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その4
しおりを挟む目が覚めると実家のベッドに寝ていた。
ドアがノックされて侍女が入って来る。
どうしてまた、巻き戻ったのだろう。生き返ったのだろう。
侯爵邸に行くとスタンリー様が出迎えてくれた。嬉しそうに出迎えられて首を傾げる。手を取られて驚く。
粗相があってはいけないんだった。慌てて澄ました顔を作る。
「イヴリン、私は君を殺していない」
開口一番にそれを言うか。そういえば前回は何も言わなかったし、記憶が無かったのだろうか。
「──、わ、私もあなたを殺していませんわ」
ちゃんと無実だと私も言う。しかし、スタンリー様は真実を知っていた。
「ケネスだ、ケネスがやったんだ。もう侯爵領の飛び地に追い払った。遠い島だし船の便もないし帰って来れない」
そういえば私は苺酒をあのままテーブルに置いて行ったっけ。
侯爵家の食品は厳重に管理されている。お酒もボトルの蓋を開けるまで食品庫の中にある。ただ、サイドボードのブランデーは時々スタンリー様が飲んでいた物で、それを知っている人は限られる。
苺酒は実家のサマヴィル伯爵家から送って来た物で、私の好物だとケネスがわざわざ侍女に渡したとか──。
誰が犯人か私でも分かる。
スタンリー様を殺して私を犯人にする。
私を殺してスタンリー様を犯人にする。
そして侯爵の地位を我が物に──。
スタンリー様はケネスにすでに遺産分けをしており、侯爵家の跡取りにする積もりはなかったのだ。ケネスはかなりの悪人で、スタンリー様も私も躊躇なく殺した。そんな男を跡取りには出来ない。
スタンリー様は私と結婚して何年か経ってから、跡取りの養子を迎えることにしていたようだが。
「君の恋人だが──」
「え……?」
「良縁を世話させてもらった」
「あ……」
恋人じゃないわ、あんな毒をくれるような奴。
「私たちの間を邪魔することもないだろう」
「はあ」
恋人じゃないあの男に毒を渡したのもケネスかもしれない。
分からないけれど、学生がそんな簡単に毒を入手出来ないと思うのだ。私達の白い結婚の事も知っていたし。まあ、もう関係ないわ。
「そういう訳で──」
「はい」
「ちゃんと結婚して、ちゃんと初夜をしよう」
「はい??」
私の声は裏返った。
どうしたんだ。どうなったんだ。ウソでしょ。
◇◇
そして、前回と同じように結婚した。
違っていたのは旦那様が豹変してしまった事だ。
「君を蕩けさせてあげるよ。イヴリンはあの男と何もなかったんだな」
「当たり前です」
私が元気に返事をしたのはここまでだった。
「君の唇は美味しそうだ」
「どうだこの肌、吸い付いて離れない」
「こんなに可愛いのに、どうして触らずにいられたのか」
ベッドの上で男の手に身体が踊っている内に事が進む。
くたびれ果ててベッドの上。知らなかった、こんな事をするなんて。物凄い格闘技のような運動ではないか。
イヤと喚いても、ダメと縋っても止めてくれない。ケダモノ。
ああ、何なんだろう。この負けた気分は。
「なかなかいいものだな。これは」
ベッドに沈んだ私の髪の毛を、一房手に取って満足げに遊んでいる黒髪薄青の瞳の色気たっぷりのこの男は、何処のどなただろう。
いや、だってあなたが私に懇々と説明したじゃない。あれは何だったの。どうしてこんな百八十度方向転換するの。出来るの。
付いて行けない。
翌日、侯爵家の召使たちが次々にお祝いを言ってくれて、恥ずかしくて、尚更いたたまれない。
まあそれから、ポロポロ三人子供を産んで、ついでにやりたい事をやって、なかなか幸せな人生を生きている。
どの子も可愛いけれど、長男がとてもいい子で、賢くて、どうもこの子に強力な加護があるようだ。両親揃って愛し合っていないとちゃんと育たないそうで、この子のお陰かもしれないと思っている。
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