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第8章 私の一番大切なもの
24 ロード・デュークス
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しばらくして、馬なしの馬車はゆっくりと着地した。
窓から外の様子を窺ってみると、大きな屋敷の目の前に降り立っているようだった。
レンガ造の洋館のような、厳かな建物。
周囲には青々と茂る芝生が広がっていて、敷地の四方には同じような更に屋敷が三つ、建っているのが見える。
そして、四つの屋敷が直線で交差する場所、芝生の中心には、屋敷と同じくレンガ造りの塔がそびえ立っていた。
ここは、王都にある魔女狩りの本拠地だ。
以前の私はあまり魔女狩りと関わることがなかったから、ここには一度訪れたことがあるかないか。
それでもこうやって来てみれば、ここがそうだということはすぐにわかった。
敷地全体から感じる魔力が濃密で、ここに集う魔法使いたちの力強さを実感させられる。
魔女狩りの一人が馬車の戸を開け、私はレオとアリアと共に下車した。
すると、私を連れ立った黒スーツの人たちが、ずらりと並んで正面にある屋敷に向けて道を作っていた。
つまりこの先にあるのが、ロード・デュークスが管理している屋敷だということなんだろう。
厳しい黒スーツたちに囲われて、荘厳な屋敷へと誘われる。
ここへ来て妙に緊張感が登ってきたけれど、隣立ってくれたレオとアリアの存在が、私の気持ちを解してくれた。
少し歩くと、屋敷の入り口に人の姿が確認できた。
白いローブに身を包んだ人を先頭に、その後ろでは黒いローブを着た人たちが連なっている。
黒いローブはレオやアリアが着ているものと同じものだから、彼らは二人の仲間、つまりロード・デュークスの部下なんだろう。
だとすれば────いやもはやそうでなくても、彼らを従えている白いローブの人こそ、ロード・デュークスなのだろう。
「姫殿下、わざわざわたくしの屋敷にご足労頂き、誠にありがとうございます。まずは、あなた様の無事のご帰還を、お喜び申し上げます」
私たちが屋敷の目の前まで辿り着くと、白いローブを着た男性────ロード・デュークスはそう言って深々とお辞儀をした。
ロード・ケインと同じくらいの、四十代後半程の壮年の男性で、オールバックにした金髪の色は薄く、彼が積んできた歳月を思わせる。
やつれたようにも見える痩せ型の外見だけれど、その風体からは自信に満ちた威厳が溢れ出していて、決して気の抜ける相手ではないとわかった。
今は従順に、畏った態度で私に頭を下げている彼だけれど、しかしロード・デュークスからは決して曲がらぬ意志の強さを感じる。
表面上は私をお姫様だと担ぎつつ、内心ではただの小娘だと思っていても、そうおかしくはない。
しかしそれでも、飽くまで恭しい態度をとる彼には、私もそれ相応の態度で返さないといけないだろう。
「お久しぶりです────で、いいんですかね、ロード・デュークス。お出迎えありがとうございます」
私は頑張って言葉を選びながら、努めて穏やかに挨拶を返した。
以前の私が関わっていたのは、レオやアリアたち友達以外だと、王族特務の人たちばかりだった。
ロード・デュークスや、他の魔女狩りの君主たちとも、全く顔を合わせなかったわけではないけれど、でも親交があったわけでもない。
だからといって一応初めましてではないはずで、なんとも微妙な言い方になってしまった。
ロード・デュークスはゆっくりと頭を上げると、そんな私にそっと笑みを浮かべた。
いかにも堅物そうな、融通の効かなそうな強面の男性だけれど、努めてそうしているのか、その笑みには僅かながら柔らかさがある。
「わたくしめのことを覚えて頂いているとは、とても光栄。さぁ、どうぞ中へ。姫殿下に表で立ち話などさせられない」
ロード・デュークスが屋敷を示すと、背後の魔女狩りたちが道を開け、入り口までの道ができた。
その中を先導して歩いていくロード・デュークスの背中からは、とても私みたいな小娘に傅くような、そんな遜った気配は感じられない。
威風堂々と、自らの信念を貫く意思を持った強い精神を感じる。彼はきっと、一筋縄ではいかない。
そんな背中に導かれながら、傍に立つレオとアリアに視線で伺いを立てる。
二人ともロード・デュークスとの対面に少し緊張しているようで、表情が固くなっていた。
確かに、彼から感じられる魔力はとても強く、ロード・ケインやロード・スクルドよりも実力がありそうに見える。
二人は私の視線に気づくと、大丈夫だというようにニコリと笑ってくれた。
ここまで来てしまったのだから、臆していても仕方ない。
今のところ、まだロード・デュークスのことを信頼はできないけれど。
しかしああやって彼が私に対して丁寧に接しようとしてくれているのならば、抵抗心ばかりじゃなく、ちゃんと向き合わないと。
不安や恐怖、心細さはある。
私の命を狙っていた張本人、魔法使いとの確執の原因であるロード・デュークスと対面するのだから。
でも、レオとアリアが付いていてくれる。
それに、私のことを支えてくれる、沢山の友達がこの心に繋がっている。
私は、決して一人じゃない。だから大丈夫だ。
私はそう気を引き締めて、レオとアリアと共に、ロード・デュークスの後に続いた。
窓から外の様子を窺ってみると、大きな屋敷の目の前に降り立っているようだった。
レンガ造の洋館のような、厳かな建物。
周囲には青々と茂る芝生が広がっていて、敷地の四方には同じような更に屋敷が三つ、建っているのが見える。
そして、四つの屋敷が直線で交差する場所、芝生の中心には、屋敷と同じくレンガ造りの塔がそびえ立っていた。
ここは、王都にある魔女狩りの本拠地だ。
以前の私はあまり魔女狩りと関わることがなかったから、ここには一度訪れたことがあるかないか。
それでもこうやって来てみれば、ここがそうだということはすぐにわかった。
敷地全体から感じる魔力が濃密で、ここに集う魔法使いたちの力強さを実感させられる。
魔女狩りの一人が馬車の戸を開け、私はレオとアリアと共に下車した。
すると、私を連れ立った黒スーツの人たちが、ずらりと並んで正面にある屋敷に向けて道を作っていた。
つまりこの先にあるのが、ロード・デュークスが管理している屋敷だということなんだろう。
厳しい黒スーツたちに囲われて、荘厳な屋敷へと誘われる。
ここへ来て妙に緊張感が登ってきたけれど、隣立ってくれたレオとアリアの存在が、私の気持ちを解してくれた。
少し歩くと、屋敷の入り口に人の姿が確認できた。
白いローブに身を包んだ人を先頭に、その後ろでは黒いローブを着た人たちが連なっている。
黒いローブはレオやアリアが着ているものと同じものだから、彼らは二人の仲間、つまりロード・デュークスの部下なんだろう。
だとすれば────いやもはやそうでなくても、彼らを従えている白いローブの人こそ、ロード・デュークスなのだろう。
「姫殿下、わざわざわたくしの屋敷にご足労頂き、誠にありがとうございます。まずは、あなた様の無事のご帰還を、お喜び申し上げます」
私たちが屋敷の目の前まで辿り着くと、白いローブを着た男性────ロード・デュークスはそう言って深々とお辞儀をした。
ロード・ケインと同じくらいの、四十代後半程の壮年の男性で、オールバックにした金髪の色は薄く、彼が積んできた歳月を思わせる。
やつれたようにも見える痩せ型の外見だけれど、その風体からは自信に満ちた威厳が溢れ出していて、決して気の抜ける相手ではないとわかった。
今は従順に、畏った態度で私に頭を下げている彼だけれど、しかしロード・デュークスからは決して曲がらぬ意志の強さを感じる。
表面上は私をお姫様だと担ぎつつ、内心ではただの小娘だと思っていても、そうおかしくはない。
しかしそれでも、飽くまで恭しい態度をとる彼には、私もそれ相応の態度で返さないといけないだろう。
「お久しぶりです────で、いいんですかね、ロード・デュークス。お出迎えありがとうございます」
私は頑張って言葉を選びながら、努めて穏やかに挨拶を返した。
以前の私が関わっていたのは、レオやアリアたち友達以外だと、王族特務の人たちばかりだった。
ロード・デュークスや、他の魔女狩りの君主たちとも、全く顔を合わせなかったわけではないけれど、でも親交があったわけでもない。
だからといって一応初めましてではないはずで、なんとも微妙な言い方になってしまった。
ロード・デュークスはゆっくりと頭を上げると、そんな私にそっと笑みを浮かべた。
いかにも堅物そうな、融通の効かなそうな強面の男性だけれど、努めてそうしているのか、その笑みには僅かながら柔らかさがある。
「わたくしめのことを覚えて頂いているとは、とても光栄。さぁ、どうぞ中へ。姫殿下に表で立ち話などさせられない」
ロード・デュークスが屋敷を示すと、背後の魔女狩りたちが道を開け、入り口までの道ができた。
その中を先導して歩いていくロード・デュークスの背中からは、とても私みたいな小娘に傅くような、そんな遜った気配は感じられない。
威風堂々と、自らの信念を貫く意思を持った強い精神を感じる。彼はきっと、一筋縄ではいかない。
そんな背中に導かれながら、傍に立つレオとアリアに視線で伺いを立てる。
二人ともロード・デュークスとの対面に少し緊張しているようで、表情が固くなっていた。
確かに、彼から感じられる魔力はとても強く、ロード・ケインやロード・スクルドよりも実力がありそうに見える。
二人は私の視線に気づくと、大丈夫だというようにニコリと笑ってくれた。
ここまで来てしまったのだから、臆していても仕方ない。
今のところ、まだロード・デュークスのことを信頼はできないけれど。
しかしああやって彼が私に対して丁寧に接しようとしてくれているのならば、抵抗心ばかりじゃなく、ちゃんと向き合わないと。
不安や恐怖、心細さはある。
私の命を狙っていた張本人、魔法使いとの確執の原因であるロード・デュークスと対面するのだから。
でも、レオとアリアが付いていてくれる。
それに、私のことを支えてくれる、沢山の友達がこの心に繋がっている。
私は、決して一人じゃない。だから大丈夫だ。
私はそう気を引き締めて、レオとアリアと共に、ロード・デュークスの後に続いた。
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