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二章 精霊のおもてなし術
12 精霊の胃袋をつかめ!
しおりを挟むおばあ様のお友達は三日滞在した。
にぎやかで明るく、なんといっても気が利く方だった。孫の私が滞在中と知っていて、お土産をどっさり用意してくれていたのだ。お礼の葉書を出そうと、私は浮かれている。
それに加えて、やっとおばあ様からスキルアップを学ぶチャンスが到来したのだ。
「おばあ様、約束した精霊のおもてなし術を教えてください!」
おばあ様のお友達をお見送りした後、私はさっそくおばあ様にお願いした。
「あらあら。やる気があるのは、良いことですよ。精霊のおもてなし術の極意について教えましょうね。『相手を思いやって、胃袋をつかむこと』です」
「胃袋をつかむ?」
「ただ胃袋をつかむのではだめ。料理には相手への思いやりがないと、精霊様も心を動かしてはくれません」
うーん、よく分からないけれど、おいしいものをごちそうして精霊を感動させるってことだろうか。
「つまり好物を作ってあげるって意味ですか?」
私の質問に、おばあ様は少し考え込む。
「アイリス、あなたの好きなものは?」
「苺のショートケーキです」
「ではあなたが眠れない夜に、ケーキを食べたいかしら」
「えっ。夜にケーキ? おいしいだろうけど、夜中に甘い食べ物はちょっと……。ホットミルクにはちみつが入ったものなら飲みたいですけど」
おばあ様はにっこり笑う。
「つまり、そういうことよ。お料理や飲み物は、その時に合ったものがちょうどいいの。眠れない人がいたら、アイリスはホットミルクを持っていってあげようと思うんじゃないかしら」
「それが思いやりなんですね、奥深いですわ、おばあ様!」
なんて優しいんだろうと、私は感動した。
「他の貴族は、娘も息子も、料理はしません。でも、我が家は精霊様に料理を供物としてささげることで、古くから精霊様と親しくしてきたの。少しずつ覚えていってちょうだいね」
だから紅茶の淹れ方については、幼い頃から特訓させられていたのか。
(お父様から、お茶を淹れてと頼まれていたのは、実は試験だったのかしら)
のんびりしたお父様を思い浮かべる。
(ううん。娘に構ってほしいだけな気がするわ)
広大な公爵領を統治しているお父様は忙しいから、朝食か夕食でしか会わないことが多い。たまに暇があると、一緒にお茶をするのがささやかな楽しみだった。
「料理は練習と習慣あるのみです。今日から少しずつ練習していきましょう。そうね、一日、一品作るのを目標にしましょうか。今日は基本のおさらいと、簡単なサラダを作ることにしましょう」
「はい、よろしくお願いします、おばあ様!」
ランチに合わせて、実際に調理することになり、身支度のおさらいから始めて、野菜の名前と洗い方、下ごしらえを教わった。
「きゅうり、トマト、ルッコラ」
ルッコラをメインにしたサラダだったので、簡単だ。
明日はドレッシングを教えてもらう予定だ。
「筋が良いわ、アイリス」
「アイリス、もっとトマトをよこせ」
赤い食べ物が好きなガーネストに、トマトを切れと何度もせがまれたのだけは面倒くさかったが。
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