3 / 4
03 現実世界は厳しいのだ
しおりを挟む
翌朝になったら目が覚めているかと思ったが、相変わらず豪華なベッドで目を覚まし、豪華な食堂で食事をし、綺麗に磨かれて学校へ行く。
しかし、家の中は文句ないほど立派だが、玄関のドアを開けると、庭は相変わらず草ぼうぼうで、馬車もない。夢だったのかと家の中を見ればキンキラキンだ。
そういうものかと諦めて、侍女に「行ってらっしゃいませ」と見送られて玄関を一歩出ると、現実に引き戻される。
乗合馬車に乗って学校に行くしかない。
いつものヨレヨレの制服ではなく、綺麗な制服で髪をハーフアップに結いリボンを付けて薄く化粧したまま学校に行った。さあ、見直して頂戴、と心の中で願ったが意地悪グループは余計に意地悪になった。
「何よ、その恰好」
「どこで泥棒したの」
学校の事務長も意固地になった。
「そんなお金があるなら、さっさと寄付金を出しなさい!」
足を引っ掛けられ、転んだところを水をかけられ、ドロドロになってみんなに笑われて、やっと家に帰った。
玄関に入ると鏡が玄関に居た。
『ちょっと何だよ、あんた。その恰好、呆れるぞ』
「うっく……」
鏡を見た途端泣きたくなった。私だって綺麗にしたかった。折角綺麗になったのにこんな事をされて惨めで、惨めで心が折れそう。
「仕方ないじゃない、だって私んちはみすぼらしい男爵家で、没落しそうなほど貧乏で、それなのに私はこんなに可愛くて魔力は沢山あるし。だからみんなでやっかんで苛めるの」
『へえ、そうなんだ? 許せないのだ』
鏡は低い声になって、しばらくの沈黙ののち言った。
『じゃあ、あんた、これ持って行け』
私の手にポトンと手鏡が落ちる。
「これ」
『あんたに乱暴狼藉なんぞ許せるか。目にもの見せてやる』
こんな手鏡ひとつでどうなるものでもあるまいに。まあいいか、少しは苛めが止んでくれないかしら。
お屋敷に一歩入ると我らの世界だ。侍女は至れり尽くせりだし、ドレスは素晴らしいしお茶にお菓子に申し分ない。
「ねえ、このドレス売っちゃいけないの」
『ボクのドレスが気に入らないと申すか、ケチをつける気か』
「違う違う。我が家はお父様が投資に失敗して借金だらけで没落しそうなの」
『没落か、それは気の毒だ』
そして金貨が鏡からどっちゃりと出て来たのだ。
「わあ、徹底的に甘やかしてくれるわね。でもこれはいらないわ、自分で何とかしなくちゃあね」
鏡に甘えっぱなしではダメ人間になると思うのよね。自分でできることは何とか頑張らなくちゃあ。頑張ってもこの様だけど。
『ボクはここが気に入った。ショバ代として払ろうて取らす』
「でも鏡さん。もう、それ以上の事をしていただいています」
この夢のような生活だけで十分に満たされている。癒されている。
『よいのだ。ボクは強大な魔術師だった。時の国王がボクの力を恐れて、この鏡に封じ込めたのだ。あれから何百年経ったろうか。あんたに呼ばれて王宮の宝物庫からやっと出られたが、最早ボクの姿も形も影もない。これらはボクにはもう用のないものだ。使える者が使うがよかろう』
「でも、侍女さんは?」
『侍女は使い魔だ。お前は魔力が多い。これぐらいの使い魔など造作なく維持できるであろう』
「そうなのね。ありがとう」
『ついでにボクが魔法も教えてやろう』
まあ、何て素敵な鏡さんなのだろう。もっと早くお会いしたかったわ。
それで両親と話し合って借金を返す事にした。借金は利子も増えて何倍かになっていて、払ってしまうと残りはわずかだった。
「これは領地に回して役立ててもらおう」
と、お父様が言って、すっからかんになった。いっそ潔い。
学校に行くとクラスの意地悪グループに相変わらず虐められる。
「まだ学校に来るの」
「いい加減で辞めたらどう」
「そうよ、退学しなさい」
リボンを引っ張って、髪を引っ張って、制服を引っ張って小突き回して足蹴にしようとする。すると制服のポケットから手鏡がポロンと転がり落ちた。
慌てて鏡を拾おうとすると手を踏ん付けられる。でも今の私には鏡の方が大事。
その時、手鏡がぴかりと光った。
「なんだろう」
びっくりしていると、空から鏡がボトボト降って来る。
『自分の顔を見なさい。自分が今どんな顔をしているか。どんなに醜い顔をしているか、見るのだーーー!!』
意地悪グループは目の前の鏡で自分の顔を見た。
「「「うっ、ぐっ!!」」」
吐き気を催すその顔に彼女たちは「「「オエッオエッ!」」」と嘔吐きながら逃げて行った。そんなに吐くほど自分の顔が酷かったのかね。
落ちた鏡を拾い集めて持って帰ることにする。売れる、と思ったのは内緒だ。
さらにしばらくして、お父様の借金の原因である、投資をした船が無事に難を逃れて帰って来たのだ。たくさんの荷物を載せて。
男爵家は鏡さんのお金ですっかり借金を払い終えていた。投資の儲けがドーンと丸々転がり込んできたのだ。そのお金で馬車と馬を購入し馬丁を雇い、庭師を雇い、屋敷はすっかり見違えるほどになった。
だがお父様は家族を心配させ苦労させたことを肝に銘じたのか、それ以降賭けのような危険な投資は止めて、堅実なものに替えた。小さな商会を作って近隣の国と堅実な交易を始めた。
私は鏡さんに魔法を教えて貰い、火、水、風、土の四つの基本の属性魔法が使えると鏡さんに褒められた。
