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第一部 邪神の神子と不遇な王子

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 翌日も天気が良く、外で作業がしやすそうだ。
 ロドルフのおかげで材料が集まった。城下町から木工職人を呼んでくれたので、燻製用の木箱について説明をする。

「なるほど、煙がれないようにしたいんですね」

 さすがは職人だけあって、仕事がスムーズだ。木材の長さをはかって、棚用の板に切り分けた。
 正直、職人がいて良かった。
 日本では母が燻製用の木箱を通販で買っただけだから、てっきり板を並べて釘で打てば終わりなんだと思っていた。本棚みたいなものだ。
 職人は端を半分切り落として、板がかみ合うようにして固定していった。これなら確かに煙が漏れない。

 鉄網を置くための支えとなる木材も設置し、扉には蝶番ちょうつがいとひっかけて固定するだけの鍵を付けてくれた。
 彼に任せるうちに、午前中で木箱が完成した。ついでに、水入れ用の樽を用意して、横のほうに小さな穴をあけてもらった。塩抜きに使うのだ。その穴に、溝をつけた板を差し込んでもらって完成だ。
 次に鍛冶屋に行って、鉄網と鉄のトレイを作ってもらう。それぐらいなら簡単だと言って、鍛冶師はその場であっという間に作り上げた。

「すぐにできちゃったわ!」

 鉄網とトレイを入れて、木箱を持ってルーエンス城に戻ってくる。すんなり行ったことに、有紗のほうが驚いている。
 木工職人にいたっては、電動工具もないのに、すごい。

「次はこれで木のチップというものを作ればいいんですね? のろしとは少し勝手が違いますね」

 香りの強い木を見下ろして、レグルスがつぶやく。有紗は何か違うのかと、レグルスに問う。

「煙が出ればそれでいいんだけどねえ。のろしだとどうするの?」
「煙を多く出す木があるので、それの枝葉を燃やすだけですよ」
「燃やすものが違うのね。とりあえず、このチップ、面倒だけど作ってしまいましょ」

 木材は染物で使うこともあるし、最後には薪にできるので、乾燥させて保管しているそうだ。生の木は燻製には使えないから、助かる。
 削ってみたり、ナタで小さくしたりと、皆で地味な作業をする。途中で、ロドルフが腰が痛いと言い始め、手の空いた騎士や使用人が代わりに加勢した。
 木材ごとに分けて、こんもりと山になったものを作り終える頃には夕方になった。涼しい所で保管しようと倉庫に運び込んで、今日の作業は終わりだ。

「ふわあ。眠い……」

 妃の間に帰ってきた有紗は大きくあくびをした。疲れは感じないし、手にマメができることもないが、とても眠い。

「今日は聖堂に行かなくて大丈夫なんですか?」

 モーナが心配そうにするので、有紗は頷く。

「さっき、ロドルフさんの腰痛とか、皆についてたもやをつまみ食いしたから、大丈夫よ」
「そうなんですか。道理で、あんまり疲れないと思いました。手も痛くないですし」
「ということは、私、怪我と疲労を食べちゃったのかしらね」

 毎日風呂に入るのは使用人がかわいそうになるので、今日は洗面器一杯分のお湯をもらって、体を拭くにとどめた。
 後でレグルスに血を飲ませてもらったら、早めに寝てしまおう。

「明日は朝から塩抜きをして、その後は風乾ふうかんね。ああ、今は夏だから危ないかしら? でも、日本より涼しいから大丈夫?」
「ふうかん……ですか?」
「簡単に言うと、脱水のことよ。水に浸けて塩を抜いた後、その水分をとるために、魚をつるして乾かすの」
「それなら夜から早朝のほうがいいんじゃないですか? 昼間は心配ですね。魚ですし……」

 そう思って、有紗もたびたび魚の様子を見ているが、ボウルを地下の食糧庫に移動させたおかげか、表面がベタベタしていないし変なにおいもしていない。しかし塩漬けを長引かせるのは怖い。

「水抜き、三時間くらいかかるのよね。午餐の後に始めて、夜中に作業なんて悪いわ」
「魚が無駄になるよりいいですよっ。他の方が駄目でも、私は手伝います! その後、休息時間をずらしてもらえれば……」
「そうする? 私の段取りが悪くてごめんね、モーナ」
「いえいえ、謝らないでくださいませ」

 眠気をおしてイライザに話に行くと、イライザは睡眠不足も辞さないと言い切った。

「新しい調理法を教わるんですから、少し眠れないくらいなんてことありません。もちろん私も同席しますわ」

 イライザの頼もしい言葉とともに、すぐに水抜きを始め、夜中に三人で風乾の作業をすることで話がまとまった。
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