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三章 行き倒れの水の精霊王
15 水の精霊王は、爽やか系おっとり美青年でした
しおりを挟む「ありがとう、お嬢さん。すっきりしました」
冷や汗をかく私の前で、水の精霊王――ウォルターはむくりと起き上がった。
白磁のような肌は、透き通るようだが青白い。ゆるく波打つ銀髪から水をしたたらせ、アクアマリンの目で微笑む姿は美しい。
まるで神様みたいな、卓越した美である。名前や体格は男のようだが、実は女だと言われても信じただろう。いや、そもそも、この人に性別なんてものを当てはめてはいけないのかもしれない。
ぽーっと見とれる私とリニーの横で、庭師達は赤面した。
ガーネストは不愉快そうに眉を寄せる。
「こいつはただのまぬけだ。外見詐欺だから、真に受けるなよ」
「ガネス、お子ちゃまだからって、言いがかりは良くないわ」
「何をっ」
私の言葉に、ガーネストはこめかみに青筋を立てる。ボボボッと小さな火花が散った。
「精霊王のくせに、こんな所で行き倒れているなんておかしいだろ!」
ガーネストはウォルターを指さす。その通りかもしれないが、それをどうでも良いと思わせるくらい、ウォルターの美はぶっ飛んでいる。
「ふわわー、また火の気が強くなった。おさえてよ、ガーネスト。君のせいで、この辺りの作物が枯れそうなんだ!」
へにゃへにゃとうなだれながら、ウォルターが苦情を言う。
「え!? どういうこと?」
「ううーん、お水ぅー」
「待って、せめて訳を教えて、精霊王様!」
ウォルターの正体を横に置いて、私はウォルターの肩をゆさぶる。しかし、ウォルターはダウンしてしまっていた。
「お嬢様、とりあえず中にお運びしましょう?」
「それがいいわね」
庭師に頼んで、ウォルターを屋敷へ運び込んだ。
「あらあら、まあまあ。今度は水の精霊王を拾って……連れてきたんですか」
おばあ様、本音が出ています。
客室のベッドで寝ているウォルターを見て、おばあ様は困った顔をした。
「……というわけでね、ガネスのせいで、この領地の作物が枯れそうなんですって!」
「なんですって?」
おばあ様は耳を疑うという顔をして、ガーネストを凝視する。
「どういうことですか、ガーネスト様」
当のガーネストは、客室の長椅子に、足を組んでふんぞり返っている。
「まあ、だいたい想像はつく。僕という、火の気のかたまりが、これまで封じられていた。弱っていても、精霊王だからな。僕がいるだけで、周りに火の魔力が満ちる。それが気候に影響を与えたんだろう」
「それでどうして、水の精霊王が寝込むの?」
私が挙手して問うと、ガーネストは首をかしげる。
「なんでだろうな。僕はそいつより強かったが、今はそちらが上のはず。おい、ウォルター。お前も弱っているのか?」
「うーん、水ぅー」
「駄目だな、こりゃ。フォーレンハイト家の精霊もてなしの出番だぞ。悪いが僕は何もできない。エネルギーはだいぶ減ってるんだ。普通なら、そいつの水の気にやられて、僕のほうが体調を崩す」
ガーネストにも謎な状況なら、私達のような人間にはどうしようもない。
「水属性の精霊様なら、氷菓子を作りましょう。すぐにできるわ。アイリス、手伝ってちょうだい」
「はい、おばあさま!」
氷菓子! 私も食べたい!
自分の欲求もあったので、私は素直に従った。
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