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コミカライズお礼+完結お祝い企画ss
リク01 オニキス視点の話。
しおりを挟む※赤ちゃん竜~の一巻、黒ドラゴンのオニキス視点でのお話です。
ちょっと飛ばしているところもあります。
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その日、地下の暗い部屋の中に、それが落ちてきた。
身を丸くして寝ていた名も無き黒ドラゴンは、音と気配に驚いた。
「うう、ものすごく痛い……」
それは何か呟いて、そろりと身を起こした。
黒ドラゴンはビクリとした。
暗闇の中、見える影は魔族とよく似ていたが、肌の色が全く違っている。
これはなんだろう。
だが魔族によく似ている。
また魔法で攻撃されるのではないか、と緊張した。
魔族に捕まり、檻に入れられた最初の頃のことを思い出す。激しい痛みは、黒ドラゴンがすぐに思い出せる程の強烈な衝撃だった。
「グルゥゥゥ」
警戒して黒ドラゴンがうなると、意外にもそれは頭を伏せた。自分よりも低い姿勢を取ることは、ドラゴンの世界では、敵意がないことを示す。
しかもそれはじりじりと、端まで下がっていった。
黒ドラゴンから取れるだけの距離を取り、身を伏せる小さなそれ。
よく分からない生き物だったから、黒ドラゴンは怖さにうなり続けた。だが攻撃する程のなにかは感じられず、だんだん戸惑い始める。
そのうち、それは不思議な音を出した。
高い音で、リズムが心地良い。
耳を傾けているうちに、警戒が溶けて消えた。
しばらくして、それは寝たようで、静かになった。
天井から漏れる明かりで、朝が来たのを悟る。
ビクリと飛び起きたそれの動きに、黒ドラゴンも驚いた。
なんだか不思議な動きをする生き物だ。
ドキドキと緊張していると、それはまた、さっと頭を伏せた。そして昨日のような、不思議な音を出した。
黒ドラゴンはほっとした。それはこちらのテリトリーへの新参者らしく、礼儀正しく丁寧だ。
少し時間が経つにつれ、この小さな生き物を巣の仲間として迎えるべきなのか、黒ドラゴンは考えていた。
野生の黒ドラゴンは、少数の群れで暮らす。仲間と引き離され、恐ろしい魔族ばかりの場所で、彼は寂しさを感じ始めていた。
どうしようか。
迷っていると、餌の時間になった。
その時、それが腹を鳴らした。空腹なのだとすぐに分かった。
それがあまりに小さいので、だんだん黒ドラゴンには、庇護すべき幼い雛のように思えてきた。
餌を分けてやったが、それは食べない。
群れでは餌を分け合うものだ。
自分と仲間になりたくないのだろうかと、黒ドラゴンはうずくまったままじっと伺っていた。
餌を分けたことが良かったらしい。
それは黒ドラゴンに親しみを覚えたらしかった。
そして、黒ドラゴンに、オニキスという名をくれた。黒く綺麗な石のことをいうらしい。なかなか悪くない名だ。
気に入ったので、自分の名はオニキスということにした。
それが話しかけてくる言葉は魔族と同じだったが、声は落ち着いていて優しい。
どうやら生肉を食べられないらしいそれは、だんだん弱ってきていた。不思議な音が――あれは歌というらしい――少しずつかすれてきている。
それはぽつりと零した。
「ここから出られたらいいんだけどね」
その言葉に、オニキスは気持ちが奮い立った。
オニキスもここを出たかった。
だったら出ればいいのだ。
どうしてこんなことを思いつかなかったのだろう。
そして外に出て、この小さな生き物に餌を与えなければと、思い切り暴れた。
それを背に乗せ、久しぶりに空を駆ける。
爽快感とともに、それの喜びようが誇らしい。
大好きな空。
一頭で飛んでいた時よりも、背に小さな友を乗せている方が、ずっと楽しい。
やがて見つけた泉で水を飲ませると、それの飢えは少し落ち着いたようだった。
美しい星空の下、寒がるそれを翼に覆って、共に眠りについた。寒く風は冷たいけれど、なんだか温かい夜だった。
そして翌朝、自分の住処に帰りたいという小さな友を背に乗せ、オニキスは空を飛んだ。
もう元の群れに居場所はないだろうし、この辺りにいればまた捕まるかもしれない。
オニキスはそれと共にいようと考えていた。
傍にいればきっと楽しいだろうし、この礼儀正しい小さな友は、きっとオニキスを優しく巣の仲間に迎えてくれるだろう。
それに、あの魔族のような悪い奴らが小さな友をいじめるなら、守ってやらねばならない。怯えて殺してしまった魔族ですら、オニキスの攻撃の前ではあっさりと死んでしまった。あれよりも弱そうに見えるのだから、大変なことだ。
だが結局、恐ろしい魔族による攻撃で、共に砂地に墜落してしまった。
小さな友が呼んでいる。
オニキスはぼろぼろで、くたびれていた。
久しぶりに空を飛んだ上、火の魔法をいくつも浴びた腹部が焼けるように痛む。
返事をしろと友が騒ぐので、オニキスは重たい目蓋をゆるゆると持ち上げた。
「グルルルル……」
小さく鳴くと、友は泣きだした。
「こんな、こんな無茶して! ……でも、ここまで連れてきてくれてありがとう……」
オニキスの鼻面に抱き着いて泣く友を持て余し、オニキスは不思議で心地良い音を出して、落ち着かせることにした。
「歌、気に入ったんだ? それで私を助けてくれたの?」
「ルルル……」
そうだ。だが、巣の主に礼儀を払うところも気に入ったのだ。
そんなつもりで返してみたが、オニキスには小さな友の言うことが分かるのに、小さな友にはなんとなくでしか伝わらないらしい。
歌のことだけだと思ったようだった。
「そうなの……ありがとう。ありがとう!」
一層力を込めて抱き着く小さな友の姿に、まあいいか、とオニキスは考える。オニキスの無事を喜ぶ姿は、ピイピイと鳴く子どもドラゴンのようで愛らしい。
やはり守らねばならぬ。
そう思ったが、その後、怒れる魔族に取り囲まれた。オニキスは死を覚悟した。
だが結局、小さな友の仲間により、魔族は追い払われた。
しかも、聖竜まで現われたのだから驚いた。小さな友は、聖竜の育ての親でもある、ドラゴンの導き手であったらしい。
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大切に扱ってくれる者と一緒にいたいと思うのは、黒ドラゴンとて変わりはない。
ありがたいことに、聖竜はオニキスを認めてくれた。
人間の王も許可をくれたので、オニキスも共に帰れることになった。
「皆で帰ろう! オニキスも一緒だよ!」
小さな友の温かな笑顔が、オニキスの頭に焼きついた。
この日のことを、オニキスは長い時を経て、死が訪れるその日まで、ずっと忘れることはなかった。
そして、あの歌も。
……終わり。
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