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本編
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しおりを挟む眩しさとじりじりと焦がすような暑さに目を開けると、砂埃でかすんだ青空が見えた。
磯臭さと魚の生臭いにおいがごっちゃになって鼻につき、爽快な気分から一気に叩き落とされる。頭痛もするし気分悪いし、何より息苦しくて動けない。
(あー……なんでこうなってんだっけ)
修太が視線を彷徨わせると、黒服の男が視界に割り込んだ。
――ゾッとした。
すぐにそれがグレイという名の男だと思い出したが、一瞬、お迎えが来たかと思った。失礼だが、てっきり死神かと。
グレイは感情に乏しい、幽鬼のように不景気な面でこちらを見て、ぼそぼそとかすれ気味の声で問う。
「……気付いたか」
「……?」
気付いたってなんだ?
「覚えてないのか。お前はアストラテの街のオーガーを鎮め、その直後に倒れた。海側のオーガーだけとはいえ広範囲の街だ。一人でよくやったと言える」
ああ、思い出してきた。
啓介達と別れて一時間後くらいにアストラテに着いて、そこでオーガーの群れを鎮めたんだった。そうしないと、この船もまた沈没させられそうだったから。
修太はいまひとつ魔法をどう使っているのか分からないのだが、使うと体調が激烈に悪くなることだけは分かっている。
グレイの抑揚の無い声での言葉に、どうやら褒めているようだと修太は考える。まるで死亡宣告を出すかのような静かな調子だが、言葉から察するに。
(それにしても、やけに静かだな……)
重い頭を無理矢理もたげて周りを見ると、船員の姿がほとんど見当たらないのに気付く。せいぜい見張り番らしき男二人しか見当たらない。
「皆、残りのオーガー殲滅と復興協力の為に出払っている。あの海竜も、仕方ないから霧に帰すのを手伝うと一緒に出て行った。逆に混乱を招きそうな気がするがな」
「……あんたは残ってていいのか」
声をひねりだすと、グレイは頷いた。
「サマルに、お前をギルドに共に連れて行くように頼まれた。被害が深刻な為、もうしばらく駐留することになったらしい。兵舎に余裕はないし、疲れて殺気だってる兵士のいる場所に子どもを置いておけないそうだ。報酬とグインジエまで戻る金も貰ったし、あの魔物避けの娘が戻るまでの、お前の護衛依頼金も貰ったから問題ない」
「……。そうなんすか」
金で片付いているのが何とも複雑だが、見ず知らずの修太を助けた上に護衛依頼金まで払っているサマルの懐の広さに感心する。なかなかできることではないと思う。
「子ども一人をしばらく面倒見るくらいで、金なんぞいらなかったのだがな、押しつけられた。サマルは嘘吐きで態度は軽いが、その辺は真面目だ。お前、あいつが乗ってる官船と出くわして運が良かったな」
もしかして他の提督だとこうはいかないのか? 疑問をこめて眉を寄せると、正確に意味をつかんだグレイが続けて言う。
「他の奴らだと、こうはいかない。俺も格下に見られて面倒だしな」
淡々とした声だが、語尾は苦々しげだ。賊狩りと恐れられているらしいこの男でも苦渋をなめているのかと思うと、修太は不思議な感じがした。
修太はなんとか身をひねって横に転がると、床に両手をつけてどうにか体を起こそうと奮闘する。修太は薄い毛布の上に寝かせられていたようだ。手が布地を滑る上に、体が重くて腕が上がらない。すぐ側の手すりにもたれて座りたくてじたばたしていたら、グレイが修太の後ろ襟を掴んでひょいと持ち上げ、座らせてくれた。
……どうせ手を貸してくれるなら、もう少し丁寧に扱って欲しい。
「軍医から渡された。魔力混合水だそうだ」
試験管にコルクで栓をした水をグレイに渡され、修太は受け取ると、のろのろと栓を抜いて、水を飲む。頭痛が少し引いた気がしたが、まだ気分が悪いし、熱が出ているのかぼーっとする。
「支度してくるから、ここで待ってろ」
「……うん」
待ってろと言われても、動けないから待つしかない。修太は頷きを返した。そうして黒衣を翻して船室に向かうグレイを眺めながら、こんな暑い中で黒い服なんて暑くないのだろうかと思った。自分も黒服なことは忘れていた。
この間から背負われてばっかりだな……。
修太は遠い目をして、溜息をつきたいのをこらえた。流石に溜息をつくのは背負ってくれているグレイに悪い。
グレイの荷物は左手に持ったハルバートと、そのハルバートの先のほう、斧の反対にある鉤爪に引っかけられている革製の茶色いトランクくらいだ。トランクまで黒で統一することはできなかったらしい。それを言えば、ハルバートは鋼製だから鈍い鉄色だが。
アストラテは悲惨な有り様だった。
オーガーはエラ呼吸であるが、三十分程度なら水から出て動くことも出来るらしく、街を襲う時、オーガーは波とともに村や街を襲うのだという。オーガーが起こしたという津波で海側の家の損傷が激しく、瓦礫と化していないまでも穴があいていたり、一部崩れていたりして、更に海水であちこち水たまりができている。それ以上に、あちこちに落ちている何かの肉片や骨が修太の気分をがつんとへこませた。
動物のものだと信じたいが、官船に乗る前にサマルの部下が、死体や逃げ遅れた者をオーガーが餌にしていると言っていたのをはっきり聞いていただけに、喉の奥に何かが詰まったような不快感を覚える。
「―― 子ども。少し飛ばす」
急にグレイがぼそりと言い、ハルバートの柄を短く持ち直すと身を低くして走りだした。
人気の無い廃墟と化している街を走り抜けていくグレイ。ハルバートを軽々と扱う程に力があるだけでなく、足も速いらしい。背負われている感じ、肩や背中は引き締まっているし、筋肉がかたい感じだ。ちょっと羨ましい。
流れて行く景色に目を丸くしながら、修太は自問する。
(狼か? やっぱり狼なのか? 人間じゃなくて、狼人間とか?)
ただ立っていれば影のある静かな男だが、この男には狼か犬のような黒い尾があるのだ。啓介と違いファンタジーやオカルトには明るくない修太だが、狼人間というのが西洋の怪談で出てくるのは知っている。啓介の妹である雪奈に、狼人間が満月の夜に徘徊し人を襲うというスプラッタ映画に無理矢理同席させられたことがあった。
あの時の脅し文句はこうだ。
「シュウちゃんの髪の毛がここにあったりするんだけど。これ、藁人形に詰めて神社に行っていいかなあ? 実際に呪いって効くのか試してみたいんだよねえ」
その時、修太は、啓介と似たような綺麗な顔で微笑んで言うあの女に凄まじい恐怖を覚えた。薄ら寒さを覚え、速攻で、見るからやめるように怒鳴った。後々、呪う相手に呪うことを知られてはいけないのだと啓介から教えてもらった時は、心底ほっとしたものだ。
修太が敵に回したくないものナンバー2は雪奈だ。
啓介は面倒だけれど親友としても幼馴染としても最良の人間だが、雪奈は最低である。あんな最低な奴はそうそういない。とりあえず遠目に雪奈が見えれば逃げに走るし、雪奈が何か褒めるようなことを言えば裏があるだろうと危ぶむし、バレンタインデーにくれた義理チョコには毒が入っているのではないかと恐れおののく。恐ろしいのが、啓介のことになると雪奈の邪悪っぷりが増すことである。啓介へのストーカーを潰しているのはあいつだ。そんな雪奈のことを修太は心の中でこっそり魔女と呼んでいた。もちろん口には出さない。
