災禍の蝶と金の王

草野瀬津璃

文字の大きさ
上 下
20 / 24
本編

三章7 ベランダで

しおりを挟む


 山のようなプレゼントは、使用人が部屋まで運んでおいてくれるそうだ。
 彼らがプレゼントを運びだすのを眺めながら、ライラは不思議だと思った。
 レイルがパーティーを開いてくれたのも、プレゼントも、ライラがお返しに手作りの品を作るというだけで感極まっている様子も、本当につぐないの気持ちだけなんだろうか。
 まるで、それだけではないように感じられる。
 ライラがレイルのほうを見ると、レイルもこちらを見ていた。思いがけず目が合って驚くと、レイルが照れ混じりに微笑む。その笑顔を目にしたライラの心臓がトクンと鳴った。

(な、何かしら、今の感じ……)

 首を傾げていると、レイルが左手を差し出した。

「姫様、今日は晴れているので星がよく見えますよ。少しだけベランダに出ませんか?」
「ええ、構わないわよ」

 ライラはレイルの手を取って、エスコートされるまま、小広間のベランダに出た。
 冬は星がよく見える。

「綺麗ね」

 息を吐くと、空気がふわりと白に染まる。しばし星に見入ったライラは、隣にいるレイルへと目を向ける。

「ええ、本当に」
「……レイル様、空を見て言ってくださらない?」
「星空の下にいるライラ姫様もお美しいです」

 脈絡もなくレイルが褒めたので、ライラは反応に困ってしまう。

「急にどうしたの、レイル様」
「姫様、どうか聞いてください。私は姫様の姿を知る前から、姫様を……」

 レイルの真剣な眼差しが落ち着かず、ライラはレイルを伺う。レイルが何か言いかけた時、女官がマントを手に歩み寄ってきた。

「失礼します。ライラ姫様、外は寒いかと。こちらをお召しになってください」
「ああ、気が利かず、失礼を」

 レイルはしまったという顔をして、女官のマントを手に取ろうとした。
 その瞬間、女官はライラへと一気に距離を詰めた。怒りに満ちた形相で、マントをレイルに放り投げ、ライラに掴みかかる。

「この悪魔! わたくしのものを奪うなんて! そこにいるのはわたくしのはずだったのに!」
「きゃあっ、やめて!」

 長い髪を掴まれ、あまりの痛みに、ライラの目に涙が浮かんだ。声も顔も見覚えがある。レイルの元婚約者だというシェーラ・ランドだ。
 どうしてここにいるのか。女官の格好をしている理由もわからない。
 そこでレイルは頭からかぶせられたマントを掴んで外すと、床へ叩きつける。

「姫!」
「お前なんか、死んでしまえ!」

 細い腕にどこにそんな力があるのだろうか。シェーラはライラの腰を掴んで持ち上げると、そのままベランダの向こうへ突き落とした。

「えっ、きゃああああ」
「姫!」

 レイルがすぐさま手すりを乗り越え、ライラを追いかけて空を飛ぶ。その手がライラの右手を捉えようとした瞬間、ライラをまばゆい光が包み込んだ。
 あっという間に光の糸が視界を覆い、ライラは目を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

処理中です...