女神さまだってイイネが欲しいんです。(長編版)

草野瀬津璃

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第二部 赤の騎士団立て直し編

 03

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 廃棄された中央街道は、雑草におおわれている。しかし石畳がある場所だけ草の色合いが違うため、遠目からは草原の中に線が引かれているように見える。
 大所帯がゆっくりと進む中、ハルは魔物の接近を騎士達に教えたり、自分も魔法の矢で撃ち抜いたりして、快適に旅をしている。

「黒の御使い様、どうやって魔物に気づいているのですか? 訓練した斥候せっこうですら気づかないものも言い当てますよね」

 有角馬に単騎で乗っているフェルは、驚きと感心をこめて、ハルに問う。

「うーん、なんとなく分かるのよね。あ、あっちにいるなあ」

 ユリアスの後ろに座ったまま、ハルは遠くを見やる。

「ああ、あれか」

 その魔物にユリアスが気づいて、魔法を放った。落雷によって、潜伏していたギーカーが黒焦げになる。巨大なムカデのような魔物だ。
 騎士団の中でも下位の騎士が、すぐさま魔物の核を回収しに駆けて行った。

「私も目は良いほうですが、お二人ほどではありません。どうしてこの距離で見えるんですか」

 呆れているフェルの言葉を聞いて、ハルは笑った。

「あはは。メロちゃんと同じことを言ってる~。私は上位世界から来たのと、女神様の加護のおかげよ。この場合、ユリユリがおかしいのよね」

 ユリアスは有角馬の馬上から、ハルをにらむ。

「ユリユリって呼ぶな。お前な、俺の威厳とか考えろよ」
「そんなことを言ってるから、くそ真面目で固すぎるんでしょ。いいじゃん、ユリユリ。かわいいでしょ」
「じゃあ、お前はハルハルか?」
「呼んでもいいけど、なんかそれで呼ぶユリアスのほうが馬鹿みたいだよね」
「おい!」

 ハルがあわれみを浮かべると、ユリアスはこめかみに青筋を立てる。
 このやりとりに、フェルは目を丸くする。

「殿下、本当に丸くなられましたね。真面目すぎて冗談も通じなかったのに」
「フェルさん、冗談が通じなくて天然なのは、今でも変わらないから安心して」
「はは、そうですか。ああ、そうだ。私のことはフェルと呼び捨ててください、黒の御使い様」
「私のことも、ハルでいいわよ」
「はい、ハル様」

 ハルとフェルが気安く言い合っていると、ユリアスは面白くなさそうに口をゆがめる。

「二人して、好き勝手に言うな」
「はいはい。ごめんってば」

 ユリアスがすねると面倒くさいので、ハルはひらひらと手を振った。

「ところで、殿下、ハル様」

 フェルはおずおずとこちらをうかがう。

「なんだ?」
「先ほどから気になっていたのですが……。もしやお二方は交際されているとか?」

 フェルが質問すると、騎士達の視線も飛んできた。ハルは手を振る。

「ううん、付き合ってないわよ」
「告白はしたが、返事はもらってないな」

 ユリアスがあっさりとそんなことを言うので、ハルはぎょっと目をむく。

「えっ!? それ、言っちゃうわけ、ユリユリ!」
「事実を告げて何が悪いんだ?」
「そういうところが頭が固いんだよ!」

 ハルは頭に手を当てる。ユリアスは首を傾げた。

「ほんっと天然だよねえ。事実ならなんでも口にしていいわけないでしょうが。情緒とかないわけ~?」
「我が主が申し訳ありません、ハル様。後で言っておきます」
「フェルさんが謝っちゃったよ! 駄目だよ、そうやって甘やかしちゃ。言わなきゃ分かんないんだから、この人」

 ぷんすかと怒るハルに、騎士団の女性達から同情の目が向けられる。男性のほうも、「あーあ」という顔をして首を横に振っていた。

「すみません。しかし、そんなに親密なのに、付き合っておられないのが不思議なのですが」

 フェルは謝ったものの、納得していないようだ。

「なんで?」
「自然とタンデムされてますし」
「私は有角馬に乗れないんだよね」
「気安く会話をしておられます」
「友達だからねー、こんなもんじゃない?」

 ハルの大雑把な返事に、フェルはやはり首をひねる。ユリアスがふんと鼻を鳴らす。

「ハルは明るくてうるさくて、誰にでも気さくだから、こんなものだ」
「うるさいは余計なんですけどー」
「文句があるなら、とっとと返事をよこせ」

「ええー、今すぐは嫌だな。ユリユリはさあ、私みたいなのが物珍しいだけなんだって。本来の場所に戻ってから、よーく考えたほうがいいよ」

 ハルはユリアスの背中をポンと叩くと、飛翔の魔法を展開して、ふわりと空に舞い上がる。そのまま、近くの馬車の屋根に降りて座った。
 ぎこちない空気が漂い、フェルが頭をかいて謝る。

「えーと、なんだか申し訳ありません、殿下」
「構わん」

 ユリアスはため息をついて、視線を前に戻す。しつこくしないだけ、ありがたい。

(はあ、まったく。大勢の前でする会話ではないわよねー)

 たまに見せるユリアスの無神経さに、ハルはイラッとし、白猫のユヅルをなでて気持ちを落ち着かせた。
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