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三章 行き倒れの水の精霊王

17. アイスで復活

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 かき氷を出すと、ウォルターは目をキラキラさせた。
 ベッドにダウンしていたのが嘘みたいに起き上がり、綺麗に背を伸ばして長椅子に座る。
 遠慮なくスプーンで氷をすくい、口に含むや、パッと体から光が飛び出す。比喩ではなく、白い氷の粒が周囲に飛んだ。
 顔に張り付いた氷に、私はぎょっとした。

「何!?」
「おいしい~。エネルギーが満ちていきます。精霊使いの作る料理は、特別ですね。魔力を込めてくれるおかげで、僕はエネルギーを補充できます」
「魔力じゃなくて、真心をこめてるのよ」

 おばあ様の受け売りを伝えると、ウォルターは私をじっと見つめる。

「もしかして知らない?」
「何を?」

「君、フォーレンハイトの一族でしょう? あなた達が特別なのは、精霊を見る目だけでなく、料理に魔力をこめる才能だよ。だから貴族なのに、料理を許される」

 料理に魔力をこめるなんて、初めて聞いた。

「もう千年は前かな。君達は王に仕える司祭でもあったんだ。その料理を食べられるのは、神とあがめる精霊と王族だけ」
「特に何もしてないわよ。一生懸命、ハンドルを回しただけ」
「ハンドル?」

 私はかき氷の作り方について、ウォルターに教える。

「へえ、最近はそんなのがあるの。面白いね」

 ウォルターはにっこりした。優しくて綺麗なお兄さんが嫌いな少女なんているだろうか。いや、いない。老若男女問わず大好きだ。
 私とリニーだけでなく、おばあ様もにこにこしている。

「それで、水の精霊王様、この領地の畑が枯れそうというのは」

 おばあ様が切り出すと、ウォルターはそうだったと頷く。かき氷を食べ終えてから、状況を教えてくれた。

「この二百年、火の精霊王が行方不明になっていたせいで、夏の暑さが軽減されていたんです。代わりに、冬が寒くなっていました。だから、僕が調整していたんですけど、さすがに二百年はしんどくてねえ。だいぶエネルギーを消耗してしまっていたんですよ」

「そこに、火の精霊王が戻ってきた?」
「ええ、お嬢さん。火の気が自然界に戻ったせいで、この辺り一帯の暑さが増してしまって。なんとかしようとしていたら、とうとうエネルギー切れでばててしまったんですよ」

 ガーネストはどうしていたのかと聞かれ、前の契約者に封印されていたと説明する。

「契約者に! それじゃあ、封じられてもおかしくない。彼のことだから、魔物を退治しようと深入りして、自滅したかと思ってました」

 ウォルターが予想していたことをつぶやくと、戸口から舌打ちが聞こえた。

「失礼な奴だな。あの頃の僕なら、深入りしなくたって、魔物くらい燃やし尽くしたさ」
「ちょっと待って、ガネス。魔物って何?」
「精霊喰いのようなものだ。僕達の敵であり、善と悪のようにあいいれないが、世界には必要なもの」
「必要なの?」
「そこが厄介なんだ。見かけたら、燃やすが」

 ガーネストは魔物を燃やすが、魔物の存在は必要らしい。こんがらがってきた私は、とりあえずあいづちを打つ。

「ガネスにとっては敵なのね」
「精霊の敵だ」
「じゃあ、契約者の私にとっては?」
「敵に決まってるだろ」

 決まってるのか、そうなのか。
 相変わらず、高飛車な物言いをする少年だ。精霊の王だから? いや、目の前のウォルターは丁寧で優しい。性格の問題だろう。

「ガネスもこっちに来たら?」
「僕が近づくと、そいつが嫌がるから」
「ガーネスト! 封印されている間に、少し丸くなったみたいですね」

 感激をあらわにするウォルターに、ガーネストは怒る。

「太ってない!」
「性格の話ですよ」

 今のはガーネストが悪い。ウォルターはガーネストをまじまじと見つめる。

「それにしても、小さくなりましたね」
「エネルギー不足だ」
「僕もなんですよ。フォーレンハイト家は居心地が良いので、しばらく滞在します。よろしくお願いします」

 ウォルターは優しいが、図々しさはガーネストと同じくらいだった。
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