71 / 125
第二部 光と影の王宮
4
しおりを挟む「化粧水……ですか? いえ、わたくしは持っておりませんよ」
突然の訪問に目を丸くし、ミシェーラは首をふるふると振った。
事情を話すと、ミシェーラは苦笑を浮かべる。
「わたくし、まだしわを気にする年齢ではありませんから」
「確かに、そうね! ごめんなさい!」
「大変失礼しました」
有紗とともに、ロズワルドが廊下のほうから、恐縮しきって頭を下げる。
「何事もなく済んでよかったかと思いますが、お妃様はもう少し深く考えたほうがいいですよ」
「もうっ、また嫌味を言う! 良い化粧水ならもらってもおかしくないでしょ!」
言い合いをする二人に、ミシェーラはまあまあと呼びかける。
「わたくしもお母様も、ハーブ・ウォーターを化粧水にしていますから、大丈夫ですよ。それに、個人的なもらいものには気を遣っています。実は、お母様がこちらに嫁いだ後に……」
王宮で勤める女官は、貴族の娘が多い。
レジナルド王が気立てのよい女官を褒めたら、後日、その女官が顔に炎症を起こして、病気と思われて王宮から追い払われた事件があったのだそうだ。
「恐らく、側妃が増えるのではと恐れた王妃様のしわざかと思います。それを見たお母様は、いただきものには神経をとがらせているのですわ。こんな王宮でもっとも怖いのは、病気と思われて隔離されることですもの」
「こわー! 陰湿すぎるわよ、怖すぎる!」
ぶるっと震え、有紗は悲鳴を上げる。ロズワルドの顔色も悪い。
それから、ミシェーラとともにヴァネッサの部屋を訪ねた。ヴァネッサは持っていないと言うので、安心した。
「ああ、良かった。健康はもちろんだけど、持っていたら状況が悪くなってたわ」
「ええ、毒殺に使えることになりますからね」
レグルスも胸を押さえて、溜息をついている。
「王宮で信じられるのは、陛下と自分よ。体に使うものは、自分で育てているの。ほら、見て」
ヴァネッサに手招かれ、バルコニーに出る。花に混じって、ハーブの鉢があった。
「肌荒れする時は、セージがいいわよ。ハーブティーを淹れる時みたいに、お湯に入れておいて、冷めた水を使うだけ」
「ああ、たしかセージって、殺菌力が強いんですっけ。なるほどね」
化粧水向きだと、有紗は頷く。ヴァネッサは少し驚きを見せた。
「ハーブに詳しいの? これは庶民の知恵なのだけど」
「私の母は、熱しやすくて冷めやすいタイプで。ハーブにこっていた時期があったんですよね」
おやつ時になるとハーブティーを淹れ、ペラペラと効能についてしゃべりだすから、なんとなく覚えているだけだ。
植物を育てるのは下手なので、最終的に、スパイスコーナーにある乾燥ハーブ入りの小瓶に落ち着き、それもいつの間にか家からなくなっていた。
「燻製にこっていた母君ですか」
レグルスが興味を示し、有紗の顔をじっと見つめる。
「そうそう。お母さんは良く言えば趣味人、悪く言えば飽きっぽいのよねー。でもまさか、そのおかげで、ここで暮らしやすくなるなんて思わなかったけど。なんでも使いようね」
「楽しそうなお母様ね。ハーブティーをふるまいたいところだけど、アリサは飲めないから、入浴用にストックしている分をおすそわけするわね。自慢の一品なのよ、使ってみて」
ヴァネッサは麻袋に入れた乾燥ハーブを混ぜた入浴剤を持ってきて、有紗に渡す。
近衛騎士に中身を改められたものの、無事に持ち帰ることができた。
「見てみて、レグルス。花びらも入ってる。きっといい香りだわ」
「そういえば、幼い頃は、夏場に汗をかいて肌荒れすると、母上に薬湯で洗われたものですよ。ちゃんと意味があったのですね」
「民間療法ってやつね。やぶ医者に当たるよりも、いいかもね」
中世くらいの時期では、たいした医者はいない。医者といえば、詐欺師の代名詞みたいなものだった。
「そうだわ、レグルス。とりあえず化粧水のこと、陛下にお話しましょうよ。部屋に持っている人がいたら、容疑者候補になるわ」
「ええ、父上に相談しましょう」
ミシェーラを部屋まで送り届けてから、今度はレジナルド王に面会を求め、王の執務室のほうへ向かった。
10
お気に入りに追加
961
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる