落ちこぼれ公女さまは、精霊王の溺愛より、友達が欲しい

草野瀬津璃

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<大人編>四章 婚約の打診

23 婚約の打診

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「お呼びでしょうか、お母様」
「アイリス、よく来たわね」

 私がお辞儀をすると、お母様――レイレシアが優しく微笑んだ。今日はお部屋でのんびりモードの日のようで、明るい金色の髪は結わずに垂らしており、薄化粧だ。大きな青い目は宝石みたいで、我が母ながら、少女のように見えた。本当にこれで三十代なのだろうか。

 あの意地悪な従姉妹いとこと違って、若い頃は――いや、今でもまさに「王国の花」にふさわしい。おっとりしているので、妖精みたいにふわふわした雰囲気である。お父様はお母様を溺愛していて、お母様のためなら仕事の調整もいとわない。
 私も、お母様が喜ぶならがんばろうかなと思うから、お父様の気持ちはよくわかる。

「どういうことだ、レイレシア。僕のアイリスに婚約の打診だって?」

 元王女で私の母だろうと、ガーネストにとっては数年生きた子どもにしか見えないようで、ぞんざいに言った。

「ガネス、失礼でしょ!」

 私はすかさずガーネストの脇腹にひじを入れる。

「痛いぞ、アイリス。淑女はそんな真似はしないんだろ」
「大人しくしていたら、精霊を止められないでしょ。そのほうが、被害が甚大よ」

 私とガーネストのやりとりを、特に怒った様子もないお母様は楽しそうに眺めている。

「相変わらず、仲が良いわねえ。ガーネスト様がうちの子を気に入っているのは知っておりますけど、王家もむげにできませんの。アイリス、お見合いは受けるしかないから、がんばって王太子殿下から断られるようにしむけなさいな」

「ええっ、お父様が断ってくださればいいのに!」
「この打診はお父様のせいなのよ」

 お母様はため息をついた。

「あなたがどれだけ可愛いか、いつも陛下に自慢していたから」
「ちょっと何してんの、お父様―!」

 親馬鹿すぎて恥ずかしい!

「……それはしかたないな」
「なんでガネスもそれで納得しちゃうかな!」
「だってお前は可愛いじゃないか」

 面と向かって褒められると、私は言葉につまる。

「それとも綺麗と言うべきか? 最近は美人度が増してきて」
「ストップ! やめてよ、恥ずかしいでしょ!」

 顔を赤くして、ガーネストが続きを言うのを阻む。お母様はにこにこする。

「相変わらず、仲が良いわねえ」

 そして、見合いの日程と、お母様が自らマナーの見直しをするという。思わぬレッスンの追加に、私は王家がうらめしくなった。
 こんなにふんわりして優しいのに、お母様のマナー・レッスンは鬼なのだ。

「断るにしたって、失礼をしてはだめよ」

 お母様は笑顔で釘を刺した。



 お見合い用に、ドレスを発注する。
 急ぎでお願いしたため、一週間後には仮縫いができた。薄桃色のふんわり可愛らしいドレスは、お母様が選んだものだ。

「駄目だ」

 ガーネストが不機嫌そうに言った。仕立て屋の女主人が凍りつくのを見て、私はさっとフォローに入る。

「え? とっても可愛いじゃないの」
「だから駄目なんだ。王太子との婚約を断りたいのに、これだと一目ぼれされるだろ。もっと馬鹿っぽい黄色いドレスはないのか」
「ガネスったら、黄色いドレスに失礼でしょ」

 私はそう返したが、試着してみて、ガーネストが心配するのも分かった。
 お花みたいな薄桃色のドレスは私のテンションを上げたが、私に似合いすぎている。

「公爵夫人から、公爵が可愛いと自慢するのも納得の仕上がりにするようにとのご注文です」

 仕立て屋の女主人は、困り果てた顔をしている。お願いだから仕立てなおしなんて言わないでと、目で訴えてきた。

「お母様はお父様が親馬鹿じゃないって、ちゃんと教えたいわけね……」
「どうやったら振られるんだ。いずれ王妃になるなら、社交しないといけないわけだから……社交が下手だということにするか?」
「私に友達ができないのは、ガネスが邪魔するからでしょ!」

 社交ができない王妃なんて致命的だが、私は友達が欲しいので、ガーネストにはムカつく。

「そうよ、なんで邪魔するのよ!」
「アイリスには僕がいるだろ」
「女友達は必要よ!」
「困ってないくせに!」

 私とガーネストが口喧嘩を始めると、仕立て屋の女主人はおろおろし始めた。

「あわわわ、どうしましょう」
「お二人とも、落ち着いてくださいませ!」

 見かねたリニーが止めに入る。

「奥様のご命令ならしかたありません。このドレスでまいりましょう。だいたい、お嬢様の身なりは完璧でなくては! いいですか、ガーネスト様。いくらお好きだからって、女性のおしゃれを適当に済ませようなんて甘いんですよ。王太子殿下と張り合って、勝ち取るくらいでなければ、私はお嬢様の相手とは認めませんわ!」

 私のことが大好きなリニーは、精霊が相手だろうと言うことが小姑こじゅうとそのものだ。

「くっ」

 ガーネストは分かりやすくひるむ。

「千年以上も生きておいでで、子どもと張り合って負けるつもりなんですの? 努力なさいまし!」
「わ、分かったよ! 僕がしっかりガードすればいいんだろ!」

 リニーに言いくるめられ、ガーネストは仕立て屋に文句を言うのをやめた。
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