上 下
12 / 12
同盟パーティー編

 3

しおりを挟む


 同盟記念パーティー、当日。

「私が美人なのは認めるけど、皆、考えすぎだと思うのよね」

 朝から風呂に入って念入りにしたくをして、夕方、侍女の手を借りてドレスを着つけ終わったカリンはゆるく首を振りながら寝室を出た。

「ライ、お待たせ。準備ができたわ」

 居間と食堂を兼ねる部屋では、すでに白い神官服に着替え終えたライアンが待っていた。長椅子に座り、本を広げている。

「はい、ではまいりましょうか……」

 本を閉じ、ライアンはこちらを見て、ぽかんとした。
 今日のカリンは、赤をメインに、黒いリボンを使った大人っぽいシックなドレス姿だ。スカートはマーメイドなので、黒いストッキングをはいた足が綺麗に見えるので気に入っている。長い黒髪はきちんと結い上げて、黒いレースがついた赤い花飾りでとめた。
 小ぶりのアクセサリーと、婚約指輪は忘れない。

「ライ、かっこいいわね」

 神官の盛装はたいして変わらないから見慣れているが、前髪を上げているライアンは珍しいので、カリンはよく見ようとライアンに近づく。

「カリンさんって、美人なんですね」

 たった今、初めて気づいたという顔でライアンがつぶやく。
 カリンはわずかに首を傾げた。

「お前の目は節穴か、それとも今更気づくなんて馬鹿。どっちで怒ればいい?」
「綺麗な人だとは思ってましたけど、好きになってから数倍可愛く見えるんですよね。どうしたらいいでしょうか」
「それ、本人に聞かないでよ。照れるでしょ」

 さしものカリンも動揺し、顔を赤くする。他の人間ならリップサービスだと思うが、ライアンみたいな純粋な男は、本気で言っていると分かるだけに。
 カリンは気を取り直し、ふふっと笑う。

「まさかライと婚約するなんて思わなかったわ。みんな、驚くでしょうね」
「周りの反応より、魔物のことが心配です。僕の傍から離れないでくださいよ」
「適当にあいさつしたら、早めに撤退しましょ」
「それがいいですね。いつも通り」

 平民出のカリンとライアンには、パーティー会場は居心地が悪い。

「キラキラお姫様って憧れだったけど、社交は苦手だわ。あれ、楽しい人はいるのかしら」

「楽しいとは思いませんが、情報収集と人を紹介してもらうにはちょうどいい場ですよね。勇者一行の旅でも、宴会でだいぶ利用させていただきましたし。カリンさんは飲み食いしてるだけでしたけど」

「ちゃんと女性から噂を拾ってきたでしょ。仕事だと思えばがんばれるわよ。でも、いつものことになったら、苦行じゃない?」

 我らが女王陛下リリーアンナをすごいと思うのは、社交の花として君臨していることだ。
 輝かしいだけでなく、噂で他人を持ち上げたり貶めたりと、影も付きまとう世界だ。
 カリンは着飾るのは嫌いではないが、楽しくもないのに笑顔で武装するのは気疲れするから面倒だった。
 一方で、ライアンは社交に溶け込んで、情報を集めるのが上手い。神殿という場所で集団生活をしているだけあって、気づけば他人の懐に入っているのは見事というほかなかった。

「お時間でございます。会場までご案内いたします」

 ノックの音がして、廊下から女官が声をかける。

「さあ、行きましょうか」
「まいりましょう」

 カリンはライアンの左腕に、するりと右手をからめる。
 そして二人は、戦場に飛び込むような面持ちで、客室を出た。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

【完結】夫は王太子妃の愛人

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。 しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。 これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。 案の定、初夜すら屋敷に戻らず、 3ヶ月以上も放置されーー。 そんな時に、驚きの手紙が届いた。 ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。 ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

記憶をなくしたあなたへ

ブラウン
恋愛
記憶をなくしたあなたへ。 私は誓約書通り、あなたとは会うことはありません。 あなたも誓約書通り私たちを探さないでください。 私には愛し合った記憶があるが、あなたにはないという事実。 もう一度信じることができるのか、愛せるのか。 2人の愛を紡いでいく。 本編は6話完結です。 それ以降は番外編で、カイルやその他の子供たちの状況などを投稿していきます

処理中です...