上 下
45 / 65

第45話 ゴーレム技師、四天王を名乗る勇者候補を撃破する

しおりを挟む
 ナットの作った砦から、少し離れたテント。

 そこでは4人の勇者候補が話し合っていた。

 長い髪の青年、索敵のナッシュ。

 妖艶な若い女、幻惑のナルタリア。

 腕が太い巨漢、怪力のウォズ。

 そしてリーダーを務めるメガネを掛けた青年、知恵のリッド。

 4人は同じ街の出身で、街の冒険者からは尊敬の念を込めて”四天王”と呼ばれている

「では、あの砦の攻略法を考えるとしよう」

 そういったのは、知恵のリッドだ。

「あの砦は、切り立った崖の上に建っている。崖と反対側には分厚い防壁。そして、壁の中には幾つか塔が立っている。

 崖側から侵攻するのはほぼ不可能。

 防壁を壊すか登るかすれば、恐らく塔から遠距離攻撃を受ける。と、普通は考える」

 知恵のリッドが冷静に状況を分析していく。

「あれだけの建築物を1日で用意するには、土属性の魔法使いが最低でも10人は必要だ。だが、逆に言えばあの砦の中には土属性の魔法使いしかいない。

 砦の中に火炎魔法使いや剣士や自立行動する使い魔がいるなら勝ち目はないが、土属性の魔法使いしかいないなら恐れることはない。

 地面を使った土属性魔法にだけ気を付ければ、楽勝だ」

 リッドの分析に、他の四天王が頷く。

「よし、任せろけリーダー。俺が正面からぶっ壊してきてやる」

 ずしん、と重い音を立てて怪力のウォズが立ち上がる。背中には無骨なハンマーを背負っていた。

「ウォズ1人で片が付くだろうが、念のためナッシュもついていってくれ」

「了解した」

 こうして怪力のウォズと索敵のナッシュが砦に向かった。

「2,3時間もすればいい知らせが聞けるだろう。それまで私は、ほかの勇者候補を倒す策でも練っているとしよう」

「頼りにしてるわよ、リーダー」

――――10分後。

「大変だリーダー、ウォズがやられた!」

 血相を変えた索敵のナッシュがキャンプに飛び込んできた。

「何だと?」

 しかし、リーダーである知恵のリッドは動揺していない。

「ふん、あの筋肉馬鹿……どうせ、リミッターを外す前に負けたんだろう? 力を出し惜しみするのがあいつの悪い癖だ」

 怪力のウォズは、日常生活で物をよく壊してしまうため、筋力を抑える魔法のかかったベルトを普段から着けていた。

 しかし、

「いや、ちゃんとリミッターは外していた。そのうえで、1対1の決闘で負けたんだ」

「嘘だろ!?」

 ここで初めて、知恵のリッドが動揺した。

「しかも、遠距離攻撃魔法とかではなく、剣を使う相手に近接戦で負けた。”アルカ”と名乗る少女が砦から出てきて決闘したんだが、パワーも技もスピードも、全てウォズより上だった」

「そうか。とんでもない化け物もいたものだ。だがウォズは我ら四天王の中でも1番……1番強かったんだが……どうしよう……」

「ああ、あいつが1番強かったぜ……」

「強かったわよねぇ……」

 テントの中は、重苦しい空気になった。

「認めよう。その”アルカ”という少女は、桁違いに強い。だが、正面から戦わなければ勝ち目はある。3時間くれ。何か策を考える」

「それがリーダー、実はウォズの足跡を辿って、土でできた使い魔たちがこのキャンプに迫ってる。多分あと5分くらいでここへ着くと思う」

「それを先に言えー!」

 3人になった四天王が、荷物を抱えて慌ててテントを飛び出す。

 しかし、テントの周りは既にゴーレムと達によって包囲されていた。

「御覧のように、包囲は完成しています。覚悟してください」

 ゴーレムたちの中から、戦乙女形態ヴァルキリーモードのアルカが歩み出てくる。

「絶対絶命、というやつだな。こうなれば私にも考えがある」

 知恵のリッドは、不敵な笑みを浮かべる。

「この状況から、どうするというのですか?」

「”こう”するのさ」

 知恵のリッドは、自分のクリスタルを手に取り、破壊した。

「選抜試験では、クリスタルを破壊されたものは失格となる。そのルールを利用させてもらった。君たちと戦って怪我をして負けるくらいなら、戦わずに無傷で撤退したほうが良いという判断だ」

「あの、それはつまり降参しただけなのでは」

「降参と戦略的撤退は違うさ」

「そうだとしても、それは降参ですよね?」

 四天王の残りのメンバーも、自分のクリスタルを破壊する。

「では、我々はこれで失礼するよ。私たちの持っていた物資は好きにするといい。君たちの健闘を祈っているよ」

 そういって颯爽と四天王たちは去っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

親友に彼女を寝取られて死のうとしてたら、異世界の森に飛ばされました。~集団転移からはぐれたけど、最高のエルフ嫁が出来たので平気です~

くろの
ファンタジー
毎日更新! 葛西鷗外(かさい おうがい)20歳。 職業 : 引きこもりニート。 親友に彼女を寝取られ、絶賛死に場所探し中の彼は突然深い森の中で目覚める。 異常な状況過ぎて、なんだ夢かと意気揚々とサバイバルを満喫する主人公。 しかもそこは魔法のある異世界で、更に大興奮で魔法を使いまくる。 だが、段々と本当に異世界に来てしまった事を自覚し青ざめる。 そんな時、突然全裸エルフの美少女と出会い―― 果たして死にたがりの彼は救われるのか。森に転移してしまったのは彼だけなのか。 サバイバル、魔法無双、復讐、甘々のヒロインと、要素だけはてんこ盛りの作品です。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

処理中です...