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第8章 私の一番大切なもの
48 ケジメのつけ方
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「話はわかりました。仮定を含んでいるとはいえ、クリアランス・デフェリアがどういう人なのか」
何もかもを消化できて、何もかもに納得できたわけではない。
けれど、今まで何にも知らなかったクリアちゃんの話を、やっと頭に入れることができた。
そのことで心の整理ができて、私はシオンさんとネネさんにお礼を言った。
私は、結局クリアちゃんのことを何一つとして知らなかった。
子供の頃に出会って、何度か遊んだお友達。その時の、表面にすらならないことしか私は知らなかったんだ。
彼女がこれまで一体何をしてきて、何を思っているのかなんて、私は何にも知らなかった。
彼女には謎があまりも多くて、シオンさんとネネさんの話も推測の域をでない部分が多いけれど。
でも、例え彼女たちの話が全て間違っていたとしても、クリアちゃんが起こしている現実は変わらない。
多くの人を傷付け、殺し、他人を厭わない彼女の振る舞いだけは、決して揺らぐことはないんだ。
そこにどんな理由があって、どんな思いがあって、どんなに仕方のないことだと主張したとしても。
クリアちゃんがしてきたこと、していること、しようとしていることは、絶対に許されるべきことではない。
二人の話を聞いて、私はそれを再認識した。
どうしても私は、クリアちゃんを当時の友達だと見てしまうけれど。
でも、今日見た彼女、そして彼女がしてきたことを聞いた今、私はクリアちゃんのことを狂気の魔女として見ないといけないのだと、そう理解することができた。
「すみません。本当は私が、何か有益な情報を教えてあげられたら良かったんですが。嫌なことを、沢山話させてしまって……」
「いいえ、アリス様のお話で私たちは自分たちの仮説を確信に近付けられましたから。彼女の謎を紐解くことは、そのまま対処への近道になります」
クリアちゃんにご両親を殺された二人にとって、彼女について深く語ることは傷口を抉ることになるはずなのに。
私の謝罪に、シオンさんは優しく首を横に振ってくれた。
そこには確かに傷の痛みがあるようだけれど、それよりもクリアちゃんを打倒したいという、強い思いがあるように見えた。
「私たちはライト様の教えの元、魔女と魔法使いの中立に立ってきた。だからレジスタンスの魔女も、極力その命を奪わないのが私たちのやり方。でも正直、私と姉様は、アイツにだけは我慢ならなかったんだ」
「こういう言い方は褒められたものではありませんが……私たちとしては、クリアがあからさまに脅威となって現れたことで、彼女を倒す大義名分が得られたのです」
二人は穏やかな面持ちのまま、しかしその瞳には強い意志が込められていた。
今まで堪えていたもの、抑えていたものを、もう我慢しなくていいんだと、感情が滾っているように見える。
それでもまだ冷静なのは、クリアちゃんに対する想いが本物だからだろう。
もう、衝動で動く段階をとうに越えているんだ。
「クリアちゃんを止めなければならないと思うのは、私も同じです。その為にお二人には協力をお願いしたいですし、私だってできる限りのことをします。ただ、お二人には人殺しになって欲しくありません」
「ありがとうございます。私たちも、徒な殺生は好みません。それが意味のあるものかはさて置き、彼女には罪を償わせたいと思っています。ただそれはもちろん、彼女を生きたまま捕らえることができればですが」
「………………」
心配する私に、シオンさんは穏やかな顔でそう答えた。
確かに、魔法使いに均衡する実力を持つクリアちゃんを、無力化して捕らえることは難しいかもしれない。
でも、私ならば彼女の魔法を封殺して、捕らえることができるはずだ。
二人が、クリアちゃんを殺すことで復讐を果たしたいと望むわけでないのであれば、最悪の事態にはきっとならない。
「私が、必ずクリアちゃんを止めて捕らえます。そして絶対に、彼女がした全ての罪を償わせますから。これは、私がしなくちゃいけないこと。だからお二人にはその力を貸してほしいんです……!」
私のためにと、クリアちゃんがやってきたこと。
私はそれを清算しなければならないし、そしてもうこれ以上、被害を増やしてはいけないんだ。
それは、シオンさんとネネさんが手を汚してしまうようなことを避けるのも、また同じこと。
私はもう、クリアちゃんから始まる悲しみを起こしてはいけない。
そう胸に刻みつけて、私は立ち上がって深々と頭を下げた。
テーブルに頭が着きそうなほど、深く。強く気持ちを込めて。
