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第一部

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 そしてやって来ました、大神殿ダルトガ。
 門でユリアスが一緒だと伝わったのか、大神殿に着くと、神殿長グレゴールが柔和な笑みとともに出迎えてくれた。

「ハル様、ユリアス殿下、お久しぶりですね」
「グレゴールさん、ご無沙汰しています」
「叔父上、ご健勝で何より」

 ハルとユリアスがあいさつすると、グレゴールの笑みが深くなる。

「殿下もお元気そうで何よりです。ハル様がユリアス殿下と旅をしているとメロラインから聞いて安堵しました。しかし、やけに髪色が……」

 グレゴールが不可解そうに言葉を切り、ユリアスが手を上げて続きを止める。

「叔父上、そのことでお話が……。それから、公の場ではないのですから、昔のようにユリアスとお呼びください」
「そうかい? 分かったよ、ユリアス。ひとまず中へ」

 グレゴールに促され、応接室へと通された。
 女神リスティアをえがいたと思われる絵が、暖炉の上に飾られている。十三歳の女の子ではなく、ふくよかな大人の女性として描かれていた。部屋だけでなく家具まで白く、敷物やテーブルクロス、クッションの水色が映えていて綺麗だ。
 長椅子に座ると、グレゴールはさっそく話を切り出した。

「それでユリアス、呪いの進みが早まっているようだけど」
「仮面の故障かと思い、こちらを訪ねたんです。どうでしょうか」
「ん~?」

 グレゴールはユリアスを立たせ、仮面を近くで観察して、首をひねる。

「特に祈法に乱れはないようだけど。外してみても?」

 ハルのほうを気にして、グレゴールはユリアスに問う。

「構いませんよ。ハルは俺の呪いのことなんか気にしないので」
「そうか。ふふ、良かった」

 グレゴールは嬉しそうに微笑む。ハルも椅子を立つ。

「ねえ、私も見ていい?」
「見ても面白いもんじゃないぞ」

 ユリアスは物好きなと言いたげに返事をしたが、好きにしろと言った。
 そして、右目の周囲を覆っている白い仮面を外す。

「わぁ……!」

 ハルは思わず感嘆の声を漏らす。
 琥珀色の目の周りには、まるで赤いいれずみのように、蔦が這っている。繊細な工芸技術みたいで見とれてしまった。

「綺麗! 呪いっていうから怖いのかと思ったけど、全然違うのね」

 ユリアスが目を丸くし、グレゴールも驚く。

「こんな異様なものを見て、そんな感想が出てくるのか、お前」
「呪いを綺麗だと言った方は初めてですよ」

 どうやらとんでもない反応をしてしまったみたいだが、それよりもハルは気になることがあった。

「痛くないの?」
「痛みはないよ。だが、俺の力を吸い取って、この植物が成長するんだ」
「そういう呪いなんだ……。えっと、綺麗って言ってごめん」
「おぞましいとか言われるより良いが……。お前からは綺麗に見えても、良いものではないからな」

 困りきった顔をして、ユリアスはそう断った。ハルはお構いなしに問う。

「ねえねえ、触ってみてもいい?」
「怖いもの知らずすぎる……」

 ユリアスはうめき、ちらとグレゴールを見る。仮面の裏側を見ていたグレゴールは、仮面をユリアスに返す。

「はい、ユリアス、お返ししますね。仮面には特に問題はありません。触れても特に問題ない呪いですから、大丈夫ですよ」

 グレゴールの許しも出たので、ユリアスはしかたなさそうに頷く。ハルは目の下辺りの草を指で軽く触れてみた。

「特に触ってる感じもしないのね。ん?」

 触れた辺りの草がわずかに伸びたので、ハルは眉を寄せる。

「ハル様、離れてください! 殿下、仮面を!」

 グレゴールがハルの腕を引き、ユリアスは急いで仮面を付ける。

「どうされたんです、叔父上。まさかハルに呪いが?」
「いいえ、そうではなく……。どうしてユリアスの呪いの進行が早まったのか、原因が分かりました」

 グレゴールが苦い表情でハルを見る。

「え? 私?」

 自分を指さして、ハルはきょとんと瞬きをした。
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