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第一幕 取り違えにご用心!
終章
しおりを挟む「そういえば、レニー。あなたもリッドフォードさんの男装を見たのよね? とても素敵だったわよね。何でアレがああなるのか分かんないわ。演技派よねえ」
後日、レニーが工房でデザイン画を詰めている所にやって来たニーネは、工房の隅の暖炉前に椅子を持ってきて勝手に居座り、暇つぶしにと作っている靴下を編みながら、溜息まじりに言った。
「へえ、そんなに素敵だったの?」
レニーはスケッチブックから顔を上げ、きょとんとニーネを見る。
ニーネの表情が唖然としたものになった。
「え? だってあなた、リッドフォードさんに抱えられて帰ってきたじゃない。当然、見てるはずよね?」
「確かに見たんだけど、ドレスの弁償が出来なくて警察に突き出されると思って泣いてたもんだから、視界がぼやけてよく見えなかったのよねえ」
それは見てみたかった。
レニーはがっかりしたが、あの時はそれどころではなかったのだ。
「ああ、何てもったいないことをしたの、レニーったら。とても良い男だったわよ。なのに何であんな趣味を持ってるのかしら、変な人よねえ」
ニーネは右頬に手を当て、しみじみと呟く。
「やっぱり女顔なんですか?」
「それがね、綺麗な顔だったけど、女顔ではないのよ。化粧を落として男装をされてると、女っぽさがどこにもないの。双子かよく似た別人って言われた方がしっくりくるくらい。もしかして、いつもお会いしてる方は影武者なんじゃないかしら」
「もし影武者だとして、家の評判を落とすような影武者がどこにいるんですか」
あんな変人臭大爆発な影武者、誰も喜んで使うまい。
「見てないんなら仕方ないわねえ。盛り上がれるかと思ったのに。ところでレニー、デザイン、どうなったの?」
つまらなくなったのか、ニーネは話題を変え、レニーのスケッチブックをちらりと見た。レニーはニーネの側に歩いていき、スケッチブックの絵を見せる。
「だいたい纏まりつつあるものだと、こんな感じですね。ディアナ様にはね、雪の中に咲く菫のイメージでデザインしたの。でね、“マデリーン”は、雪と星のイメージよ。雪の中を逃げてる時に見えた景色が綺麗だったから。あの人、髪色が濃いから、こういうのは似合うんじゃないかしら」
「銀細工に、ガラス細工をあしらう形なのね? 素敵。私、あなたの細工の仕事はほとんど見たことないけど、センスあるわ」
「ありがと、もうちょっと詰めたら完成するから、もう少し待ってて下さいね」
「ええ、勿論よ」
ニーネはにこやかに頷いた。
その日、遅くまで考え込んだ甲斐あって、ようやくデザイン画が完成した。
第一幕終わり。
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