姿を消したクリアちゃんを探し出し、ジャバウォックを呼び起こそうとしている彼女を止めるのは、きっと私だけではできないから。
彼女をずっと調べてきた、二人の力は絶対的に必要なものだ。
二人は私の責任ではないと言ってくれたけれど、でもこれは私が背負わなきゃいけないことだ。
クリアちゃんがしてきたことも、彼女に対する二人の気持ちも。
私のせいで起こったことを、私の都合で対処しようとしているのだから。
だから私は、二人にわがままを聞いてもらわないといけないんだ。私の力になってくださいと。
「頭を上げてよ、アリス様」
ネネさんののそっとした声が降ってくる。
私がゆっくりと顔を上げると、無気力そうな顔が私を見ていた。
「言ってるでしょ? アリス様は何にも悪くなって。だから責任を感じる必要もないってさ────けど、アリス様の気持ちはよく伝わってきたから。ちゃんとアイツをとっ捕まえられたら、私たちもヘタなことはしないよ。アリス様に免じてさ」
ネネさんそう言って、のっそりと笑みを浮かべた。
それは決して、無理に取り繕っている物には見えない。
「確かに、うちの親を殺したアイツをぶっ殺してやりたいって、乱暴な気持ちはあるけどさ。でも、そんなことしてもどうにもならないって、頭ではちゃんとわかってる。だから、アリス様がいてくれれば、アイツをちゃんと止められたら、それでケリがつけられると思うんだ」
「そうですね。もちろん、彼女を必ず捕らえ、事を未然に防ぐことが条件ですが。でもそれは、私たちが力を合わせれば叶えられます。だから大丈夫です。私たちはちゃんと、あなたについていく」
「シオンさん……ネネさん……」
凛々しく笑顔を浮かべる二人は、とても頼もしく見えた。
煮え滾るような感情を胸に抱きつつも、決してそれで我を失ったりはしない。
何をすべきか、そのためには何が必要かを、彼女たちはしっかりと理解している。
ご両親の仇であるクリアちゃんが、今やこの世界を脅かそうとしている。
そんな許し難い状況に於いても、私が彼女を止めるということに手を貸してくれるのだから。
例えそれが最善でなくても、例えそれが無謀であっても、本当は自分たちで倒したいと思って当然なのに。
それでも、私の道行を支えてくれるとそう言ってくれる。
その心が頼もしくて、感謝で胸がいっぱいになった。
ただ、ほんの少しだけ疑問が、不安が残る。
二人は本当にそれでいいのかと。
けれどそれは、私が口にしていいことでは、決してない。
何もかもを消化できて、何もかもに納得できたわけではない。
けれど、今まで何にも知らなかったクリアちゃんの話を、やっと頭に入れることができた。
そのことで心の整理ができて、私はシオンさんとネネさんにお礼を言った。
私は、結局クリアちゃんのことを何一つとして知らなかった。
子供の頃に出会って、何度か遊んだお友達。その時の、表面にすらならないことしか私は知らなかったんだ。
彼女がこれまで一体何をしてきて、何を思っているのかなんて、私は何にも知らなかった。
彼女には謎があまりも多くて、シオンさんとネネさんの話も推測の域をでない部分が多いけれど。
でも、例え彼女たちの話が全て間違っていたとしても、クリアちゃんが起こしている現実は変わらない。
多くの人を傷付け、殺し、他人を厭わない彼女の振る舞いだけは、決して揺らぐことはないんだ。
そこにどんな理由があって、どんな思いがあって、どんなに仕方のないことだと主張したとしても。
クリアちゃんがしてきたこと、していること、しようとしていることは、絶対に許されるべきことではない。
二人の話を聞いて、私はそれを再認識した。
どうしても私は、クリアちゃんを当時の友達だと見てしまうけれど。
でも、今日見た彼女、そして彼女がしてきたことを聞いた今、私はクリアちゃんのことを狂気の魔女として見ないといけないのだと、そう理解することができた。
「すみません。本当は私が、何か有益な情報を教えてあげられたら良かったんですが。嫌なことを、沢山話させてしまって……」
「いいえ、アリス様のお話で私たちは自分たちの仮説を確信に近付けられましたから。彼女の謎を紐解くことは、そのまま対処への近道になります」
クリアちゃんにご両親を殺された二人にとって、彼女について深く語ることは傷口を抉ることになるはずなのに。
私の謝罪に、シオンさんは優しく首を横に振ってくれた。
そこには確かに傷の痛みがあるようだけれど、それよりもクリアちゃんを打倒したいという、強い思いがあるように見えた。
「私たちはライト様の教えの元、魔女と魔法使いの中立に立ってきた。だからレジスタンスの魔女も、極力その命を奪わないのが私たちのやり方。でも正直、私と姉様は、アイツにだけは我慢ならなかったんだ」
「こういう言い方は褒められたものではありませんが……私たちとしては、クリアがあからさまに脅威となって現れたことで、彼女を倒す大義名分が得られたのです」
二人は穏やかな面持ちのまま、しかしその瞳には強い意志が込められていた。
今まで堪えていたもの、抑えていたものを、もう我慢しなくていいんだと、感情が滾っているように見える。
それでもまだ冷静なのは、クリアちゃんに対する想いが本物だからだろう。
もう、衝動で動く段階をとうに越えているんだ。
「クリアちゃんを止めなければならないと思うのは、私も同じです。その為にお二人には協力をお願いしたいですし、私だってできる限りのことをします。ただ、お二人には人殺しになって欲しくありません」
「ありがとうございます。私たちも、徒な殺生は好みません。それが意味のあるものかはさて置き、彼女には罪を償わせたいと思っています。ただそれはもちろん、彼女を生きたまま捕らえることができればですが」
「………………」
心配する私に、シオンさんは穏やかな顔でそう答えた。
確かに、魔法使いに均衡する実力を持つクリアちゃんを、無力化して捕らえることは難しいかもしれない。
でも、私ならば彼女の魔法を封殺して、捕らえることができるはずだ。
二人が、クリアちゃんを殺すことで復讐を果たしたいと望むわけでないのであれば、最悪の事態にはきっとならない。
「私が、必ずクリアちゃんを止めて捕らえます。そして絶対に、彼女がした全ての罪を償わせますから。これは、私がしなくちゃいけないこと。だからお二人にはその力を貸してほしいんです……!」
私のためにと、クリアちゃんがやってきたこと。
私はそれを清算しなければならないし、そしてもうこれ以上、被害を増やしてはいけないんだ。
それは、シオンさんとネネさんが手を汚してしまうようなことを避けるのも、また同じこと。
私はもう、クリアちゃんから始まる悲しみを起こしてはいけない。
そう胸に刻みつけて、私は立ち上がって深々と頭を下げた。
テーブルに頭が着きそうなほど、深く。強く気持ちを込めて。
姿を消したクリアちゃんを探し出し、ジャバウォックを呼び起こそうとしている彼女を止めるのは、きっと私だけではできないから。
彼女をずっと調べてきた、二人の力は絶対的に必要なものだ。
二人は私の責任ではないと言ってくれたけれど、でもこれは私が背負わなきゃいけないことだ。
クリアちゃんがしてきたことも、彼女に対する二人の気持ちも。
私のせいで起こったことを、私の都合で対処しようとしているのだから。
だから私は、二人にわがままを聞いてもらわないといけないんだ。私の力になってくださいと。
「頭を上げてよ、アリス様」
ネネさんののそっとした声が降ってくる。
私がゆっくりと顔を上げると、無気力そうな顔が私を見ていた。
「言ってるでしょ? アリス様は何にも悪くなって。だから責任を感じる必要もないってさ────けど、アリス様の気持ちはよく伝わってきたから。ちゃんとアイツをとっ捕まえられたら、私たちもヘタなことはしないよ。アリス様に免じてさ」
ネネさんそう言って、のっそりと笑みを浮かべた。
それは決して、無理に取り繕っている物には見えない。
「確かに、うちの親を殺したアイツをぶっ殺してやりたいって、乱暴な気持ちはあるけどさ。でも、そんなことしてもどうにもならないって、頭ではちゃんとわかってる。だから、アリス様がいてくれれば、アイツをちゃんと止められたら、それでケリがつけられると思うんだ」
「そうですね。もちろん、彼女を必ず捕らえ、事を未然に防ぐことが条件ですが。でもそれは、私たちが力を合わせれば叶えられます。だから大丈夫です。私たちはちゃんと、あなたについていく」
「シオンさん……ネネさん……」
凛々しく笑顔を浮かべる二人は、とても頼もしく見えた。
煮え滾るような感情を胸に抱きつつも、決してそれで我を失ったりはしない。
何をすべきか、そのためには何が必要かを、彼女たちはしっかりと理解している。
ご両親の仇であるクリアちゃんが、今やこの世界を脅かそうとしている。
そんな許し難い状況に於いても、私が彼女を止めるということに手を貸してくれるのだから。
例えそれが最善でなくても、例えそれが無謀であっても、本当は自分たちで倒したいと思って当然なのに。
それでも、私の道行を支えてくれるとそう言ってくれる。
その心が頼もしくて、感謝で胸がいっぱいになった。
ただ、ほんの少しだけ疑問が、不安が残る。
二人は本当にそれでいいのかと。
けれどそれは、私が口にしていいことでは、決してない。
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