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連載 / 第二部 塔群編

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 翌朝、りあ達のいる宿に使いがやって来た。

「失礼します、ユーノリア様。こちら、クロード様よりお預かり致しました」
「……招待状?」

 りあは演技ではなく、自然と眉間に皺が寄った。
 二つ折りのカードをめくってみると、三日後の夜に、晩餐に招待する旨が書いてある。黒い燕尾服を着た使いの男は、アネッサにもカードを渡した。

「昨日、晩餐に招待するって言ってたね、そういえば。本気だったんだ」

 驚くアネッサに、男は頷く。

「当然にございます。クロード様は一度口にされた約束は守られますからな。それから、こちら、衣装でございます」

 パンと男が手を叩くと、下男らしき者達が衣装箱をりあ達の部屋へと運び入れた。部屋が一気に狭くなる。

「クロード様よりユーノリア様にご伝言です。『服を用意した、こちらを着てくるように。くれぐれも汚い旅装で参加しないよう』とのことです」

 りあはひくりと口端を引きつらせる。なんて嫌味くさい伝言だ。

「……分かりましたと返事しておいて」
「はっ、畏まりました」

 男はお辞儀をして部屋を出て行くと、今度は向かいにあるレクスとラピスの部屋を訪ねる。少し騒がしくなった後、レクスが顔を出した。

「おい、衣装が届いたぞ。あのクロードとやらは太っ腹だな。一式、くれるらしい。邪魔になるからいらねえんだけどな」
「何をおっしゃいます、レクス殿。素晴らしいお心遣いですよ。ふふふ、売れば小遣いが増えますね」

 ラピスは悪い顔をして、右手でお金のマークを作って金目を光らせる。

「私の鞄にお預かりしましょうか?」

 りあは自分の籠バッグを示す。防犯魔法がついた魔法のバッグだ。ゲームでいうところのインベントリのようなもので、アイテムを収納できる魔法がかかっている。

「いや、俺らも収納用のバッグは持ってるから必要無い。だが、余計なものを入れる余裕はないんでな」
「えっ、持ってるんですか? どこに?」

 りあは目を丸くした。レクスは王子であるし、Sランク冒険者だ。高価なバッグを持っているのも納得だが、大剣以外は手ぶらだ。ラピスも同じである。

「ここ」

 レクスは灰色の上着に手をかけて、内ポケットを示した。上が開いた袋のようなものがボタンで留められている。

「ボクもこちらにあるんですよ」

 ローブの横を、ラピスは示す。言われないと分からない位置に切れ込みがあって、ポケットになっていた。

「どういうことです!? バッグじゃないですよね、ポケットですよ、それ」
「袋状になっていればそれで魔法が作動するんだ。ま、小さい分、きちんとしたバッグより容量は減るんだが、身軽に動けるとありがたいからな」

 レクスは驚くりあにそう説明して、りあの籠バッグを示す。

「防犯魔法をかけようと思うと、そのくらいの大きさと強度は必要だ。魔法陣を刺繍するには生地が足りない」
「あ、なるほど……。ユーノリアは白の書のためにこちらのバッグを使ってるんですね」

 防犯魔法は、持ち主以外は勝手にバッグの中身を取れないようにするものだ。ユーノリアはアズルガイアの平和のためにも、白の書を簡単には盗られないように工夫していたらしい。

「ちなみに、私はここに下げてるよ。こっちは防犯魔法付き」

 アネッサは、腰の後ろに付けている革製のベルトポーチを示す。小さめだが、鞄だと分かる。

「魔法のバッグを手に入れたら、冒険者としてはしっかりした一人前とみなされるからね。高価だけど便利だし、冒険者はだいたい持ってる。それでも庶民には高い買い物だから、手に入れた時は嬉しかったなあ」

 苦労を思い出したのか、アネッサはうんうんと頷く。そして、ちらりと衣装箱を見やる。

「で、収納のことはさておき……。これだよ、これ。センスは良いけど、趣味じゃないな。どうしてドレスなんだ、私は騎士なのに」

 衣装箱には、暗い色合いのドレスが入っている。ダークレッドと黒、薄紫色と黒という組み合わせだ。シンプルな形だが、黒いレースがついているので華やかに見える。

「こちらも黒いんですね……」
「この町の連中、どれだけ黒が好きなんだよ」

 ラピスが苦笑いをする横で、レクスが鼻で笑う。

「君達のはどんなものだったんだ?」
「こっちだ」

 アネッサが問うと、レクスが自分達の部屋に手招いた。衣装箱には、黒の上着とズボンのセットが二つ入っている。差し色に灰と青が入っているが、全体的に重たい雰囲気だ。
 アネッサがけらけらと笑う。

「レクスはチンピラみたいだから、この色は似合いそうだな。ラピス君は着てみないと分からない」
「いえ、この時点でおかしいですよ」

 黒い帽子を頭に乗せて、ラピスが渋い顔をする。りあはきゅんとした。

「可愛いです、ラピスさん! ぬいぐるみみたい!」
「最悪な褒め言葉をどうも」

 ラピスは皮肉をこめて返し、帽子をぺいっと箱へ投げた。不機嫌そうなラピスの隣で、レクスも体の前で腕を組む。

「こっちもだ。チンピラみたいだから似合うってどういう意味だ、アネッサ」
「そのままの意味だけど」

 しれっと答えるアネッサを、レクスは怖い目でにらむ。はらはらする空気にたじろいで、りあはレクスをなだめる。

「まあまあ、良いじゃないですか、レクス。黒が似合う男の人って格好良いですよ」
「いや、リア。こいつの場合はガチで暗殺者になるから気を付けないと……」
「アネッサ、戻りましょっ。家に行く準備をしないといけないんだったわ」

 これ以上アネッサが余計なことを言う前にと、りあは無理矢理話を変えて、アネッサを部屋へ引っ張っていく。

「もー、レクス殿が怖いのでやめて下さいよ、アネッサ殿」

 後ろからラピスの苦情が聞こえた。
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