邪神の神子 ――召喚されてすぐに処刑されたので、助けた王子を王にして、安泰ライフを手に入れます――

草野瀬津璃

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第一部 邪神の神子と不遇な王子

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 城下町には、高くても二階建ての民家が、大きな通りに沿うようにして建っている。
 ルーエンス城は戦になればとりでとしても使うため、この町は小規模な城塞じょうさい都市になっていた。町は城壁に囲まれ、城の周りにはほりがあり、更に壁で囲まれている。
 造りは立派だが、古い町だ。それほど広くはないため、馬より徒歩のほうが気軽に動きやすいらしく、有紗はレグルスと通りを歩いている。

(ここの人達は、男の人も女の人も、私より背が高い人が多いのね)

 男はがたいが良い者を見かけることもあるが、太っている者はほとんどいない。痩せているか、標準体型ばっかりだ。

「アリサ、そこが聖堂です」

 レグルスが示す先には、民家の間にささやかに背を伸ばして立つ、小さな建物があった。どっしりと安定感はあるが、想像していたよりずっとちんまりしている。

「今日は週の真ん中なので、人が少ないですね」
「週? 曜日はあるの?」
「ええ、六神になぞらえて、光、火、水、風、地、星となっています。一週間が六日で、一ヶ月がだいたい三十日。月は十二ですよ」

 少し呼び名が違うが、なじみのある時間の感覚に、有紗は親近感をいだいた。

「それでいくと、私の世界の一年とあんまり変わらないのね。今の季節は?」
「夏の始まりくらいですね。もう少しすると暑くなりますが、この辺りは王国北部なので、涼しいほうです」
「真ん中ってことは、今日は水の曜日?」
「そうです」

 レグルスは頷き、有紗をほほえましそうに眺める。

「星の曜日は、実は昔は闇の神を示していました。光神に失礼ということで、今では夜に出る星のことをさしています。呼び名こそ変わっていますが、闇の神が死と眠りをつかさどるのにあわせて、休日と決まっているんですよ。使用人や騎士といった仕事は、必ず星の曜日に休むのは無理ですが、週に一度は必ず休むことになっています」
「へえ、週に一度は休みがあるって良いわね」

 有紗とレグルスが門の前で話していると、横を通ろうとした女性の籠が、有紗にぶつかった。

「あっ、すみません」

 籠から落ちたりんごを拾い上げ、女性に差し出す。
 髪をウィンプルとヴェールでしっかり覆い隠した彼女は、鼻筋が通り、青い目がぱっちりした美人だ。二十代後半くらいだろうか。草木染のチュニックとロングスカート、革靴を履いている。聖堂の入口に書いてあるダイヤにバツをつけたみたいな紋様のついた木製のネックレスを付けているので、ここの関係者なんだろう。

「いえ……」

 女性が右手でりんごを受け取ろうとするので、有紗は渡した。……つもりだった。女性がつかみそこねて、またりんごが地面へと落ちる。今度はレグルスが拾って、籠に入れた。

「ご親切にどうも。すみません、腕に怪我をして以来、右手が思う通りに動かなくて。……あら? レグルス様ではないですか、今日は、き出しはありませんよ?」
「いや、炊き出しの様子見に来たのではなく、この方を案内している途中だ。私の妃候補で、アリサだ。アリサ、こちらはこの聖堂で働いているモーナです」
「初めまして」

 有紗があいさつすると、モーナは身をすくめた。

「私のような下働きに、そんなあいさつなんて……。そうだわ、この時間だと司祭様は中にいらっしゃると思うので、会っていかれては?」

 モーナは聖堂のほうを見て、親切に提案しているが、有紗はモーナの腕にまとわりつく黒いもやに気を取られている。お腹がぐーっと鳴った。有紗はモーナの右手をガシッとつかむ。

「モーナさん、それ食べたい!」
「……は?」

 訳が分からないという顔をしたモーナは、有紗がモーナの右腕を見ているのに気付き、顔を引きつらせる。思い切りドン引きされた。
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