しかし、家の中は文句ないほど立派だが、玄関のドアを開けると、庭は相変わらず草ぼうぼうで、馬車もない。夢だったのかと家の中を見ればキンキラキンだ。
そういうものかと諦めて、侍女に「行ってらっしゃいませ」と見送られて玄関を一歩出ると、現実に引き戻される。
乗合馬車に乗って学校に行くしかない。
いつものヨレヨレの制服ではなく、綺麗な制服で髪をハーフアップに結いリボンを付けて薄く化粧したまま学校に行った。さあ、見直して頂戴、と心の中で願ったが意地悪グループは余計に意地悪になった。
「何よ、その恰好」
「どこで泥棒したの」
学校の事務長も意固地になった。
「そんなお金があるなら、さっさと寄付金を出しなさい!」
足を引っ掛けられ、転んだところを水をかけられ、ドロドロになってみんなに笑われて、やっと家に帰った。
玄関に入ると鏡が玄関に居た。
『ちょっと何だよ、あんた。その恰好、呆れるぞ』
「うっく……」
鏡を見た途端泣きたくなった。私だって綺麗にしたかった。折角綺麗になったのにこんな事をされて惨めで、惨めで心が折れそう。
「仕方ないじゃない、だって私んちはみすぼらしい男爵家で、没落しそうなほど貧乏で、それなのに私はこんなに可愛くて魔力は沢山あるし。だからみんなでやっかんで苛めるの」
『へえ、そうなんだ? 許せないのだ』
鏡は低い声になって、しばらくの沈黙ののち言った。
『じゃあ、あんた、これ持って行け』
私の手にポトンと手鏡が落ちる。
「これ」
『あんたに乱暴狼藉なんぞ許せるか。目にもの見せてやる』
こんな手鏡ひとつでどうなるものでもあるまいに。まあいいか、少しは苛めが止んでくれないかしら。
お屋敷に一歩入ると我らの世界だ。侍女は至れり尽くせりだし、ドレスは素晴らしいしお茶にお菓子に申し分ない。
「ねえ、このドレス売っちゃいけないの」
『ボクのドレスが気に入らないと申すか、ケチをつける気か』
「違う違う。我が家はお父様が投資に失敗して借金だらけで没落しそうなの」
『没落か、それは気の毒だ』
そして金貨が鏡からどっちゃりと出て来たのだ。
「わあ、徹底的に甘やかしてくれるわね。でもこれはいらないわ、自分で何とかしなくちゃあね」
鏡に甘えっぱなしではダメ人間になると思うのよね。自分でできることは何とか頑張らなくちゃあ。頑張ってもこの様だけど。
『ボクはここが気に入った。ショバ代として払ろうて取らす』
「でも鏡さん。もう、それ以上の事をしていただいています」
この夢のような生活だけで十分に満たされている。癒されている。
『よいのだ。ボクは強大な魔術師だった。時の国王がボクの力を恐れて、この鏡に封じ込めたのだ。あれから何百年経ったろうか。あんたに呼ばれて王宮の宝物庫からやっと出られたが、最早ボクの姿も形も影もない。これらはボクにはもう用のないものだ。使える者が使うがよかろう』
「でも、侍女さんは?」
『侍女は使い魔だ。お前は魔力が多い。これぐらいの使い魔など造作なく維持できるであろう』
「そうなのね。ありがとう」
『ついでにボクが魔法も教えてやろう』
まあ、何て素敵な鏡さんなのだろう。もっと早くお会いしたかったわ。
それで両親と話し合って借金を返す事にした。借金は利子も増えて何倍かになっていて、払ってしまうと残りはわずかだった。
「これは領地に回して役立ててもらおう」
と、お父様が言って、すっからかんになった。いっそ潔い。
学校に行くとクラスの意地悪グループに相変わらず虐められる。
「まだ学校に来るの」
「いい加減で辞めたらどう」
「そうよ、退学しなさい」
リボンを引っ張って、髪を引っ張って、制服を引っ張って小突き回して足蹴にしようとする。すると制服のポケットから手鏡がポロンと転がり落ちた。
慌てて鏡を拾おうとすると手を踏ん付けられる。でも今の私には鏡の方が大事。
その時、手鏡がぴかりと光った。
「なんだろう」
びっくりしていると、空から鏡がボトボト降って来る。
『自分の顔を見なさい。自分が今どんな顔をしているか。どんなに醜い顔をしているか、見るのだーーー!!』
意地悪グループは目の前の鏡で自分の顔を見た。
「「「うっ、ぐっ!!」」」
吐き気を催すその顔に彼女たちは「「「オエッオエッ!」」」と嘔吐きながら逃げて行った。そんなに吐くほど自分の顔が酷かったのかね。
落ちた鏡を拾い集めて持って帰ることにする。売れる、と思ったのは内緒だ。
さらにしばらくして、お父様の借金の原因である、投資をした船が無事に難を逃れて帰って来たのだ。たくさんの荷物を載せて。
男爵家は鏡さんのお金ですっかり借金を払い終えていた。投資の儲けがドーンと丸々転がり込んできたのだ。そのお金で馬車と馬を購入し馬丁を雇い、庭師を雇い、屋敷はすっかり見違えるほどになった。
だがお父様は家族を心配させ苦労させたことを肝に銘じたのか、それ以降賭けのような危険な投資は止めて、堅実なものに替えた。小さな商会を作って近隣の国と堅実な交易を始めた。
私は鏡さんに魔法を教えて貰い、火、水、風、土の四つの基本の属性魔法が使えると鏡さんに褒められた。
70
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~
アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

公爵令嬢は見極める~ある婚約破棄の顛末
ひろたひかる
恋愛
「リヨン公爵令嬢アデライド。君との婚約は破棄させてもらう」――
婚約者である第一王子セザールから突きつけられた婚約破棄。けれどアデライドは冷静な態度を崩さず、淡々とセザールとの話し合いに応じる。その心の中には、ある取り決めがあった。◆◆◆「小説家になろう」にも投稿しています。

それでも好きだった。
下菊みこと
恋愛
諦めたはずなのに、少し情が残ってたお話。
主人公は婚約者と上手くいっていない。いつも彼の幼馴染が邪魔をしてくる。主人公は、婚約解消を決意する。しかしその後元婚約者となった彼から手紙が来て、さらにメイドから彼のその後を聞いてしまった。その時に感じた思いとは。
小説家になろう様でも投稿しています。


【短編】将来の王太子妃が婚約破棄をされました。宣言した相手は聖女と王太子。あれ何やら二人の様子がおかしい……
しろねこ。
恋愛
「婚約破棄させてもらうわね!」
そう言われたのは銀髪青眼のすらりとした美女だ。
魔法が使えないものの、王太子妃教育も受けている彼女だが、その言葉をうけて見に見えて顔色が悪くなった。
「アリス様、冗談は止してください」
震える声でそう言うも、アリスの呼びかけで場が一変する。
「冗談ではありません、エリック様ぁ」
甘えた声を出し呼んだのは、この国の王太子だ。
彼もまた同様に婚約破棄を謳い、皆の前で発表する。
「王太子と聖女が結婚するのは当然だろ?」
この国の伝承で、建国の際に王太子の手助けをした聖女は平民の出でありながら王太子と結婚をし、後の王妃となっている。
聖女は治癒と癒やしの魔法を持ち、他にも魔物を退けられる力があるという。
魔法を使えないレナンとは大違いだ。
それ故に聖女と認められたアリスは、王太子であるエリックの妻になる! というのだが……
「これは何の余興でしょう? エリック様に似ている方まで用意して」
そう言うレナンの顔色はかなり悪い。
この状況をまともに受け止めたくないようだ。
そんな彼女を支えるようにして控えていた護衛騎士は寄り添った。
彼女の気持ちまでも守るかのように。
ハピエン、ご都合主義、両思いが大好きです。
同名キャラで様々な話を書いています。
話により立場や家名が変わりますが、基本の性格は変わりません。
お気に入りのキャラ達の、色々なシチュエーションの話がみたくてこのような形式で書いています。
中編くらいで前後の模様を書けたら書きたいです(^^)
カクヨムさんでも掲載中。

はじめまして婚約者様 婚約解消はそちらからお願いします
蒼あかり
恋愛
リサには産まれた時からの婚約者タイラーがいる。祖父たちの願いで実現したこの婚約だが、十六になるまで一度も会ったことが無い。出した手紙にも、一度として返事が来たことも無い。それでもリサは手紙を出し続けた。そんな時、タイラーの祖父が亡くなり、この婚約を解消しようと模索するのだが......。
すぐに読める短編です。暇つぶしにどうぞ。
※恋愛色は強くないですが、カテゴリーがわかりませんでした。ごめんなさい。

悪役令嬢を彼の側から見た話
下菊みこと
恋愛
本来悪役令嬢である彼女を溺愛しまくる彼のお話。
普段穏やかだが敵に回すと面倒くさいエリート男子による、溺愛甘々な御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる