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三章 行き倒れの水の精霊王
14 水の精霊王が行き倒れていました
しおりを挟む庭には、おばあ様が丹精込めて育てている薔薇が植わっている。
小ぶりで可憐な白い薔薇の間を通って、木陰のベンチまで向かおうと角を曲がった時、私は何かを踏みつけた。ぐにゃっとしたやわらかい感触にぎょっとして足を引く。
そこには銀髪の青年が倒れていた。
「ぎゃああああああ!」
あまりにも驚いて、私は令嬢らしからぬ悲鳴を上げた。
「し、死体! なんでこんな所で!? 誰かー!」
後ろからついてきていたリニーが駆け付ける。
「きゃあああっ」
リニーも悲鳴を上げ、私とリニーは抱き合って震えあがった。
そんな私達の前に、ガーネストがすっと出る。
「まあ、待て。大丈夫だ、こいつは……」
ガーネストが青年の様子を見て、こちらを振り返る。
そのタイミングで、スコップや鍬を持った庭師が二人、猛烈な勢いで現れた。
「なんだ! 泥棒か? うちのご令嬢に手を出すなんて、どんな不届き者だ!」
「馬糞置き場に埋めてやろうぜ、おやっさん!」
物騒なことを言い合う二人は、庭仕事のおかげで、筋骨たくましい。
今にも侵入者をとっちめそうな彼らを、ガーネストが止める。
「やめておけ。こいつは水の精霊王だ」
「は……? 水の……精霊王?」
「精霊……」
庭師達は固まり、みるみるうちに顔色が悪くなる。スコップと鍬を放り出して、地面に平伏した。
「精霊様を泥棒呼ばわりして申し訳ありませんでした!」
見事な土下座っぷりに、私とリニーはぽかんと口を開ける。
(これよ。この熱心さのせいで、私には友達ができないのよ……)
改めて、精霊信仰ガチ勢だと思い知った。
ガーネストは容赦なく青年を足蹴にして、声をかける。
「おい、ウォルター。なんでこんな所で寝てるんだ」
「う、うーん。水ぅ……」
その様子は、どう見ても行き倒れだ。
とりあえず死体でないことに安心した私は、彼の様子を気にする。精霊が倒れるなんて、いったい何があったんだろう。
「水が欲しいのか? お、ちょうどいいところに水盤があるじゃないか」
湧き水を引いているので、常に水が流れ続けている水盤をちらと見るガーネスト。
彼は火の精霊だから、当然、水に近づきたくないのだろう。嫌そうに眉をしかめている。
そういえば、風呂に入っているのだろうか。私は急に気になったが、それよりも精霊だ。
近くに水を汲むものが見当たらないので、麦わら帽子を脱いで、水を汲む。こぼれ落ちる前に、ダッシュで近づいた。
「はい、お水……! あ!」
慌てすぎて転んだ私は、水の精霊王の頭に、思い切り水をかけてしまった。
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