅実なものに替えた。小さな商会を作って近隣の国と堅実な交易を始めた。
私は鏡さんに魔法を教えて貰い、火、水、風、土の四つの基本の属性魔法が使えると鏡さんに褒められた。
しかし、家の中は文句ないほど立派だが、玄関のドアを開けると、庭は相変わらず草ぼうぼうで、馬車もない。夢だったのかと家の中を見ればキンキラキンだ。
そういうものかと諦めて、侍女に「行ってらっしゃいませ」と見送られて玄関を一歩出ると、現実に引き戻される。
乗合馬車に乗って学校に行くしかない。
いつものヨレヨレの制服ではなく、綺麗な制服で髪をハーフアップに結いリボンを付けて薄く化粧したまま学校に行った。さあ、見直して頂戴、と心の中で願ったが意地悪グループは余計に意地悪になった。
「何よ、その恰好」
「どこで泥棒したの」
学校の事務長も意固地になった。
「そんなお金があるなら、さっさと寄付金を出しなさい!」
足を引っ掛けられ、転んだところを水をかけられ、ドロドロになってみんなに笑われて、やっと家に帰った。
玄関に入ると鏡が玄関に居た。
『ちょっと何だよ、あんた。その恰好、呆れるぞ』
「うっく……」
鏡を見た途端泣きたくなった。私だって綺麗にしたかった。折角綺麗になったのにこんな事をされて惨めで、惨めで心が折れそう。
「仕方ないじゃない、だって私んちはみすぼらしい男爵家で、没落しそうなほど貧乏で、それなのに私はこんなに可愛くて魔力は沢山あるし。だからみんなでやっかんで苛めるの」
『へえ、そうなんだ? 許せないのだ』
鏡は低い声になって、しばらくの沈黙ののち言った。
『じゃあ、あんた、これ持って行け』
私の手にポトンと手鏡が落ちる。
「これ」
『あんたに乱暴狼藉なんぞ許せるか。目にもの見せてやる』
こんな手鏡ひとつでどうなるものでもあるまいに。まあいいか、少しは苛めが止んでくれないかしら。
お屋敷に一歩入ると我らの世界だ。侍女は至れり尽くせりだし、ドレスは素晴らしいしお茶にお菓子に申し分ない。
「ねえ、このドレス売っちゃいけないの」
『ボクのドレスが気に入らないと申すか、ケチをつける気か』
「違う違う。我が家はお父様が投資に失敗して借金だらけで没落しそうなの」
『没落か、それは気の毒だ』
そして金貨が鏡からどっちゃりと出て来たのだ。
「わあ、徹底的に甘やかしてくれるわね。でもこれはいらないわ、自分で何とかしなくちゃあね」
鏡に甘えっぱなしではダメ人間になると思うのよね。自分でできることは何とか頑張らなくちゃあ。頑張ってもこの様だけど。
『ボクはここが気に入った。ショバ代として払ろうて取らす』
「でも鏡さん。もう、それ以上の事をしていただいています」
この夢のような生活だけで十分に満たされている。癒されている。
『よいのだ。ボクは強大な魔術師だった。時の国王がボクの力を恐れて、この鏡に封じ込めたのだ。あれから何百年経ったろうか。あんたに呼ばれて王宮の宝物庫からやっと出られたが、最早ボクの姿も形も影もない。これらはボクにはもう用のないものだ。使える者が使うがよかろう』
「でも、侍女さんは?」
『侍女は使い魔だ。お前は魔力が多い。これぐらいの使い魔など造作なく維持できるであろう』
「そうなのね。ありがとう」
『ついでにボクが魔法も教えてやろう』
まあ、何て素敵な鏡さんなのだろう。もっと早くお会いしたかったわ。
それで両親と話し合って借金を返す事にした。借金は利子も増えて何倍かになっていて、払ってしまうと残りはわずかだった。
「これは領地に回して役立ててもらおう」
と、お父様が言って、すっからかんになった。いっそ潔い。
学校に行くとクラスの意地悪グループに相変わらず虐められる。
「まだ学校に来るの」
「いい加減で辞めたらどう」
「そうよ、退学しなさい」
リボンを引っ張って、髪を引っ張って、制服を引っ張って小突き回して足蹴にしようとする。すると制服のポケットから手鏡がポロンと転がり落ちた。
慌てて鏡を拾おうとすると手を踏ん付けられる。でも今の私には鏡の方が大事。
その時、手鏡がぴかりと光った。
「なんだろう」
びっくりしていると、空から鏡がボトボト降って来る。
『自分の顔を見なさい。自分が今どんな顔をしているか。どんなに醜い顔をしているか、見るのだーーー!!』
意地悪グループは目の前の鏡で自分の顔を見た。
「「「うっ、ぐっ!!」」」
吐き気を催すその顔に彼女たちは「「「オエッオエッ!」」」と嘔吐きながら逃げて行った。そんなに吐くほど自分の顔が酷かったのかね。
落ちた鏡を拾い集めて持って帰ることにする。売れる、と思ったのは内緒だ。
さらにしばらくして、お父様の借金の原因である、投資をした船が無事に難を逃れて帰って来たのだ。たくさんの荷物を載せて。
男爵家は鏡さんのお金ですっかり借金を払い終えていた。投資の儲けがドーンと丸々転がり込んできたのだ。そのお金で馬車と馬を購入し馬丁を雇い、庭師を雇い、屋敷はすっかり見違えるほどになった。
だがお父様は家族を心配させ苦労させたことを肝に銘じたのか、それ以降賭けのような危険な投資は止めて、堅実なものに替えた。小さな商会を作って近隣の国と堅実な交易を始めた。
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