啓介が聖人君子のような人間なら、妹の雪奈は天使の顔をした悪魔。ある意味、最強の兄妹だ。いったいどういう育ち方をするとああなるのか、修太は常々疑問に思っている。啓介の両親はどちらも温厚で優しい人達だから余計に。
廃墟地帯を抜けた所で、グレイは足を緩めた。低くしていた姿勢を真っ直ぐに戻す。
「……もういいか。オーガーは生臭いからかなわん」
どこか忌々しげな声だ。きっと表情に変化はないのだろうが。
「グレイの旦那って鼻が良いのか?」
「黒狼族はそんなものだ。……お前、あいつらの真似をするな」
僅かに振り返ったグレイの顔はやはり気だるげで感情に乏しいが、かすれ気味の声には苦々しい響きがあった。
修太はわずかに首を傾げ、呼び方のことかと思い問う。
「じゃあ、賊狩りグレイ?」
「それもよせ。子どもにその名で呼ばれる筋合いはないし、その呼び方自体好きじゃない。ギルドの連中が好き勝手に呼び出しただけで、俺がそう呼べと言ったわけではないからな」
「だったらどう呼べばいいんだよ」
あれも駄目これも駄目と、どうすればいいか分からなくなった。修太はこの物騒な男の機嫌を損ねる真似はしたくなかったから困り果てる。こんな子ども姿の修太くらい、海賊みたいに簡単に始末出来るだろう。いや、元の姿の時でも抵抗する暇すらなくあの世行きな自信はあるが。
「グレイでいい。ただのグレイだ。“グレイの旦那”でも、“賊狩り”でもない。俺は元からただのグレイだ」
ゆっくりと街の中を歩きながら、グレイはとつとつと言う。修太はますます困惑を濃くする。
「名前にただも高いもないだろ。変なこと言うんだな、あんた」
「黒狼族は生まれ落ちた時から名前だけを持ち、家名は持たない。一個の存在だ。群れて生きる人間には理解できないだろうがな」
そんなことを言われても、よく分からない。
「あんた、人間じゃないのか?」
修太の問いに、グレイの足が止まる。振り返ったグレイのほとんど表情の変わらない顔に、それと分かる程の驚きが介在していた。
「人間にそんなことを問われたのは初めてだ」
「……はい?」
ますます意味が分からない。
「子ども、お前、黒狼族をどんなものだと思っている?」
「思っているっていうか、どんなものか知らない。こくろう族というのも初めて聞いた」
「……荒野で死肉を漁り、生者を口無き者におとしめる尾を持ちし狩人。この言葉を聞いたことは?」
「なにそれ、ゾンビ?」
グレイは完全に言葉を失くした様子だった。唖然としたように言う。
「お前、変な奴だな」
「堂々と失礼なことを言わないでくれるか」
修太は憮然と眉を寄せる。
「人間の間では、黒狼族のことをそう呼んでいるらしい。見かけたら逃げろとな。お陰でいらぬ恐れを抱かれることもあるが……。まあ俺達は人間とは違うからな。恐れて当然だろう。灰狼族の連中よりは人間に近いが」
灰狼族? 意味の分からない単語がまた増えて、修太は内心でハングアップする。
「アストラテからもう少し西に行った所にある荒野の中に集落があってな、そのような拠点で子どもを産み育てるのは人間と同じだ。ただ、男は十三で成人し、集落を出て独り立ちするのがここいらの人間と違うところだな」
十三で成人して集落を出て行くって、すごいな。そんな生活をしていると、こういう殺伐とした大人になるわけか。修太はやや斜め三十度の理解のし方をして頷いた。
「黒狼族は女の方が優位でな、争いの種になりやすい男は邪魔なんだ。十三より上の男が集落にいる場合、それは長の伴侶だけだ。あとはそうだな、身体能力といい尾をもつことといい、人間とは明らかに違う。そして最も違うのが、目の色に貴色を持とうと、男は絶対に魔力を持って生まれないことだ。理屈は知らぬが、魔力を持つのは女だけだ。人間とは違うだろう?」
