41 / 125
第一部 邪神の神子と不遇な王子
7
しおりを挟む翌日も天気が良く、外で作業がしやすそうだ。
ロドルフのおかげで材料が集まった。城下町から木工職人を呼んでくれたので、燻製用の木箱について説明をする。
「なるほど、煙が漏れないようにしたいんですね」
さすがは職人だけあって、仕事がスムーズだ。木材の長さをはかって、棚用の板に切り分けた。
正直、職人がいて良かった。
日本では母が燻製用の木箱を通販で買っただけだから、てっきり板を並べて釘で打てば終わりなんだと思っていた。本棚みたいなものだ。
職人は端を半分切り落として、板がかみ合うようにして固定していった。これなら確かに煙が漏れない。
鉄網を置くための支えとなる木材も設置し、扉には蝶番とひっかけて固定するだけの鍵を付けてくれた。
彼に任せるうちに、午前中で木箱が完成した。ついでに、水入れ用の樽を用意して、横のほうに小さな穴をあけてもらった。塩抜きに使うのだ。その穴に、溝をつけた板を差し込んでもらって完成だ。
次に鍛冶屋に行って、鉄網と鉄のトレイを作ってもらう。それぐらいなら簡単だと言って、鍛冶師はその場であっという間に作り上げた。
「すぐにできちゃったわ!」
鉄網とトレイを入れて、木箱を持ってルーエンス城に戻ってくる。すんなり行ったことに、有紗のほうが驚いている。
木工職人にいたっては、電動工具もないのに、すごい。
「次はこれで木のチップというものを作ればいいんですね? のろしとは少し勝手が違いますね」
香りの強い木を見下ろして、レグルスがつぶやく。有紗は何か違うのかと、レグルスに問う。
「煙が出ればそれでいいんだけどねえ。のろしだとどうするの?」
「煙を多く出す木があるので、それの枝葉を燃やすだけですよ」
「燃やすものが違うのね。とりあえず、このチップ、面倒だけど作ってしまいましょ」
木材は染物で使うこともあるし、最後には薪にできるので、乾燥させて保管しているそうだ。生の木は燻製には使えないから、助かる。
削ってみたり、ナタで小さくしたりと、皆で地味な作業をする。途中で、ロドルフが腰が痛いと言い始め、手の空いた騎士や使用人が代わりに加勢した。
木材ごとに分けて、こんもりと山になったものを作り終える頃には夕方になった。涼しい所で保管しようと倉庫に運び込んで、今日の作業は終わりだ。
「ふわあ。眠い……」
妃の間に帰ってきた有紗は大きくあくびをした。疲れは感じないし、手にマメができることもないが、とても眠い。
「今日は聖堂に行かなくて大丈夫なんですか?」
モーナが心配そうにするので、有紗は頷く。
「さっき、ロドルフさんの腰痛とか、皆についてたもやをつまみ食いしたから、大丈夫よ」
「そうなんですか。道理で、あんまり疲れないと思いました。手も痛くないですし」
「ということは、私、怪我と疲労を食べちゃったのかしらね」
毎日風呂に入るのは使用人がかわいそうになるので、今日は洗面器一杯分のお湯をもらって、体を拭くにとどめた。
後でレグルスに血を飲ませてもらったら、早めに寝てしまおう。
「明日は朝から塩抜きをして、その後は風乾ね。ああ、今は夏だから危ないかしら? でも、日本より涼しいから大丈夫?」
「ふうかん……ですか?」
「簡単に言うと、脱水のことよ。水に浸けて塩を抜いた後、その水分をとるために、魚をつるして乾かすの」
「それなら夜から早朝のほうがいいんじゃないですか? 昼間は心配ですね。魚ですし……」
そう思って、有紗もたびたび魚の様子を見ているが、ボウルを地下の食糧庫に移動させたおかげか、表面がベタベタしていないし変なにおいもしていない。しかし塩漬けを長引かせるのは怖い。
「水抜き、三時間くらいかかるのよね。午餐の後に始めて、夜中に作業なんて悪いわ」
「魚が無駄になるよりいいですよっ。他の方が駄目でも、私は手伝います! その後、休息時間をずらしてもらえれば……」
「そうする? 私の段取りが悪くてごめんね、モーナ」
「いえいえ、謝らないでくださいませ」
眠気をおしてイライザに話に行くと、イライザは睡眠不足も辞さないと言い切った。
「新しい調理法を教わるんですから、少し眠れないくらいなんてことありません。もちろん私も同席しますわ」
イライザの頼もしい言葉とともに、すぐに水抜きを始め、夜中に三人で風乾の作業をすることで話がまとまった。
10
お気に入りに追加
961
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
訳ありな家庭教師と公爵の執着
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)からHOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。
※断罪回に残酷な描写がある為、苦手な方はご注意下さい。
※只今、不定期更新中📝

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる