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本編
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しおりを挟むお互いに分かり合い、ルシアンナがラドヴィック任せにしたくないと言ったため、改めて作戦を話し合うことにした。
メイベルがお代わりの紅茶を淹れ、静かにひかえる。
「やっぱり、まずは殿下とメアリを味方につけるべきだと思うわ」
ルシアンナが切り出すと、メイベルが深く同意した。
「ええ。アーヘン様がお好きなのがスプリング様だと殿下に誤解されたままでは、上手くいかないのでは」
「そうだな。俺はすっかり敵視されている。がんばりすぎたな」
ラドヴィックはやれやれと首をすくめる。
「だが、殿下はまだ学園にお戻りではないだろ?」
「エドウィン様はぎりぎりにいらっしゃるそうよ。他国との友好行事があるから、そちらに出席しなければいけないの。まずはメアリに話しましょう。――ところで」
ルシアンナには気がかりなことがあった。
「さすがに、殿下からの賠償うんぬんはやめにするのでしょう?」
「殿下がどうおっしゃるか、だよ。殿下がメアリをお好きになって、君と婚約破棄したいと思っているのは事実なわけだし。君達の婚約は正式なものだから、君に賠償を払うのは一般的に正しい」
「世間的に見れば、そうかしら……」
エドウィンは良い人だ。あまり不名誉な傷を残したくない。
「一つずつ、クリアしていこう。まずはメアリ。その次が、殿下。それから……誰を味方に引き込むか、だな。それは二人をどうにかしてから考えよう」
「そうね。では、今日は解散しましょう。メアリにはまず、わたくしから話してみます」
「俺が話すより、よっぽどいいね。冗談だと流されそうだ」
「あら、信用されてないのね」
「俺の言葉は、小鳥のおしゃべりより軽いってさ」
ラドヴィックの態度の軽さは、メアリを不審がらせるようだ。
「では、わたくしは部屋に戻るわ。雨が降りそうだもの」
空には黒雲がかかり、風が吹き始め、湿ったにおいがする。雨の前触れだ。
そういえば、先ほどラドヴィックに取られた長手袋はどこに行ったのだろうか。東屋の中を探すと、床に落ちている。ラドヴィックがさっと拾い上げて謝る。
「悪かったよ、忘れてた。つけてあげようか?」
「け、結構よ」
にこやかに迫ってくるので、ルシアンナはわずかに動揺した。長手袋を返してもらい、自分でつけ直す。
「後で、良い薬を贈るよ。切り傷にもよく効くんだ」
「どうしてそんなものをご存知なの?」
「領地で小競り合いがあったら、俺も兵士と戦うからさ」
「あなた、跡取りなのに?」
「こうやって経験を積ませようっていう考えなんだ。領地のことを分かるには、ちょうどいいよ。でも、戦いになるのは悪手だな。一番は戦いを回避することだ。だから俺は、外交官になりたいんだ」
以前は、スリルなゲームのように言っていたが、実際はアーヘン領で見てきたことが理由らしい。
「真面目にしていればいいのに」
「俺のこと、見直した? 好きになっていいんだぞ」
「もう、やめてくださいな」
あんまりにもてらいもなく言うので、ルシアンナのほうが赤面してしまう。すると笑っていたラドヴィックが真顔になった。
「ルーシー、その顔、ぐっとくるからやめたほうがいい」
「何を言ってますの?」
ラドヴィックという人物は、やっぱり謎めいている。
困惑するルシアンナの傍で、メイベルがわざとらしくせきをする。
「ごっほん。アーヘン様、いい加減になさいませ。あんまり調子に乗ると、紅茶をまずく淹れますわよ」
「それは困る。さあ、寮に戻ろうか。先に行ってくれ、時間差で帰るよ」
「分かりました。では、また」
ルシアンナはラドヴィックに淑女のお辞儀をして、メイベルとともに歩き出す。ルシアンナが寮についた頃、雨がどっと降り始めた。
「ラド、濡れていないかしら」
心配するルシアンナに、メイベルが答える。
「風の魔法で、水を弾くのでは?」
「そういえば、そうおっしゃってたわね。すごいわ」
それから、夜になり、大食堂で夕食を終えて部屋に戻ると、扉の取っ手に紙袋が引っかかっていた。中には軟膏が入っている。
『俺が絶対に君を助けてみせるよ。信じてくれ』
紙袋の底には、短いメッセージとRの文字が書かれたカードがあった。
ルシアンナはどうしてかそのカードを捨てる気になれず、辞書の間にそっと挟んでおくのだった。
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