邪神の神子 ――召喚されてすぐに処刑されたので、助けた王子を王にして、安泰ライフを手に入れます――

草野瀬津璃

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第一部 邪神の神子と不遇な王子

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 女官長が有紗に会いたいと言うので、レグルスやモーナとともに妃の間で会ったところ、女官長は青ざめた顔でその場にひれした。

「申し訳ございませんっ」
「え?」

 ぽかーんと口を開けて、有紗は女官長を見下ろす。二十代後半くらいだろうか、ほっそりしている彼女は、藍色のワンピースに白いエプロンを付けている。そして、白い麻の頭巾で頭を覆い隠していた。
 地味な色のワンピースとエプロン、頭は麻の頭巾で覆い隠すのが、城で働く女性の使用人の服装らしい。
 しかし、格好を見ていたところで、今、何が起きているのか訳が分からないのは変わらない。

「ええと……どういうこと? どうして土下座してるの?」

 こんな真似をされたことがないので、有紗は焦った。誰かを土下座させて楽しむような趣味などないので、混乱しまくりだ。困った時はレグルスに頼るに限るので、有紗はレグルスの後ろにすすっと隠れる。

「ドゲザ?」
「あの姿勢よ。私の国では、最大限の謝罪表現だけど、正直、見ていて良い気分はしないわ」
「これは平伏へいふくといって、下位から上位の者へする最上級の謝罪方法です。他には、あいさつですることも……。イライザ、アリサは異国のかたなんだ、お前の姿勢に大変驚かれている。顔を上げて、立ちなさい」

 レグルスは有紗に説明してから、女官長のイライザに立つように言った。

「アリサ、この女性はイライザといいます。今回の大掃除で新しく女官長になったんですよ。女性の使用人をまとめる立場ですし、衣装部屋の管理責任者でもあります。衣類のことで困ったら、イライザに相談してください」
「衣装部屋?」
「書斎の隣にあるんですよ。宝物庫でもあるので、今は私の物や宝飾品が中心です。どちらにせよ、アリサの分はこちらの箪笥に置きます。ただ、衣装部屋の管理をできるということは、裁縫のスキルが高いという意味なので」
「つまり、女官長は裁縫ができないとなれない?」
「侍女もそうですよ」

 ということは、モーナの言う家事には裁縫も入っているのだろう。

「それで、いったいどうして謝っているんだ?」
「お食事を全く召し上がらなかったので、私の配慮が悪かったのかと。私、ここ以外に行き場がないのです。どうか解雇だけはおやめくださいませ!」

 イライザがまたもや膝を付きそうなので、有紗は思わず手を伸ばして、イライザの袖を掴んだ。

「あのね、違うのよ。あなたは悪くないよ。私がね、とっても少食なだけなの」

 有紗はレグルスのほうを振り返る。秘密を教えるのは、最小限にするつもりだ。レグルスも話を合わせる。

「そうだ、イライザ。アリサは部屋で軽食をとっていたから、気にしなくていい。たまに同席するが、それ以外は妃の間に食事を用意してやってくれ」
「まあ、そうなのですか?」
「僕が伝え忘れていただけだ。お前に非はない」

 レグルスのとりなしに、イライザはあからさまに安堵の表情を浮かべる。

「お好みのお食事があればご用意しますので、なんなりとお申し付けください。このイライザ、誠心誠意お仕えいたします。元々、前の城主であらせられるロドルフ様にも感謝しておりました。夫を亡くして困っていたところ、義父ともども雇っていただけて……」

「あれ? もしかして、お父さんがいないって言ってた男の子って……」

 どこかで聞いた話だと思い、有紗はイライザに問う。イライザはこくりと頷いた。

「ええ、私の息子かと思いますよ。今のところ、使用人では未亡人は私だけですから」
「前の女官長にビクビクしてた?」
「……お恥ずかしながら、あの方はかんしゃく癪持ちで恐ろしかったのです。難癖をつけられて解雇させられたら、私ども一家は路頭に迷いますもの」

 弱いところに付けこむような人だったのか。ロドルフが嬉々として解雇するはずだ。レグルスは嘆きをこめたため息をついた。

「あの使用人は、病気療養中のミシェーラにも意地悪をしていたんですよ。母上やミシェーラは、この城では地位の高い女性です。そういった客人の世話は、身分の高い女使用人がする決まりですが、母上が警戒してつきっきりになる始末。私からも侍女の仕事はしなくていいと命じたんですが、今度はミシェーラの病気を嫌がって陰口を叩いていたようです」

「性格が悪すぎよ。やめてもらって正解だわ。病人にも冷たいなんて最低じゃない」
「うつる病気ではないとはいえ、不穏な気持ちになるのは分からなくはありません。王女だから静養できますが、庶民でしたら神殿の施設に隔離ですからね」

 これでこの城は平和だなと、有紗は頷く。

「これからよろしくお願いしますね、イライザさん」
「『さん』は不要です。イライザとお呼びください、お妃様」

 イライザはうるうると目を潤ませる。

「このような者にもお声掛けくださるとは、なんて優しいかた。私、がんばります!」
「ちょ、ちょっと!」

 今度はあいさつで平伏したくなったようで、イライザが床にへばりつくのを、有紗は止められなかった。まごついている有紗を見て、レグルスとモーナが微笑んでいた。
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