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第三部 斜陽の王国
十三章 道行き 1
しおりを挟む「それじゃあ、ロドルフさん、留守の間のことはよろしくね」
旅装の有紗は、崖のエレベーターもどきの前で、見送りに来たロドルフとあいさつをかわす。
特使としての使節団派遣の準備が整ったため、これから崖の上にある王都へ戻るところだ。
これから冬に入っていくため、絶好の燻製作り日和になるというのに、隣国に行くためいつ戻れるかわからない。長くても三か月だろうと見ているが、そうなると帰った頃には春に入っているだろう。
「ええ、お任せください。魚の燻製、イライザと試作しておきますからな」
ロドルフはそう返し、にまりと笑う。彼はその試作品を酒の肴にするつもりのようで、喜んで引き受けてくれた。
「あんまり飲みすぎて、帰ったら酒蔵が空なんてことになっていないといいが」
レグルスが冗談を言い、ロドルフは豪胆に笑う。
「はっはっは。さすがのわしでも、酒蔵いっぱいは厳しいですぞ!」
ひとしきり笑うと、ロドルフはとたんに神妙な態度になって、王都からあいさつに来た使者を見る。
二十代半ばほどの青年が、鉄籠の前にひっそりと立っていた。
灰色の髪と、鋭い緑色の目。どことなくロドルフと似た落ち着いた態度と、まったく似ていない皮肉げな薄い唇の持ち主だ。ブレット・ガーエン。ロドルフの一人息子であり、今回の使節団の責任者である。
ブレットは王宮で文官として働いていた関係で、今回、レグルスの領地にかかわる者として、外交官の役目を命じられたそうだ。
「ブレット、殿下とお妃様をしかとお守りするのだぞ! それから……」
ロドルフは何か言いたげにもごもごし、ブレットが眉をひそめて問う。
「それからなんですか、父上」
「盗賊などにしてやられるのではないぞ、お前はわしの息子なのだからな!」
ロドルフは乱暴な言葉でかつを入れた。
(ロドルフさん、普通に気を付けてと言えばいいのに……)
有紗はほのかに苦笑して、ちらとレグルスのほうを見る。彼もロドルフが素直になれないのに気付いたようで、口元に苦いものが浮かんでいた。
ロドルフは息子が不便さを嫌って王宮で働いていることを寂しがっていた。有紗達はそれを知っているので、ロドルフの様子を半ば微笑ましく見守っている。
「ええ、もちろん。こんな田舎領地の領主の息子とはいえ、私もルチリア国王にお仕えする身。国の威信にかけ、仕事をこなす所存です」
親の心、子知らずとはよく言ったもので、ブレットはロドルフが言いたいことにまったく気づいた様子もなく、冷たく返す。
その後、ブレットともに鉄籠に乗り、崖を上へと引き上げられながら、有紗は下を見る。ロドルフは分かりやすく落ち込んでいた。
(もしかして、そもそも親子仲がこじれてんのかしら)
旅の間に、ブレットと親しくなれたらいいなと思いながら、もう一組のこじれ親子を思い出す。
(マール側妃様も、アークライト王国の国王陛下と歩み寄れるといいんだけどなあ)
精神的に病んでいるマールが少しでも幸せになれればと、有紗なりに心配するのだった。
------------------------
あとがき
お待たせしました。
第三部プロット、まだ作り終えてないですが、核は決めたんで始めてみます。
今作は「親子愛」をテーマにしていきつつ、神子復活派などを追っていく形にしようと思ってますよ。
のんびりとよろしくお願いします。
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