落ちこぼれ公女さまは、精霊王の溺愛より、友達が欲しい

草野瀬津璃

文字の大きさ
上 下
12 / 32
二章 精霊のおもてなし術

12 精霊の胃袋をつかめ!

しおりを挟む
 

 おばあ様のお友達は三日滞在した。
 にぎやかで明るく、なんといっても気が利く方だった。孫の私が滞在中と知っていて、お土産をどっさり用意してくれていたのだ。お礼の葉書を出そうと、私は浮かれている。
 それに加えて、やっとおばあ様からスキルアップを学ぶチャンスが到来したのだ。

「おばあ様、約束した精霊のおもてなし術を教えてください!」

 おばあ様のお友達をお見送りした後、私はさっそくおばあ様にお願いした。

「あらあら。やる気があるのは、良いことですよ。精霊のおもてなし術の極意について教えましょうね。『相手を思いやって、胃袋をつかむこと』です」
「胃袋をつかむ?」
「ただ胃袋をつかむのではだめ。料理には相手への思いやりがないと、精霊様も心を動かしてはくれません」

 うーん、よく分からないけれど、おいしいものをごちそうして精霊を感動させるってことだろうか。

「つまり好物を作ってあげるって意味ですか?」

 私の質問に、おばあ様は少し考え込む。

「アイリス、あなたの好きなものは?」
「苺のショートケーキです」
「ではあなたが眠れない夜に、ケーキを食べたいかしら」
「えっ。夜にケーキ? おいしいだろうけど、夜中に甘い食べ物はちょっと……。ホットミルクにはちみつが入ったものなら飲みたいですけど」

 おばあ様はにっこり笑う。

「つまり、そういうことよ。お料理や飲み物は、その時に合ったものがちょうどいいの。眠れない人がいたら、アイリスはホットミルクを持っていってあげようと思うんじゃないかしら」
「それが思いやりなんですね、奥深いですわ、おばあ様!」

 なんて優しいんだろうと、私は感動した。

「他の貴族は、娘も息子も、料理はしません。でも、我が家は精霊様に料理を供物としてささげることで、古くから精霊様と親しくしてきたの。少しずつ覚えていってちょうだいね」

 だから紅茶の淹れ方については、幼い頃から特訓させられていたのか。

(お父様から、お茶を淹れてと頼まれていたのは、実は試験だったのかしら)

 のんびりしたお父様を思い浮かべる。

(ううん。娘に構ってほしいだけな気がするわ)

 広大な公爵領を統治しているお父様は忙しいから、朝食か夕食でしか会わないことが多い。たまに暇があると、一緒にお茶をするのがささやかな楽しみだった。

「料理は練習と習慣あるのみです。今日から少しずつ練習していきましょう。そうね、一日、一品作るのを目標にしましょうか。今日は基本のおさらいと、簡単なサラダを作ることにしましょう」
「はい、よろしくお願いします、おばあ様!」

 ランチに合わせて、実際に調理することになり、身支度のおさらいから始めて、野菜の名前と洗い方、下ごしらえを教わった。

「きゅうり、トマト、ルッコラ」

 ルッコラをメインにしたサラダだったので、簡単だ。
 明日はドレッシングを教えてもらう予定だ。

「筋が良いわ、アイリス」
「アイリス、もっとトマトをよこせ」

 赤い食べ物が好きなガーネストに、トマトを切れと何度もせがまれたのだけは面倒くさかったが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...