邪神の神子 ――召喚されてすぐに処刑されたので、助けた王子を王にして、安泰ライフを手に入れます――

草野瀬津璃

文字の大きさ
上 下
18 / 125
第一部 邪神の神子と不遇な王子

 7

しおりを挟む


 ルーエンス城二階、書斎に向かった。
 ウィリアムが書類をまとめていたが、レグルスは気にせず、ロドルフの椅子を自分の机の前に持ってくると、ガイウスに座るように言った。
 まるで面談でもするみたいだ。
 有紗の椅子はレグルスの隣に置きっぱなしだ。おのおのが席につくと、有紗ははりきって切り出す。

「それじゃあ、レグルス。私から自己紹介するね」
「お願いします」

 レグルスが頷いたので、有紗はフードを下ろし、ヴェールとウィンプルの布も外す。

「私は水口有紗。闇の神の神子として、異世界から召喚されたの」

 真っ黒な髪が零れ落ちるのを、ガイウスはぽかんと眺める。

「え? 闇の神の神子……?」
「待て、悪魔呼ばわりするのではないぞ。私は森で狼に襲われてひん死だったが、アリサに命を救われたのだ。ミシェーラの病も完治した。アリサには他人を癒す力がある」
「姫様のご病気も?」

 驚いて口を開けっ放しのガイウスに、有紗は太鼓判を押す。

「ガイウスさんの怪我くらいなら、すぐに治ると思う」

 有紗とレグルスの説明を聞き、ガイウスはごくりとつばを飲み込む。目は期待に輝いたものの、冷や汗を袖でぬぐった。

「なんか俺、とんでもない秘密を聞かされた気がするんですが。これって、後で命であがなえと言われたりは……」
「心配は分かるが、そんなことはしない。私は信頼できる配下が欲しいんだ」
「それで、落ちぶれている元騎士ですか」

 神妙な顔で、ガイウスは呟く。

「私はレグルスに助けてもらったの。帰るまではレグルスの傍にいたいから、レグルスには王様になって欲しいんだ。それで、できることで協力したい」

 有紗はレグルスのほうを見る。意図を汲んだレグルスが、有紗の身に起きた不幸について説明する。ガイウスがぐっと眉をしかめた。

「はあ? 自分達で神子様を呼んでおいて、処刑ですか。しかもこんな女性を! そいつら本当に神官なんですか? そりゃあ悪い奴もいますけど、王都の連中だってそこまではないでしょう」
「きっと神罰がくだるだろう。神子を軽視すれば、闇の神がお怒りになる」

「まさに天啓てんけいですね。レグルス様と神子様は互いに出会うことで、危機を回避された。俺でも運命を感じますよ。殿下だけでなく神子様まで守れるなんて、騎士にとってはこの上ない名誉です。是非、俺を配下にしてください!」

 ガイウスは椅子を立ち、その場に片膝をついた。諦めてすさんだ空気が一変し、緑の目は強い光を宿す。

「私、ガイウス・ケインズは、レグルス殿下と闇の神の神子アリサ様に、生涯の忠誠と惜しみない助力をささげます。この誓い、六神にささげます。――たがえる時は、死をもってつぐないましょう」

 有紗は喜ぶ半面、こんなことを言わせて大丈夫なのかと心配になった。
 だが、レグルスは気にせず、長剣を抜いて、その剣をガイウスの肩にのせる。

「レグルス・ルチリア、ガイウス・ケインズの誓いを受け取る。この誓いに恥じぬよう、今後、職務に励むように」
「はっ」

 ガイウスは威勢よく返事をした。
 レグルスは剣をさやへ戻し、有紗を振り返る。

「アリサ、怪我を治してあげてください」
「分かった」

 聖堂でつまみ食いしてきたので、お腹はいっぱいだが、これくらいは入るだろう。有紗はガイウスの左足に巻き付いている黒いもやを引っ張る。するすると引き抜きながら、パンのようにちぎって口に放り込んだ。

(軽いのが良いなって思ったせいか、みかんゼリーみたいな食感と味だわ。おいしい)

 デザートは別腹なので、あっという間に食べてしまった。

「ごちそうさまでした。はい、立ってみて」

 いまだ膝をついたままのガイウスの左腕を支え、有紗は立つ手助けをしてあげる。

「ありがとうございます」

 礼を言って立ち上がったガイウスは、目を白黒させている。

「痛みが無い」

 その場で軽く飛び跳ねた。

「普通だ。怪我をする前の時みたいだ」

 そして本当に怪我が治ったのを確信すると、ぶるぶると震え始める。かと思えば、その場に再びひざまずいた。

「神子様、ご慈悲に感謝します! 俺の人生の恩人ですっ!」

 それから何度も礼を言うガイウスをなだめすかし、なんとか神子様呼びをやめさせると、レグルスは声をかけた。

「今日は休んで、明日から頼む。ロズワルドが宣言通り、部下も連れて出て行ったからな。残りの騎士を鍛えないといけない。いきなりは無理だろうから、徐々に動けるようにしてくれ」
「はい、鍛え直したら、あいつらを叩きのめしてみせます! 実力で団長にのし上がってみせますよ、あなたがたにふさわしいように」

 ガイウスはやる気をみなぎらせ、はつらつとした態度で書斎を出て行った。

「頼もしいけど、暑苦しい感じ?」
「ロドルフが二人になったのは気のせいですかね」

 有紗とレグルスが顔を見合わせる横で、ウィリアムが思い切り噴き出して笑っていた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

訳ありな家庭教師と公爵の執着

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。 ※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷  ※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)からHOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。 ※断罪回に残酷な描写がある為、苦手な方はご注意下さい。 ※只今、不定期更新中📝

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

処理中です...