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<大人編>四章 婚約の打診

26 ガーネストが分からない

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 屋敷へ戻る馬車に揺られながら、私は呆けていた。ちらっとガーネストを見る。不機嫌そのものの彼は、腕を組んで、座席から少し浮いて座っていた。

「どうしよう、ガネス」
「簡単だ。早く結婚しよう。……いたっ!」

 私がガーネストの腕をはたくと、ガーネストはおおげさにのけぞる。

「却下に決まってるでしょ」
「口で言えばいいだろ!」

 ガーネストのもっともな文句を、私は聞き流した。ため息をつく私の顔を覗きこみ、ガーネストはイライラと文句を言う。

「なんで迷うんだ。とっとと断ればいいだろう?」
「王族をむげにできないし、私はアルディレイド様のことは特に嫌いでもないのよね」
「あんな性格ブスの妹がいるのにか?」

 信じられないと、ガーネストは眉をひそめる。

「事実でも失礼でしょ!」
「アイリス?」
「ごめんなさい、お父様」

 お父様に苦笑交じりにとがめられた私は、すぐさま謝った。ガーネストと過ごしてきた弊害で、私も彼のように本音をぽろっと零すことがある。

「シェーラ王女のことは、そう問題でもないわ。いずれ嫁がれる方だもの。国王夫妻は良い方だし、王太子殿下もご立派よ」

 気を取り直して、私はガーネストに説明する。

「あの男のどの辺りが?」
「文武両道で、世継ぎとしての責任をわきまえていらっしゃるし、何より前の婚約者を大切に思っていた辺りが素晴らしいわ!」
「……まあ、そこは、うん」

 ガーネストも否定できなかったのか、言葉をにごす。普段からその常識を装備していてほしいものだ。

「つまり、あいつのことが好きなのか?」

 ガーネストはむすっとして、右手の平に火の玉を浮かべる。

「親族だもの、家族愛はあるわよ。ちょっと待って、それをどうする気?」
「面倒くさいから、あいつを燃やしてこようかと」
「駄目に決まってんでしょー!」
「いだー!」

 私がガーネストの頭にチョップを振り落とすと、ガーネストは頭を押さえて火を消す。

「あなたのその単純なところ、まったく変わらないわね!」
「ころころと気分が変わる人間よりましだろ!」

 言い合いをしてにらみあう私達だが、ガーネストが急に真顔になって、私の目を見つめた。

「こんなに好きなのに、どうしてだめなんだ?」
「……っ」

 ぐっと息をのむ。ふいうちの真面目さに、私は弱い。しかも捨てられた子犬みたいな目をされると混乱する。

「ガーネスト様、親の前で、うちの子を口説くのはやめてくださいねー」

 お父様が割って入り、ガーネストをひょいと向かいの椅子に移動させて、私の隣に座った。

「無礼だぞ!」
「どっちがですか」

 今度は、お父様とガーネストがにらみあい始める。
 私は横を向いて、熱い頬を押さえた。

(好きって言われても、私にはよく分からないのよっ)

 人付き合いもさほどしていないから、私は自分の感情にうとい。照れくささはあっても、恋愛となるとよく分からないのだ。

「と、とにかく、ガネス。王家への攻撃は禁止です! 嫌ならついてこないで」
「分かったよ。ちっ」

 体は成長しても、ガーネストの態度は子どもっぽい。
 だからだろうか、ガーネストの言う「好き」や「結婚して」も、子どもが遊びに誘う延長線上の気持ちのように感じられるのは。
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