落ちこぼれ公女さまは、精霊王の溺愛より、友達が欲しい

草野瀬津璃

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<大人編>四章 婚約の打診

29. そつがない対応

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 薄青の壁紙と、白い家具。居心地よく整えられた自室で、私はオパールのネックレスを眺めて、ため息をついた。
 台座には草花の意匠をあしらわれ、銀製のチェーンがついている。かわいらしい品だ。
 これはアルディレイドから届けられたものだ。料理のお礼と、少ししか会う時間がとれなかったお詫びにということらしい。
 フォーレンハイト家の精霊使いは、虹色に輝く銀の目を持っている。私の名前、アイリスもそうだが、虹にまつわるものが傍にあることが多い。オパールも身近なものなので、考えて選んでくれたことが分かる。

「嫌がらせしまくったのに、このそつのない対応。なんでなのーっ」
「お嬢様の料理オタクぶりが、こんな結果を起こすなんて。嫌いな料理をおいしく思われるなんて、さすがというか」

 お茶を運んできたリニーが感慨深くつぶやいた。盆をテーブルに置いてから、ふふっと噴き出す。

「惨敗していてかわいそうなのに、面白すぎます」
「もうっ、リニーったら」

 私は頬をふくらませ、お茶用のテーブルに移動する。リニーは胸をなでおろす。

「リニーは安心しました。お嬢様が社交界からつまはじきにされるのは嫌ですもの」
「でも、私は破談にしたいのよ」
「お嬢様は変ですわ!」

 腰に両手を当て、リニーは主張した。

「あんなに美麗でご立派な王太子殿下ですよ。性格も申し分ありませんし、何よりお嬢様を気に入っていらっしゃるのに! どうして断る一択なんですの?」

「王家に嫁入りなんてしたら、自由がなくなるじゃないの。領地の仕事も大事だけど、同じくらい料理も大事なの」
「あの方なら、お嬢様のために専用キッチンだってご用意くださいますわよ」

「市場に行けなくなるし、自由時間が減るのはごめんだわ」
「なんでそう趣味第一なのですかぁ」

 リニーは頭を抱える。

「だいたい、フォーレンハイト家が王族と婚姻するメリットは特にないのよね。王家のサポートはするけど、権力志向ではないし。お母様が我が家に来てくださったから、仲は良好よ。堅実に領地運営して、趣味に没頭してるから、王家は家臣として信頼してくださってるんだもの」

 将来の王の外戚がいせきとして権力をふるうつもりなら、もっとギラギラしているものだ。そういうのは、他の貴族にお任せしている。

「攻撃さえされなければ、温和な家ってことで周りも放っておいてくれるし……。貴族家の間でもなんとなく浮いてるのよねえ」
「お嬢様、ほんっとうに殿下に興味がないのですね……」

 リニーはあきらめ顔でため息をつく。

「だって、少しは良いなと思われているなら、メリットの話が真っ先に出てくるわけありませんものね」
「そうだって言ってるじゃないの。あーあ、次はどうやって攻めようかしら」

 この令嬢を王妃にしたらやばいと思わせるのが手っ取り早い。

「そうだわ! 次は舞踏会で、どこかの貴族の鼻っ柱をへし折ってやりましょ!」
「なんでそうなるんですかー!」
「ふふん。社交音痴王妃誕生なんて阻止しなきゃって、周りから反対させるにはこれしかないわ!」

 敵を作る真似はしたくないが、公の場で空気が読めない発言をする残念令嬢と思わせれば勝機がある。

「こうなったら、まずは政治状況をはあくしなきゃ! リニー、家令に命じて情報を集めさせて!」
「……はぁ~い」

 気乗りしなさそうに、リニーは返事をした。
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