女神さまだってイイネが欲しいんです。(長編版)

草野瀬津璃

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第二部 赤の騎士団立て直し編

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 グレゴールが気をきかせ、用意しておいてくれたお弁当を持つと、彼らとの再会を約束してから、ハルとユリアスはダルトガを出た。
 城壁の上から、メロラインや神官が手を振っている。それに気づいて、ハルは手を振り返した。

「さて。次は赤の騎士団と会わせたいところだが、俺の力が戻ったことは、まだ兄上にばれるわけにいかない。このまま廃城ダウンに向かおう」

 額に角がある有角馬うまを操りながら、ユリアスは前を見たまま話す。ハルは有角馬には乗れないので、いつもユリアスの後ろに乗せてもらっている。そんなハルの肩には、白猫の姿になったユヅルがしがみついていた。
 女神リスティアにもらった強い武器は弓なのだが、使い魔でもある。危ない時は守ってくれる防御機能付きだ。

「えっ、いいの?」
「ああ。元々、お前を追いかけて王都を出た時、フェルには廃城に行くように言ってあったからな。すでに向かっているはずだ。急げば、廃城に着く前には追いつけるだろう」
「空を飛んだほうが速いんじゃない?」

 ハルは女神からのご褒美でもらったため、この世界の人間と違って、飛行の魔法を使える。そのため、旅の間、ブランコのようにしたロープを持って、ユリアスを運んであげたりしていた。

「隣を飛んでもいいぞ。二人乗りよりは速いだろ」
「オッケー」

 ハルの背中に魔法の翼が現れ、その身がふわりと宙に浮かび上がる。
 ユリアスはフードを目深にかぶって姿を隠しながら、有角馬の腹を蹴る。

「はっ」

 有角馬の速度がぐんと上がる。
 小物の魔物は無視して、ハルはユリアスとともに街道を猛然と進んでいった。



 身軽な二人旅に対して、赤の騎士団は大所帯でゆっくりと進んでいる。
 おかげで、中間地点ほどにもかかわらず、三日で追いつくことができた。

「フェル!」
「隊列、止まれ! 団長、ハル様と合流できたのですね。良かった」

 荷車を含めれば、馬車が十はある。その隊列の中ほどにいた青年が、有角馬から飛び降りて、うやうやしく頭を下げる。
 隊列の人々も有角馬や馬車から降りて、ユリアスに向けて膝をついて礼をとった。ユリアスは青年を示す。

「ハル、以前も会っただろう? 現在の赤の騎士団団長のフェルナンド・ドアナだ」

 紹介されたフェルは、きっぱりと否定した。

「いいえ、私は今でも副団長です! 黒の御使いハル様、お会いできて光栄です。殿下をお救いいただいてありがとうございます。私は旅のお供をしたかったのに、殿下に騎士団を守れと命じられ、泣く泣くお傍を離れておりました」

 フェルは長い銀髪をゆるく垂らして、前で結んでいる。切れ長の目は琥珀色で、この世界の仕組みにのっとれば、かなり強い人間だ。見目が良いからモテそうだが、鋭い雰囲気はどこか近づきにくさもあった。

 騎士団の人々は、非戦闘員以外は鎧に身を包んでいるものの、スラックスかスカートかの違いはあっても、似たような型をした臙脂えんじ色の衣服で統一しているようだ。騎士には男女ともにおり、精鋭だけあって皆が精悍な顔立ちをしていた。

「わあ、忠誠心があつい感じなんだね」

 フェルの返事に、ハルが驚くと、ユリアスは笑い返す。

「普段はツンツンしていて、クールなんだがな」
「なんですか、そのおっしゃいようは。殿下、私がこの三年、どれだけ心配したとお思いですか!」

 フェルが抗議して眉を吊り上げたタイミングで、ユリアスがフードを外した。フェルは目を丸くする。

「……え? 殿下、その髪と目は……」

 ユリアスの白い髪と金目を見て、フェルだけでなく騎士団の人々にざわめきが広がる。

「俺の呪紋じゅもんが神々に評価されたそうでな。女神様がご褒美にと、力を戻してくださった」
「で、殿下。よがっだ。ううっ」

 さっきまで怒っていたというのに、フェルの目から涙があふれ、腕で顔を覆って、嗚咽おえつ をこぼす。それは他の騎士達も同じだ。そろって地面を見下ろして、泣き始めた。

「国のためにと身を張ったあなた様だけが、我々のあるじです。陛下にもずっと反発しておりました。これで我らの苦労も、ようやく報われました……」
「皆、待っていてくれてありがとう。心から礼を言う」

 ユリアスが感謝を述べると、フェルは地面に両ひざをついて、ハルに向けて土下座をした。

「皆の者、女神様のご慈悲に、一礼! 黒の御使い様、まことに感謝申し上げます!」

 フェルに続いて、土下座した騎士達が声をそろえる。

「感謝申し上げます!」

 野太い合唱に、ハルは面くらったものの、彼らの感激とうれしい気持ちが伝わってきたので、へらりと笑った。

「ど、どういたしまして……?」

 こんな返事でいいのだろうか。
 感激して泣きながら、仲間と抱擁をかわし、騎士達は喜びを分かち合っている。ハルは何度もお礼を言われる状況を持て余しながらも、彼らの晴れやかな顔を眺め、自然と頬をゆるませるのだった。
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