「そうなのか。まあそんだけ運動神経良けりゃ、魔法使えなくても困らねえから、いいんじゃないか」
「……理解していないというのは分かった」
グレイは短く息を吐いた。分かりにくいが、呆れたようだ。そんな気がする。
が、そこでふいにグレイはハルバートを真上へ突き上げた。鉤爪に引っかかっていたトランクが空高く跳ね飛ばされる。
「え」
修太が驚いたのも束の間、路地裏から飛びかかってきたオーガーをグレイは左手にしたハルバートの一閃で斬り捨てる。そしてその手を背に回して修太が落ちないように支えると、今度は右手を離して落ちてきたトランクの取っ手を掴む。
かと思えば、すかさずトランクを真横に薙ぎ、右手から突っ込んできた別のオーガーの横っ面を跳ね飛ばした。グシャッと何かが潰れる嫌な音がした。
二匹のオーガーは黒い霧へと変わったので、その何かの正体までは分からなかった。
「本当ににおう奴らだ。これなら香水や香辛料のほうがまだマシだ」
不快げにうなるグレイ。
確かに生臭いけれど、グレイが言うほどくさいとは思えない。修太からすれば、グインジエでかいだ町のにおいのほうがもっと酷かった。
「――しまったな。この調子だとギルドに入れるか分からん」
再びトランクをハルバートの鉤爪に引っかけると、ハルバートを右手に持ち替えてから、グレイは軽い足取りで駆けだす。
「ギルドが無事かも怪しくないか?」
「いや、冒険者ギルドにいる奴はモンスターにやられるたまじゃない。籠城してやり過ごしているだろう。ギルドマスターがいるなら、たいていは生き残れるもんだ」
「ギルドマスター……?」
「冒険者ギルドの長みたいなもんだ。その土地での顔役のような立場にいる者が多いな。冒険者ギルドに集まる冒険者は、いわば気ままな乱暴者だ。争いが起これば治めるだけの実力がないと務まらない」
なんか、ヤクザ者の親玉みたいな感じに聞こえるんだけど、気のせいか……?
修太は冒険者ギルドというのが急に不気味な場所に思えた。これから行く所なのに、どうしよ。
「あいつら、陸じゃ長く息できないんだろ? なんでこんな所まで出てきてるんだ?」
「己が滅ぶことすら分からないほど、狂っているんだろ。狂いモンスターは本当に性質が悪くて困る。宗教のせいで視野の狭いパスリル王国民並にな」
「…………」
うわ。今、なんかすごい嫌な予感がした。
グレイとフランジェスカを近付けたらいけないという、強烈な予感だ。グレイもフランジェスカも落ち着いているが、フランジェスカは気が強いし、厄介なことにグレイ相手でも太刀打ち出来るだけの戦闘力がある。二人が喧嘩になったら血の雨を見るだろうことは考えずとも予想がつく。
修太は自分を落ち着ける為に深呼吸をし、それとなく問う。
「グレイはあれか、パスリル王国民が嫌いなのか?」
「嫌いというより面倒だな。あいつらの黒嫌いは病気と言っていい。黒狼族は精神的なあり方として黒衣を身に着けるし、何より黒髪が多い。尾も黒い者が多いからな。黒だらけだから、白教徒に毛嫌いされるんだ。ただ黒服を着ているだけで、だぞ? やってられん。お前とて、〈黒〉だから苦労しただろう。白教徒はあちこちにいるからな。色改めの連中に見つかれば、そのまま連れ去られて殺される者もいると聞く」
鬱憤がたまっていたのか、グレイは淡々と愚痴を連ね、最終的に修太へ同情的なことを口にした。
ああ、これは言えない。
フランジェスカが実はパスリル王国民な上に白教徒で、初めて会った時に殺されかけたとか。
というか、何。パスリル王国を出れば安全だと思っていたが、勘違いだったわけ? 白教徒の人間ってあちこちにいるのか? それに、色改めってなんだよ。異端審問官みたいな感じか?
