12 / 46
第一部
03
しおりを挟む同行していた面々が、草原にいっせいに花が咲くという奇跡を目の当たりにしたために、ハルは嫌でも自分が何者なのかを説明しなくてはいけなくなった。
「はあ、ハル様は父神様の世界からいらしたんですか?」
ヨハネスはぽかんとして質問した。
「そうなんです。最近、神様の間では、自分の世界の絵を自慢しあう遊びが流行ってるらしいんですよ。それなのに、リスティア様の絵には全然イイネ……えーと評価をしてもらえないから、私が旅しながら絵を描いてくれって頼まれたの」
写真と言っても伝わらないので、絵ということにしてハルは説明した。ヨハネスはまだ唖然としている。
「女神様に喜んでもらうため、絵を描いて回るって、本当にそのままの意味だったのか!? いや、ですか? てっきりそういう名目の巡礼の旅なんだと……なあ?」
「ええ、私もそう思ってたわ」
ヨハネスに同意を求められ、カサリカは頷いた。そして、手を挙げて問う。
「さっきの奇跡は、もしかして女神様がお喜びになったことで起きたのですか?」
「そうだと思うよ、私は初めて見たし……私には花を咲かせる能力なんてないですもん」
メロラインは琥珀色の目を輝かせ、胸の前で両手を組む。
「ということは、他の神様から評価を得られたということですか?」
「そうよ。やっと一柱分が増えたの」
ハルが肯定すると、皆、おおーっと歓声を上げた。拍手して喜んでいる。
「私には他の神様に何がうけるのか、いまいち分からないのよね。それで旅をしながら探して回るつもりなの。だからね、皆さん。すごいのは私じゃなくて、女神様よ。私は上位世界から来ているのと、女神様にもらったこの武器のお陰で強いの」
ハルはここぞとばかりに、自分はすごくないアピールをする。
「だからお願いなんで、拝まないで! ヨハネスさんも、今更、様で呼ばれると鳥肌が立つからやめて!」
ハルの拒否に、ヨハネスが微妙そうな顔になる。
「そこまで嫌がらんでも……。女神様の使いってだけで十分すごいだろうに」
溜息を吐いたヨハネスは、ホワイトグレーの髪をぐしゃぐしゃと掻き回してしばらくうなっていたが、ようやく頷いた。
「分かった! じゃあ、元の通り、ハルちゃんと呼ぶからよろしく頼むな」
「はい、よろしくお願いします」
お互いにがっしりと握手をしたところで、周りも自分達もそうすると声を揃えた。カサリカはとても納得だと、何度も頷いて言う。
「ハルちゃんが黒い髪と目なのに、高い能力を持っているのが不思議だったんだけど、女神様の使いならおかしくないわよね。高性能な武器と身体能力で補ってるのかと思ってたわ」
「見た目については、私が違う世界の人間だから、この世界の法則から外れてるせいだと思うわ」
「そういうことか」
ヨハネスが声を上げる。
「だから、黒の御使いってメロラインさんがおっしゃってたんだな」
ヨハネスも大いに納得したようだ。
ハルは苦笑いをする。
「その呼び方、まんますぎて微妙なんだけど……まあいいわ。とりあえず、皆さん、変わった景色を知っていたら、私に教えてください。リスティア様が喜ぶわよ」
女神の名前を前面に出して、情報を求めると、皆の表情が輝いた。
「ご利益ありそうだな。よし来た、とっておきの場所を教えてやるよ!」
「支部長、ずるいっす。まずは俺達から」
「いやいやここは、隊商の長である私から」
我先にと話し始めようとするのを、ハルはパチパチと手を叩いて止める。
「喧嘩しないでくださーい。話す順番で何かが変わるわけではないんで、この仕事の間にゆっくり教えてください。私も覚えきれないから」
「分かりました!」
返事をして、何の話をするんだとわいわいと盛り上がり始める隊商と護衛達。
場が落ち着いたのを見て、ヨハネスが右手を大きく挙げて注意を引く。
「よし、皆。ひとまずここで解散としよう。野宿の準備をしようや。夜になると面倒だ」
日が沈み始めたのを見て、皆、慌てて準備を始めた。
「じゃ、ハルちゃん。また後で話そうぜ」
「はい、よろしくお願いします」
護衛の指揮を執るため、ヨハネスとカサリカもハルの傍を離れていく。ハルはようやく人心地がついた。
だが、メロラインは難しい顔をしている。
「よろしかったんですか、ハル様。そんなに大々的に広めてしまって」
「え、駄目だった? 内緒にしろなんて、女神様には言われてないけど」
きょとんとするハルに、メロラインが小声で言う。
「だってハル様は人間とは戦えないんですよ? 変な人に付きまとわられたらどうするんですか」
ハルはぱちくりと目を瞬いた。メロラインの眉間に皺が増えた。
「考えてなかったんですね?」
誤魔化しても仕方がないので、ハルは素直に頷いた。
「う、うん。だって、なかなかイイネが付かないから、皆に協力してもらったら早いかなって。……ええと、駄目だった?」
「ハル様ってすぐにここに慣れてしまうし、しっかりなさっているけど、少し抜けてらっしゃいますわよね」
呆れるメロラインに、ハルはじとりとした目を向ける。
「いや、それ、メロちゃんには言われたくないんだけど」
真面目でクールなのに、人酔いしたり車酔いしたり、見ていてハラハラするメロラインなので、ハルにはとても心外だった。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
追放された武闘派令嬢の異世界生活
新川キナ
ファンタジー
異世界の記憶を有し、転生者であるがゆえに幼少の頃より文武に秀でた令嬢が居た。
名をエレスティーナという。そんな彼女には婚約者が居た。
気乗りのしない十五歳のデビュタントで初めて婚約者に会ったエレスティーナだったが、そこで素行の悪い婚約者をぶん殴る。
追放された彼女だったが、逆に清々したと言わんばかりに自由を謳歌。冒険者家業に邁進する。
ダンジョンに潜ったり護衛をしたり恋をしたり。仲間と酒を飲み歌って踊る毎日。気が向くままに生きていたが冒険者は若い間だけの仕事だ。そこで将来を考えて錬金術師の道へ進むことに。
一流の錬金術師になるべく頑張るのだった
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~
夢・風魔
ファンタジー
高校二年生最後の日。由樹空(ゆうきそら)は同じクラスの男子生徒と共に異世界へと召喚された。
全員の適正職業とスキルが鑑定され、空は「空気師」という職業と「空気清浄」というスキルがあると判明。
花粉症だった空は歓喜。
しかし召喚主やクラスメイトから笑いものにされ、彼はひとり森の中へ置いてけぼりに。
(アレルギー成分から)生き残るため、スキルを唱え続ける空。
モンスターに襲われ樹の上に逃げた彼を、美しい二人のエルフが救う。
命を救って貰ったお礼にと、森に漂う瘴気を浄化することになった空。
スキルを使い続けるうちにレベルはカンストし、そして新たに「空気操作」のスキルを得る。
*作者は賢くありません。作者は賢くありません。だいじなことなのでもう一度。作者は賢くありません。バカです。
*小説家になろう・カクヨムでも公開しております。
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる