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第二部 光と影の王宮
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しおりを挟む「そんな瓶、知りませんわ!」
レジナルドとともに王妃の間に行くと、王妃ローラは顔を真っ赤にして怒った。
「わたくしを陥れようとしているのは誰なの?」
王妃は少しの汚れも見逃さないとばかりに、侍女をにらみつけた。侍女達は震え上がっている。
そんな王妃の様子に、レジナルドはため息をついた。
「さすがに行き過ぎではないか。王妃という立場なのに、側妃を目の敵にするとは……。このままでは、共に国を治めていくパートナーとして信用できぬ」
「陛下、わたくし、本当に知らないのです!」
王妃は必死に言い張り、瓶が見つかった場所を示した。
「あんな物入れ、わたくしは触りませんもの。そもそも、わたくし、しばらく誰とも会っていないんですよ。部屋の外に見張りをつけて、謹慎させていたのは陛下でしょう?」
「しかし、そこに化粧水がある」
「陰謀ですわ! ヴァネッサではないかしら。闇の神子を味方につけて、調子に乗っているのだわ」
「どうして彼女が、わざわざ策略をしてまで、命を危険にさらす真似をするのだ。間違いがあれば、王妃がすぐに処刑と騒ぎだすのは目に見えているのに」
レジナルドはすっかり呆れている。
「だが、王妃の言うことも一理ある。見張りを置いていたから、客の出入りはなかったはずだ。責任を問うのは、すべての調査が終わってからとしよう」
「わたくしの無実は、きっと息子が明らかにしてくれますわ。なんて冷たい方! あんまりですわ」
強気に言い返していた王妃だが、次第に声に涙がにじんでいって、しまいにはハンカチを取り出してうつむいた。
これが嘘泣きなら演技派だと思うが、グジュングズンと鼻を鳴らしているので、有紗には王妃が本気で泣いているように見える。
王妃の間を出ると、有紗はレグルスにこっそりと問う。
「どう思う? レグルス」
「なんとも。事態が複雑になったようだ……としか」
「だよね」
証拠が出てきたので怪しいが、王妃の毒への怯えようや先ほどの取り乱しようは、とても演技には見えない。
「母上のためにも、毒の出所を追跡するしかないようですね」
「きゃあ!」
ルーファスの声がすぐ左でして、有紗は飛び上がった。レグルスが兄から遠ざけようと、有紗を引き寄せる。
「兄上、近いです! 離れてください」
「犬を追い払うようにしなくても。神子様の悲鳴、可愛らしいですね」
ルーファスはにっこりしたが、有紗はこめかみに青筋を立てるだけだ。
「怒るわよ! それに、朝もなんなの! お花なんて送りつけてきて」
「あの白い花、アリサ様にお似合いだと思ったんですよ。いかがでした?」
「迷惑だって言ってるの!」
「そうですか、では、次は青い花でも」
「少しは話を聞いて!」
まったく話を聞かないので、有紗はぶち切れた。
「ルーファス、来てくれたのね。聞いてちょうだい」
王妃がルーファスに気付いて部屋へと手招く。ルーファスはレジナルドと有紗にお辞儀をしてから、近衛騎士の身体検査を受け、中に入った。王妃がすすり泣きながら、状況を訴えている。
「なんだ、ババアは思ったよりも元気そうだな」
そこへ、王妃の二番目の息子であるヴァルトが顔を出した。ちらりと中を見て、悪態をつく。
「ヴァルト、その呼び方はなんだ」
さすがにレジナルドが注意すると、ヴァルトはレジナルドにお辞儀をしてから、冷めた目をして口を開く。
「親愛なる王妃陛下の息子は、どうも一人だけのようなので。お許しください、父上」
「まったく……王妃の態度にも困ったものだが、そなたもひねくれすぎだぞ。あれがどう言おうが、息子であるのに変わりないというのに」
皮肉たっぷりの返事に、レジナルドは嘆かわしいと言いたげだ。
(そういえば、さっきも王妃様、“息子”って言ってたわね。“息子達”じゃなくて)
ヴァルトはとっとときびすを返す。
「どうも大丈夫なようなので、俺は失礼します」
「ヴァルト! ……まったく」
レジナルドは首を振り、遅れて駆けつけた他の王子に苦笑を向けると、「疲れたから」とその場を離れる。エドガーがレジナルドに付き添って、王の部屋のほうへ行った。
残ったのは有紗とレグルス、第四王子のジールだ。
「あんまり騒動を大きくしないでくださいよ、兄上。アークライト王国とは落ち着いているのに、これで問題になったら、貿易で損害が出るかもしれません。慎重にお願いしますね」
「ああ」
ジールの忠告に、レグルスは頷く。ジールは近衛騎士から詳しい報告を聞くと、すぐに戻っていった。
有紗とレグルスも王妃の間を離れ、篝火が焚かれている廊下を進む。
「ヴァルト王子って、王妃様と仲が悪いの?」
「仲が悪いというより、できが悪いヴァルトを、王妃様は嫌ってらっしゃるんだ。無視されているのを見たことがある」
「じゃあ、あのひねくれようは、王妃様にも責任があるんじゃない? 皆、いろいろと問題を抱えてるのねえ」
ううんとうなり、有紗はふと思いついたことを口にしてみる。
「そういえば、ヴァルト王子は王妃の間には出入りできるのかな?」
「礼儀には反しますが、あの二人なら用があれば入れますね。しかし、ありえませんよ。ヴァルトは乱暴者だと警戒されているんです。見張りが通さないでしょう」
「ああ、そっか」
王妃の策略なのだろうか。
それとも、王妃の言葉が真実だった場合、あの化粧水はどこから現れたのだろう。
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