修太は口元が引きつって笑みに近いものを浮かべてしまう。笑えてきた。なんて面倒臭い場所なんだ、ここ。
修太が内心で頭を抱えている間も、グレイは襲いかかってきたオーガーの爪をかわし、ハルバートで斬り捨て、返すように柄の底で次のオーガーの喉を突く。転がったトランクを拾い、また走って、見つけたオーガーを倒す。背負っている修太のことなど荷物にもなっていないようだ。
その繰り返しで進み、アストラテの街の入り口に近い通りで、ようやく冒険者ギルドの建物に辿り着いた。
この辺まで来ると海から離れ過ぎてオーガーの姿は見当たらない。そして、避難して閉じこもっているらしい人間が、通りのあちこちで二階の窓からこちらを見ているのに気付いた。
「賊狩りかい、子どもなんか連れて、どうしたい。まさか隠し子かい」
笑みを含んだ声が上から降ってきた。
修太が上を見ると、開け放した窓辺に座って煙管をふかせている老人が意地の悪い笑みを浮かべてこっちを見ていた。白い麻の衣服の上に赤の上着を纏い、白い髪には緑のターバンをしている。褐色の肌をした面立ちは頬骨が浮いていて、赤茶色の目がぎょろりと覗いている。人相の悪い老人だが、笑みにはどこか親しみが感じられる不思議な魅力があった。思わず従ってしまうような、支配者のオーラを持つ人間。そんな感じだ。
「俺に子どもはいない。恋人も妻もいないのを知っているだろうに、何故そんなことを問う?」
グレイは本気で意味が分からなかったようで、とても不思議そうに問う。もちろん、表情に変化はない。
老人は苦い顔をする。
「へん、相変わらずつまらないガキだねえ。で、本当のところはどうしたよ」
「サマルに護衛を頼まれた。それより、ここを開けて欲しいんだが」
「子連れでか?」
「ここが一番安全だろう。コーラルの旦那がいるんだ」
コーラルと呼ばれた老人は、カカッと笑う。
「口が上手くなったな、小僧」
「真実を口にしただけだ。旦那本人が一番分かってるだろうに」
「ふん。オレは自分を褒める程うぬぼれてねえよ。仕方ない奴だな、おい、入れてやれ。ガキもだ」
コーラルが室内を振り返って誰かに言いつけると、しばらくしてギルドの扉が開いた。
グレイは修太を背負ったまま無言で扉をくぐる。二人がギルドに入ると同時に、扉側にいた男が扉に渡し棒をして封をしてしまう。
「助かった。朝からオーガーの相手ばっかりしていて、鼻がどうかなりそうだったんだ」
二階から降りてきたコーラルに礼ついでにぼやくグレイ。
「嗅覚の鋭さが、黒狼族の弱点だからな。こちとら楽でいいがね。腐った卵を投げつけてやればそれでいいからな」
「おい、勝手に討伐対象にしてくれるな。とち狂った仲間がいても、そいつは故郷の奴らに処断されるから安心しろ。なんなら俺が冥府に送ってやってもいい」
「お前は本当に情に欠けるな。少しは仲間が哀れだと思わんのか」
コーラルは呆れたように溜息を吐く。
「何故だ? 力に溺れるほうが悪い」
「……駄目だな、こりゃ」
額に手を当て、やれやれと首を振るコーラル。
それから気を取り直したように煙管を口に当て、煙を吸い込んでからゆっくりと吐きだす。じろりと赤茶色の目が修太を見据えた。
「――で、小僧。お前、なんて名前だい」
「塚原修太。修太でいいよ」
「おいおい、挨拶する時くらい背から降りたらどうだ。赤子じゃあるまいに」
眉を寄せるコーラルに、グレイが口を出す。
「この子ども、ここに来る前に海岸部にいたオーガーどもを鎮めたせいで倒れたばかりでな。これでだいぶ参ってるんだ。自力で立てないくらいにはな」
「そうかい。そりゃ悪いことを言った。だったらオレの部屋に来い。ここじゃ一番安全だ。何せ、オレの部屋だからな。長椅子くらい貸してやるよ」
さっきのグレイの言葉に繋げるようにして言い、コーラルは口端を上げる。
「恩に着る」
グレイが呟くように言うので、修太もやや慌てて言う。
「俺も。ありがとう、コーラルさん」
「おい、オレを呼ぶ時は“コーラルの旦那”だ。覚えとけよ、小僧」
「……はい。コーラルの旦那」
なにこの人達、面倒くせえ。
旦那と呼ぶなと言われたり、呼べと言われたり。どういう考えで言っているのか謎だ。
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