断片の使徒

草野瀬津璃

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本編

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 よく分からないうちに、また仲間が増えた。

 しかも、心なしか、啓介・ピアス・サーシャリオン・フランジェスカ組と、修太・コウ・グレイ組に分かれているような気もする。

 いや、啓介・ピアス・フランジェスカ組で、修太・サーシャリオン・コウ・グレイ組か? とりあえずグレイはこっち側だな。黒いし。コウは俺に懐いてるし、サーシャリオンはどっちか分からん。でもモンスターだし、黒竜だし、やっぱこっちか? ……黒いし。

「なんか俺らだけ真っ黒黒で、悪の使者みたいだな、コウ……」

 宿の部屋、ベッドに腰かけ、足元に伏せているコウに話しかけると、コウは「クウン?」と首を傾げた後、珍しく修太から声をかけたことに喜んで、パッと身を起こして尻尾を振った。

「ヲンウォンウォフッ」

 歌うように何か小さく吠えるのに、少女姿のまま、ベッドにだらしなく寝そべったまま、サーシャリオンが通訳する。

「親分と一緒なら、どんな悪の道でもお供します! だそうだぞー……」
「こいつ、まだ俺のこと親分呼ばわりしてんのか……」

 なんか急激に疲れてきた。
 修太は深い溜息を吐き、キラキラと黄色い双眸で見つめてくる鉄狼を見て、たまには歩み寄ってやろうと思い、なんとなく頭を撫でてやる。結構ふかふかしてて、柔らかい毛をしている。これが、戦闘態勢になると針状になるのか。

(今度、どこかで洗わないとな……)

 灰色の毛が、砂埃でやや黒みがかってきている。明日、市場で石鹸を見繕っておこう。
 毛を切れば鉄に変わるらしいとはいえ、ノミなどの虫がついていたら、宿の人に迷惑になるだろうから。

「悪の使者か、面白い例えだな。我が国なら貴様は悪であることだし」
「うるせーな。独り言に口出すな」

 部屋の入口横に置かれた机で、酒瓶を傾けているフランジェスカが、馬鹿にするように言うので、修太はきっちり睨み返した。窓の外はすでに暗いが、今日は双子月の姉月の方が満月なので、フローライトからの祝福でポイズンキャット化していないのだ。

 大部屋に泊まっているので、寝台が並んだ部屋にいる。女性と男性の間で申し訳程度の衝立を置いて仕切っているが、着替えをする際は部屋の外に出ることが暗黙のルールになっている。

 ピアスもいるが、今は風呂に行っているのでここにはいない。
 別部屋にしたかったが、祭りでどこも宿がいっぱいで、割りと値段のする大部屋ありの高級宿しかあいてなかったのだ。

 ちなみにグレイはここにはいない。王都で黒狼族が宿に泊まるのは危険だとかで、イェリ宅に滞在中だ。

 あんなに王都を毛嫌いしているのにまだいるんだなと訊いたら、都内観光をしているエンラとリンレイの面倒を見ているせいらしい。祭りが終わったら、家族の元に二人連れだって旅に出るそうなので、それまでは、危険地帯にうっかり立ち入ったり、厄介事に巻き込まれないように注意してやっていたりしたとか。

 同胞には甘い男だ。いや、見た目は無表情ながら、実は面倒見が良い性格をしているのかもしれない。

「なあ、俺は前から突っ込みたかったんだが、お前はそっち側でいいのか?」

 そっち側というのは、女性側でいいのかという意味だ。
 少女の姿をとっている性別不明のサーシャリオンに言うと、サーシャリオンは潰れた饅頭みたいに寝そべったまま、ちらりと視線をこちらに向ける。光の角度で青や銀や緑に見える不可思議な目には、面白そうな色が浮かんでいる。

「ケイも同じことを言っていたぞ。そなたら、本当に仲良しだな」
「誤魔化すな。いい加減、教えろ」

「ふふ。秘密だ。気にするな、本性は竜なのだ、人間の考えなど通用せぬ」
「そうだけどさあ」

 なんか納得いかん。

「別にどっちでもいいけど、スカートでそんな風に寝転ぶなよ。行儀悪いぞ」

 行儀には人一倍うるさい母に育てられたので、修太も最低限の行儀にはうるさい。寝台に腰かけてはいるが、布団はきちんと畳まれ、荷物も整理整頓されている徹底ぶりだ。

「そなた、我の父親か? 口うるさい奴め」
「うるせえな。俺の母親がここにいてみろ、はしたないって膝を叩かれるぞ」
「ふむ。しつけをきちんとする良い親御さんではないか」

「いーからしゃんとしやがれ」
「うー、ケイー、シューターが口うるさいぞー」

 目を三角にして怒ると、戻って来たばかりの、風呂上りの啓介に文句を言う。

「あはは。嫌だったら、変身して服装変えたら? 俺も、ブーツでベッドの上に上るのは感心しないよ」
「ここにも口うるさい親父が一人……」

「何か言った? 親父?」
「なんでもない!」

 一瞬にして啓介が冷やりとした冷気をまとい、サーシャリオンはがばっと身を起こして否定した。
 薄らと漏れた殺気は修太も感じた。

 ――目が本気でしたよ、啓介さん。

 修太はどぎまぎと啓介をちら見する。親父臭いは啓介的にアウトらしい。幼馴染ながら知らなかった。
 啓介は何事もなかったみたいに、濡れた髪をタオルで無造作に拭きながら、自分のベッドに腰かける。
 その何でも無い仕草にすらどことなく格好良さが見える。美形は何をしていても様になってねたまし……いや、羨ましい。ここに女性がいたら、注目の的だろう。

「明日は、物資の補給をしてから出立な。軽く調べてきたんだけど、セーセレティーには、隣のノーネムノムからの船に乗るか、双子山脈の北東にある街道を通るかのどっちからしいぜ」

 啓介は思い出したみたいに話を切り出した。
 調べてきたって、いつの間に。

「あら、セーセレティーへの行き方なら、あたしに訊いてくれたら早いのに」

 風呂から戻ってきたピアスが、扉越しに話が聞こえたのか、明るく口を挟んだ。白い部屋着に、長い銀髪を三つ編みにして束ねているのが新鮮だ。

「船より街道をすすめるわ。ノーネムノムには奴隷市場があるし、あの馬鹿王子の根城だから、王都より危険なのよ。定期船の振りした海賊に捕まって、そのまま市場に直行される、なんてのもざらよ? 余程信頼できる船でなきゃ、旅人は誰も乗らないわ。それでもいいんなら、船を使ってもいいけど」

「誰が使うか!」

 思わず修太は声を張り上げた。
 また海賊に捕まるなんてごめんだ。

「じゃあ街道ね。また隊商に一緒させて貰うか、護衛依頼受けるか、それかいっそのこと馬車を買うっていう手もあるわよ?」

 ピアスの話に、サーシャリオンが笑う。

「ああ、いらぬいらぬ。前は情報を得たいが為に隊商に同行したが、今回は、王都を出れば、我が下っ端に言って送らせるゆえ」

「……そういえば、モンスターに乗って移動するなんて非常識な真似してたわね、あなた達」

 合点したように、ピアスは呆れ混じりに呟く。

「それが早いかもね。馬より丈夫でしょうし。面白そうだから尚良し!」

 そんな納得の仕方でいいのか、ピアス。
 ほんとところどころ啓介と考え方が似てるな。
 そうでないと、気味悪がって終わりだからちょうどいいのかもしれない。

「決まりだな。――ああ、そうだ。フラン、てめえ、グレイと喧嘩したりすんなよ。まじで血の惨劇になるから」
「……何故、私がグレイ殿と喧嘩する?」

 果実酒の杯を傾けつつ、フランジェスカは怪訝に眉を寄せる。

「白教っていえば分かるだろ?」

「ああ、そういうことか。理解した。安心しろ、あちらがおかしな真似をせぬ限り、私は何もせぬ。だが警戒はしておけ。どことなく信用ならぬ男だ。気が付けば根首をかかれている、なんてこともあるやもしれぬしな」

 くつりと、物騒に笑うフランジェスカ。そんなことになっても、返り討ちにしてそうで怖い。

「そうかぁ? 結構親切な人だぞ。まあ顔は怖いけど」

 そうして、修太はちらっと啓介を見る。

「啓介はどう見る?」

 こいつは人を見る目があるので、こいつが大丈夫だと言えば、大丈夫なはずだ。

「普通に良い人だよ。俺にはそう見える」

 にこっと笑う啓介。

「大丈夫らしいぞ。俺からすれば恩人だからな、悪くは思えない。フランが気にするんなら、気にしておけばいい」

 そう言うと、修太はベッドの掛け布の間に潜り込む。

「じゃ、俺、疲れたから寝るわ。ほんともう、疲れっぽくて嫌になる……」

 魔力欠乏症になってから、寝る時間が少し早まった気がする。というか、光の魔法を使える啓介が傍にいない限りはランプを使うしかないので、日が沈んだらできるだけ早く寝て、朝日が出た頃に起きるようになったのだ。

「おう、おやすみー。あとはこっちで決めておくよ」
「よろしく」

 修太は一つ返事をし、掛け布を目元まで引き上げた。

     *

 日祭りが終わると、途端に王都の人数が減ったようだ。
 露店の数も減っている気がする。
 物資補給ついでに石鹸が無いかと探してみると、雑貨屋にあると露店の主は教えてくれた。――串焼き人数分と引き換えに。

 商売上手さに苦笑しつつも、ピリッと舌を刺激する香辛料がきいていておいしい。何の肉だかは知らないのが少し怖いが。
 大人数でぞろぞろ歩いていても仕方ないので、待ち合わせ場所をイェリの薬屋に決め、修太はコウとグレイと別行動をとることになった。

「あんたは買い出しはいいのか?」

 だいぶ上にあるグレイの顔を見上げて問うと、膝下までを覆う灰色のマント姿のグレイは、目深に被ったフードの下でこっちを見下ろした。身長差があるので、顔は見える。

「昨日、片付けておいた。煙草と酒が切れていたから、ついでにな」

「ふぅん。酒は少量は薬になるとして、煙草なんて害にしかならないのになあ。肺ガンの元だし、副流煙の害があるし。ああ、でも、煙草をたしなんでる人からすると、吸うなっていうのはきついだろうから強くは言わねえけど。ニコチン切れだーって親戚のおっさんがよく言ってた」

「…………」

 グレイは無言でこっちを見る。

「なんだ?」
「お前の言ってることは、さっぱり分からん。害があるのか?」
「え?」

 修太はきょとんとした。
 常識を語っただけなのだが、ここの人間にはさっぱり分からないと言われてしまったので、拍子抜けしてしまったのだ。

「あれ? ここってそんなに医療が遅れてんの? 煙草が害になるなんて普通だろ?」
「酒は聞くが、煙草は聞かんな」
「そうなんだ? でも煙を吸い込んでんだぜ? 体に悪いだろ、どう見てもさ」

 なあ、というように、足元をたったか歩く中型犬姿のコウに目を向けると、コウはよく分からないというように僅かに首を傾げた。
 僅かに考えるように黙り込んだグレイは、ややあって忠告をくれた。

「その分だと、知らんだろうから教えておいてやるが。煙草を吸ってる連中の煙には出来るだけ近付くな。俺の物はただの煙草だが、ときどき麻薬を混ぜて吸っている者もいる。そういう煙は害になる」

「え、そんなのあるの!?」

 びっくりした。
 麻薬なんてものまで出回ってるのか、この国。

「言っておくが、どの国でも常識だぞ。冒険者や兵士職の者に多いから、お前の常識に入れておけ。麻薬で死の恐怖を紛らわし、高揚した状態で戦いに赴く。昔からよくある話だ」

 俺には必要ないものだがな。
 うっそりとそう付け足し、グレイは口を閉じた。

(そうだったのか……。これは知らなかったな。ということは、酒場って結構危ない所だったのか。気を付けないとな)

 うっかり中毒にでもなっていたら困る。
 修太は真剣に思いつつ、露店の主に教えてもらった雑貨屋の前に立つ。扉は開いていて、営業中の札が取っ手に下がっている。

「いらっしゃい、こんにちは!」

 入口脇で待つようにコウに言ってから、修太は店に入る。するとすぐに明るい声が飛んできた。店主らしき女性だ。褐色の肌をしていて、頭にはベールを付けている。へそを出したキャミソールと裾がたっぷりした白いズボンをはいていた。この国特有の服装だ。

「あら、小さいお客さんねえ。何を探しにきたのかな?」

 腰をややかがめて、子どもに問いかける口調に修太は内心イラッとしつつ、返事を返す。

「石鹸を探してる。ここに置いてると教えてもらったんだが」

 店主は茶色い目をやや見開き、修太を疑うように見て、それから後ろにいるグレイを見て態度を戻す。

「あらら。お遣いかな? 石鹸って高価なのよ? 大丈夫?」

 金の心配をされているらしい。
 というか、石鹸って高価なのか。調味料といい、価値観がずれていて驚くことばかりだ。ちなみに、今まではオルファーレンが用意してくれていた荷物に入っていた石鹸を使っていたのだが、それがだいぶちびたので、こうしてここに来ているわけだ。

 あと、何故かピアスに、花の香りのものがあったら買って欲しいなって笑顔で頼まれた。

 ……確信犯だな、あいつ。

 ピアスの守銭奴ぶりを再認識しつつ、黙っていても仕方ないので、頷く。

「金なら平気。一個、大きさどれくらいで値段は幾ら?」

 店主はちらちらとグレイを見て、大丈夫なのかと思ったのか、品を見せてくれた。

(大きさは問題ないな。一個、1000エナか。ふーん、一万くらいか? 高価だと言うだけあって、高いな)

 箱の中の見本を見せて貰い、少し思案する。やや黄色みがかった白い固形物の他に、ハーブを混ぜている物と、シアネイゼの花を混ぜた物があり、ハーブと花の方は一個が1200エナだそうで少しだけ高い。
 正直、どれが良いのかよく分からない。

「シアネイゼの花って何?」

 分からないので、グレイに問うと、グレイはあっさり答える。

「香りの強い赤い花弁をした花だ。香水にもよく使われている」
「そうなんだ? ふーん」

 ピアスの言ってたのは、これでいいんだろうか。よく分からん。

(ピアスにだけ買うってのもな、サーシャはいいとして、フランにも買ってくか。あいつも一応、女だしな)

 その辺の男より男らしかろうと女だ。花の香りがして嫌な顔はしないだろう。多分。

「じゃあ、これとこれ一個ずつと、花のやつを二個下さい」
「4600エナになるわ」
「はい、釣り、よろしく」

 ポンチョ下から取り出したように見せて財布を指輪から取り出し、中を開け、十円玉くらいの大きさをした10000エナ金貨を一枚取り出す。オルファーレンが奮発してくれているので、ここまでで使った分を除いても、金貨だけで十枚以上はあるから、別に気にしない。金が足りなくなってきたら、エルフやモンスターから貰った品を売ればどうにでもなるだろう。

 とりあえず、品を買える場所にいるということが重要だ。
 レステファルテの市場は、世界のあらゆる物が揃うことで有名だという。裏を返せば、他の場所では欲しい品が買えないかもしれないということを指す。だから出し惜しみはしない。
 子どもがあっさり金貨を出したので、店員は目と口をぽかんと開け、慌てて頭を下げた。

「ただいまご用意いたします!」

 ついでに口調も丁寧になった。金の力ってすごい。



「ここって石鹸が高価なんだな。俺の所じゃ、一個が、ここでいう10エナ程度だからびっくりした。調味料も高いらしいし、驚いてばっかだ」

 イェリの薬屋へと雑踏の中を歩きながら、修太は物静かな連れに率直に感想を漏らす。

「俺はむしろ、あっさり金貨を出す方に驚いたがな。しかもあれは小娘……ピアスの頼みを聞いたんだろう? 少しは金に執着せんのか」

「必要経費だから気にしない。清潔にしておくのは大事だよ。石鹸があれだけ高いんなら、皆は普通どうしてんの?」

「水浴びして終わりだろう」
「え、髪が痛むんじゃね?」
「気にしたことはない」
「そっかー」

 それが普通の生活なら、そうなんだろう。だが、修太は石鹸を使って身綺麗にするのが普通なので、それは耐えられないのだ。水だけだと髪がごわごわするあの感覚は、男女の差なくいとわしいものだろうと思う。

 女子と違って化粧などしないから、髪型に命をかけているところが男子にはあるわけで。ワックス片手に鏡の前で一時間も髪のはねを整えるという同級生も身近にいた。流石に修太はそこまではしないが、髪を洗うのくらいはこだわる方だ。フローラルな香りのするシャンプーはお断り、くらいのこだわりはある。

「てか、紫ランクのあんたなら、金あるんじゃないの?」
「着々と貯まってはいるな。趣味はないから、せいぜい高い酒を買うくらいしかしないしな」

「盗賊が減って、金も貯まるんなら良い仕事だな。……いや、ごめん。危険と隣り合わせだから、笑って言うことじゃなかった」

 つい口を滑らせて、ひどい冗談を言ってしまった。危険度に見合うだけの報酬だろうから、修太が茶化せる余地はないはずだ。
 渋い顔をしていたら、グレイは淡々と返す。

「好きでこの仕事をしてるんだ。笑われてもどうも思わん」
「そう?」

 よく分からない御仁だ。顔から表情を読めないので、声色で判断するしかないが、特に怒っているわけでもなさそうなので、話を引っ込める。

 この人、顔は怖いし態度もおっかないけど、雰囲気は落ち着いた大人だからか、側にいる分には居心地が良い。官船にいた時はおっかなくて仕方なかったが、慣れっていうのは恐ろしいものだ。

 たぶん、一度助けてもらったことで、この人は自分を害したりしないという信頼感を勝手に抱いているだけなんだろう。それまでに会った人間がやばすぎた。フランジェスカとは和解したけれど、団長や海賊、白教徒のことは気にかかるものがある。

「啓介達、買い物終わったかな……?」
「さあな。――待て」

 ふいに隣を歩いていたグレイが左手を前に出して修太の歩みを止めた。
 何事かと足を止め、前を見ると、金髪金目をした褐色の肌の青年が一人立っていた。

「や。奇遇だねえ、こんな所で」

 軽いノリで片手を上げる青年。
 ジャックと豆の木。ふとその言葉を思い出す。いつしかの豆売りだ。
 だが、こんな所で奇遇なんてものが存在するんだろうか。訝しく思いつつ、じっと見上げる。

「……あの豆売りの人? ジャックとかいう」
「覚えててくれたんだ! お兄さん感激だ! ありがとうな、少年!」
「…………」

 大袈裟な動作で礼を言うジャックを前に、修太は身を引く。うわあ、うざっ。と、思ったのは内緒だ。

「……知り合いか?」

 グレイの胡散臭げな声に、一応は、と返す。

「あんたこそ、よく覚えてたな。ただの通りすがりの客を」

「そりゃあ覚えてるよ。君達とは商談したくてねえ、機会を伺っていたから。もう一人の指輪持ちは一緒じゃないんだな」

 誰かを探すような仕草をする。が、言葉の内容に修太は眉を寄せる。

(指輪持ち? 旅人の指輪のことを言ってるのか?)

 修太の持つ指輪など、それしかないからそうなんだろう。しかし、啓介の話を出すとは。

「……俺の連れに何の用? 商談って何の話……えっ」

 修太達の周りをぐるりと人が囲み、修太はぎょっとした。足元でコウが毛を逆立てて唸り始める。
 どいつもこいつも屈強そうな男達で、それを見た瞬間、日祭りの加護を得ているんなら嫌だなあと場違いにも思ってしまった。それくらいマッチョだらけだったのだ。……気持ち悪い。

「まあまあ、こんな所で話もなんだ。場所を変えようじゃないか」

 にっこり笑顔でそう言うジャックは、どこから見ても、うさんくさい商人の面をしていた。

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