117 / 125
第三部 斜陽の王国
5
しおりを挟むそれから有紗は、ブレットに親しみを覚えて、自分から話しかけに行った。
ガーエン領を盛り上げる計画のことや、市場でちょうどいい作物を探すことなどを話し、ずばり切り出す。
「ねえねえ、ブレットさん。ガーエン領に帰ってこないの? レグルスの傍にいるべきよ!」
午餐の後に、有紗からの突撃をくらったブレットは迷惑そうに眉をひそめ、ため息をつく。
「アリサ様、その手には乗りません。殿下の不興を買わせて、追い出す気ですね?」
「違うわよ」
「それじゃあ、どういうつもりですか。私は警告したはずですが?」
「だってブレットさん、レグルスのことを大事に思っているじゃないの。私の仲間だわ!」
ブレットは、食堂でワインを飲んでいるロズワルドのほうを見た。
「カヴァナー卿がおられるじゃありませんか。親しくされては?」
「カヴァナーきょう?」
「ロズワルド・カヴァナー殿ですよ」
「あの人、そんな家名だったっけ。え、やだ。ロズワルドさんは私をにらんでくるし、暑苦しいもの」
有紗が拒否感をあらわにすると、ロズワルドがこちらを見た。
「これはこれは、お妃様。堂々と私の悪口とは、恐れ多いことでございますね」
「ほらー! 嫌味を言うでしょー!」
最初と違って、すっかりレグルスに傾倒しているのは良いとして、あんなに腹が立つ男はそういない。
「ブレット殿と親しくなられたのですか」
「いいえ!」
「……そこは社交辞令で、はいと言うところでは」
けげんそうにするロズワルドの常識的な意見は無視して、有紗は主張する。
「あのね、この人、レグルスへの忠誠心が高いみたいなの。だから、レグルスと親しくしてほしいと思ったのよ!」
「そう思う何かがあったんでしょうか」
「秘密!」
当然、ロズワルドは探りを入れてくる。有紗は堂々と誤魔化した。
「私とは親しくしなくていいの。レグルスっていうところが大事なのよ。分かるでしょう?」
「はい」
「それはまあ」
即答するロズワルドと、一応はあいまいに答えるブレット。
「分かってくれてうれしいけど、ロズワルドさんはもう少し気遣ったら? ほんとムカつくわね!」
「食堂で騒ぐアリサ様のほうこそ、気遣いを覚えるべきでは」
「また嫌味ー!」
有紗が怒ると、ガイウスが顔を出した。
「なんだよ、ロズワルド。またもめてるのか? お前はもう少し言い方ってものを考えるべきじゃないか?」
「団長、お妃様に食堂で大声を出さないように、ご注意ください」
「ご婦人のおしゃべりは、小鳥のさえずりと思え、ロズワルド」
「雄鶏の鳴き声の間違いでは?」
ロズワルドが嫌味の天才すぎて、有紗は呆れた。
「それで、どうかしたんですか」
ガイウスは聞き流すことにしたようで、話を変えた。
「ブレットさんに、ガーエン領に戻ってこないのかと聞いていただけよ」
「ああ、それは俺も気になってましたよ、ブレット殿。ロドルフ様も寂しそうにしておられましたし」
ガイウスの言葉に、ブレットの表情が曇る。
「どうでしょうか。期待外れの息子を嫌っているのは、父上のほうですから」
「……え?」
有紗とガイウスは意外に思って、ブレットを凝視する。
「その件は旅を終えてから考えます。では、失礼」
ツカツカと、ブレットは食堂を出て行く。
「なんだか、あっちもこっちも、親子問題が勃発してるのねえ?」
有紗は感慨をこめて呟く。
とりあえず、家庭問題には気軽に口出しできないので、ガイウス達とはブレットとロドルフのことは様子見しようと話し合った。
10
お気に入りに追加
961
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる