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第三部 斜陽の王国

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 それから有紗は、ブレットに親しみを覚えて、自分から話しかけに行った。
 ガーエン領を盛り上げる計画のことや、市場でちょうどいい作物を探すことなどを話し、ずばり切り出す。

「ねえねえ、ブレットさん。ガーエン領に帰ってこないの? レグルスの傍にいるべきよ!」

 午餐の後に、有紗からの突撃をくらったブレットは迷惑そうに眉をひそめ、ため息をつく。

「アリサ様、その手には乗りません。殿下の不興を買わせて、追い出す気ですね?」
「違うわよ」
「それじゃあ、どういうつもりですか。私は警告したはずですが?」
「だってブレットさん、レグルスのことを大事に思っているじゃないの。私の仲間だわ!」

 ブレットは、食堂でワインを飲んでいるロズワルドのほうを見た。

「カヴァナー卿がおられるじゃありませんか。親しくされては?」
「カヴァナーきょう?」
「ロズワルド・カヴァナー殿ですよ」
「あの人、そんな家名だったっけ。え、やだ。ロズワルドさんは私をにらんでくるし、暑苦しいもの」

 有紗が拒否感をあらわにすると、ロズワルドがこちらを見た。

「これはこれは、お妃様。堂々と私の悪口とは、恐れ多いことでございますね」
「ほらー! 嫌味を言うでしょー!」

 最初と違って、すっかりレグルスに傾倒しているのは良いとして、あんなに腹が立つ男はそういない。

「ブレット殿と親しくなられたのですか」
「いいえ!」
「……そこは社交辞令で、はいと言うところでは」

 けげんそうにするロズワルドの常識的な意見は無視して、有紗は主張する。

「あのね、この人、レグルスへの忠誠心が高いみたいなの。だから、レグルスと親しくしてほしいと思ったのよ!」
「そう思う何かがあったんでしょうか」
「秘密!」

 当然、ロズワルドは探りを入れてくる。有紗は堂々と誤魔化した。

「私とは親しくしなくていいの。レグルスっていうところが大事なのよ。分かるでしょう?」
「はい」
「それはまあ」

 即答するロズワルドと、一応はあいまいに答えるブレット。

「分かってくれてうれしいけど、ロズワルドさんはもう少し気遣ったら? ほんとムカつくわね!」
「食堂で騒ぐアリサ様のほうこそ、気遣いを覚えるべきでは」
「また嫌味ー!」

 有紗が怒ると、ガイウスが顔を出した。

「なんだよ、ロズワルド。またもめてるのか? お前はもう少し言い方ってものを考えるべきじゃないか?」

「団長、お妃様に食堂で大声を出さないように、ご注意ください」
「ご婦人のおしゃべりは、小鳥のさえずりと思え、ロズワルド」
雄鶏おんどりの鳴き声の間違いでは?」

 ロズワルドが嫌味の天才すぎて、有紗は呆れた。

「それで、どうかしたんですか」

 ガイウスは聞き流すことにしたようで、話を変えた。

「ブレットさんに、ガーエン領に戻ってこないのかと聞いていただけよ」
「ああ、それは俺も気になってましたよ、ブレット殿。ロドルフ様も寂しそうにしておられましたし」

 ガイウスの言葉に、ブレットの表情が曇る。

「どうでしょうか。期待外れの息子を嫌っているのは、父上のほうですから」
「……え?」

 有紗とガイウスは意外に思って、ブレットを凝視する。

「その件は旅を終えてから考えます。では、失礼」

 ツカツカと、ブレットは食堂を出て行く。

「なんだか、あっちもこっちも、親子問題が勃発ぼっぱつしてるのねえ?」

 有紗は感慨をこめて呟く。
 とりあえず、家庭問題には気軽に口出しできないので、ガイウス達とはブレットとロドルフのことは様子見しようと話し合った。
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