災禍の蝶と金の王

草野瀬津璃

文字の大きさ
上 下
14 / 24
本編

三章 レイルの婚約者 1 猫は小悪魔

しおりを挟む


 乗馬でのあの出来事から、一週間が経った。
 雲一つない快晴で、窓から見える庭に積もった雪が太陽の光を反射していてまぶしい。
 レイルのすすめに従い、ライラは部屋で過ごしていたが、そろそろ飽きた。塔で暮らしていた頃は、読書にふけるか、メアリーとチェスをするくらいだった。
 外を見たせいで、室内でじっとしているのは退屈だ。

「乗馬はできなくても、スノウライトに会いたいわ」

 あの優しい目をした馬を撫でているだけで、ライラは気持ちがほっこりと和む。

「分かります。可愛いですよね、あの子。でも、今はいけませんから、白雪で我慢してください」

 足元を歩いていた猫の白雪を抱っこして、メアリーはライラに渡した。白雪と雪明かりスノーライトで、どちらも雪つながりなのだなと気付いた。ライラはレイルとネーミングセンスが似ているのかもしれない。
 扉の傍に控えているニコラはうっとりとつぶやく。

「姫様と猫の組み合わせ、とても可愛らしいですわ。眼福です」
「白雪は誰といても可愛いわよ。あっ」

 ライラはそう言ったが、白雪はひざから下りて、暖炉の近くにある猫用のベッドのほうに向かった。丸くなるのを見て、昼寝の時間のようだと笑みをこぼす。

「自由気ままでまったく言うことなんて聞かないのに、なんであんなに可愛いのかしら。不思議だわ」
「猫は小悪魔ですからね」

 メアリーはくすっと笑う。以前、レイルも同じことを言っていた。

(だけど、小悪魔とはなんなのかしら。悪魔に大きいや小さいがあるの? いったいどういう意味?)

 今度、図書室で辞書を引いてみようと考えていると、廊下にいる扉番の騎士が誰かのおとないを告げた。対応しようとするニコラを制し、メアリーが廊下に出る。すぐに戻ってきたメアリーは険しい顔をしていた。傍にやって来て、小声で報告する。

「姫様、ランド公爵家のシェーラ様がおいでです。姫様に御用がおありとか」
「どなた?」
「レイル陛下の従妹いとこですわ。父方の叔母のご息女です。先触れもなく私室に突然いらっしゃるなんて失礼ですから、今日は追い払いましょう」

 メアリーはそう言ったが、ライラは好奇心を刺激された。

「レイル様の従妹? 会ってみたいわ」
「分かりました。では私がお傍に控えて、ニコラは陛下に伝言してもらいましょう」

 渋い顔をしたものの、ライラが目を輝かせているのに気付いて、反対しても無駄だと悟ったのだろう。慎重な意見を口にする。
 一週間前に矢を射られる事件があったのだ。メアリーの心配は当然だ。ライラも周りを刺激したくないので、レイルに伝言するのに否やはない。

「そうしてちょうだい。ニコラ、『あなたの従妹とお茶をしているけれど心配しないで』と伝えてくれる?」
「畏まりました」

 ニコラが退室すると、メアリーがテーブルを整えて客を通す。窓辺の明るい位置に、応接用のテーブルセットがある。椅子を立って客を迎えると、淡いピンク色のドレスに身を包んだ可憐な女性が静々と入ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

処理中です...