目隠し姫と鉄仮面

草野瀬津璃

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スピンオフ レネ編「木陰の君」

09

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「南区の一位は、ゲイク・ヴァーリー」

 司会の発表に、わっと拍手が起こった。
 東西南北、それぞれから一人ずつ一位が発表され、前に出てきた四人はお辞儀する。
 試験だが、団員達にしてみればお祭りと変わらない。
 一位は古株ばっかりだ。長年の経験で、道をよく知っているのだろう。
 レネも拍手しつつ、右手を挙げて注目をするように合図する。

「皆さん、ご協力ありがとうございました。お話していました通り、巡回や警備に活かしますので、気付いたことなどを後日提出して下さい。期限は三日後の夕方五時までです。よろしくお願いします」

 レネが注意事項を話した後、副団長ロベルトが挨拶する。

「団長は公務で不在なので、閉会は俺が担当する。今日一日、ご苦労だった。皆で知恵を出し合い、メリーハドソンの治安を守っていこう。くれぐれも提出を忘れないように」

 しっかりと釘を刺され、参加者は配られた白紙を真面目に見下ろす。

「以上だ」

 ロベルトらしい、感慨も何も無いあっさりした挨拶だったが、団員達は拍手する。
 長ったらしい挨拶より、団員達には好評だ。
 司会がぺこりとお辞儀した。

「最後に、皆さん、試験を担当してくれた幹事の皆さんにも拍手をお願いします」

 司会の催促に、団員達は拍手する。司会はにこりと笑った。

「では、閉会とします。解散!」



「ああ、終わった。良かった」

 皆が立ち去ると、レネはその場にしゃがみこんだ。
 進行が上手くいくかやきもきして、緊張の連続な一日だった。

「ご苦労だったな、レネ。打ち上げは今夜七時からだ、片付けもあるだろうから遅れるのは構わんが、忘れるなよ」

 ロベルトはレネの肩をポンと叩いて、ハンスとともに足早に本舎へと去っていく。

「ありがとうございます、副団長」

 レネがその背中に声をかけると、ロベルトはひらひらと右手を振り返した。

「何だか忙しそうだな」
「問題が起きてるっぽいからなあ」
「うわ、びっくりした。お前、黙って後ろに立つなよ!」

 ゲイクに文句を言うと、ゲイクは「ほら」と右手を差し出した。

(ぐぬぬ、優しい)

 ときめくからやめろ! と内心で文句を言いつつ、手に掴まって立ち上がる。恥ずかしさを誤魔化しながら、ゲイクに問う。

「で、問題って?」
「それはまだ内緒だな」

 ゲイクはそれ以上触れなかった。だが彼の情報網には何かしら引っかかっているのだろう。変な奴に好かれる難儀な体質は、伝手の広さに繋がっているらしく、たまにどこからそんなことを知るのだという情報を持ってきたりする。ロベルトがゲイクを重宝がっているのはこの辺だ。

「あの人も大変だよ、本当。実務的な地味なところは、ほとんど引き受けてるだろ」
「だけど副団長は華やかな場を嫌うだろ。いいじゃないか、そういう所は団長に任せれば。あの方ならパーティーに出て、寄付金を集めるのも上手だし」

 ひらひらふわふわして見えるハーシェルだが、レネは――というか団員は、あれでいてハーシェルがしっかり働いているのは知っている。
 あの麗しい顔で微笑むだけで、金持ちから寄付がいくらか警備団に入るらしいから、美形っていうのは得だ。もしロベルトが出席したら、いつもの調子で怖い顔でにらんだりして、むしろ客が逃げそうである。

「まあ、適材適所だよな」

 ゲイクも同意する。

「私には団長の笑顔は恐ろしいんだけど」
「俺も」

 こればっかりは団員達は意見がそろうはずだ。
 顔は怖いが、副団長の方が団内では人気が高いのは、トラウマな入団試験を潜り抜けたからだ。

「とりあえずそっちのことは忘れて、まずは片付けして、それから飲み会に行こうぜ」
「ああ」

 使った道具の点検をしたり、個数を数えたり、いらないものを処分したりと細々した雑事が待っている。それからレネは報告書も書かなくてはいけない。

「先輩、これ、中に運べばいいですか?」

 シゼルが問うので、レネは頷く。

「ああ。エディ、お前もそっちを運んでくれ。宿直室で点検しよう。倉庫が傍だから」
「時計だけ寄越してくれ。ヘレンに点検を頼んでくる」
「助かる。よろしく、ゲイク」

 レネは時計入りの箱をゲイクに手渡す。
 時間を測るのに使った懐中時計は高価な品だ。借りた場合、しっかり磨いて掃除もして返すのが規則である。

「お前だと、大雑把すぎて壊すだろ」
「うるさいぞ、一言余計だ!」

 思わず足が出たが、ゲイクはひらりとかわして、笑いながら去っていった。

「ヘレンさんもなあ、天才なのに変な人だよ……」

 わりと人の話を聞かない女性だが、不思議なことに、ゲイクの言うことは聞く。
 頭が良く機械や薬品の扱いが得意なので、懐中時計のような繊細な道具の点検には一番向いている人だ。

「なあ、エディ。私って変か?」
「へ!?」

 荷物を運ぼうとしていたエディは、レネの問いに驚いた。

「レネ先輩は変じゃないですよ、わりと常識的でかっこいいっす」
「そうか……行っていい」
「はい!」

 エディが、先を行くシゼルを追いかけるのを、レネは何とも言えない表情で見送る。
 かっこいいと言われるのは、はたしていいことなのだろうか。
 嬉しい反面、女性としてはちょっぴり複雑だ。

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