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第7章 リアリスティック・ドリームワールド
112 圧倒的な力
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『好きなように仰るがよろしい。貴女様が何を口にしようと、わたくしは自らが行く道を曲げることは致しません』
突き放したような、酷く冷たい声。
その言葉に柔らかさはなく、ただ蔑みのこもったものだった。
『どうやらお姫様気分が抜けていないご様子。声を上げれば誰かに聞き止めてもらえると思われているのでしょうか。なんと健気で愚かな。貴女様はもう、必要などないというのに……!』
高らかな声と共に、その白い巨体が光輝いた。
テカテカと艶やかな白い鱗が燦然とし光を振り撒き、その体を更に大きく見せる。
後光をまとう神々の如く、しかし正反対の悪魔の如く、神々しくも悍ましい輝きが周囲を満たす。
その光に怯んでいる暇はなかった。
私のことを完全に仕留めようとしているホワイトが、その黒い髪でできた蛇の頭を撃ち放ってきたからだ。
ただでさえ長い髪は自由自在に伸縮し、蛇の頭をいくつももたげて私に向けて飛びかかってくる。
雨のように降りかかってくる無数の黒い蛇の顎を、私は後ろに大きく飛び退くことでかわした。
気を抜けばすぐに脱力しそうな体を、気合で鞭打って。
ホワイトにドルミーレが投影されたことで、心の奥底から湧き上がってくる力はとても少なく感じられる。
力を全く使えなくなったわけじゃないから、大体の魔法を使えそうではあるけれど。
その力のほとんどは彼女の方に流れて行ってしまっているみたいで、出力があまり出せないように感じた。
それでも戦えないわけじゃない。
『真理の剣』はこの手にあるし、友達との繋がりだって感じてる。
それにここに来るまでの戦いだって、結局私は大きな力を使うことを避けてきたわけだし。
そういう意味では条件はあまり変わらないかもしれない。
そう自分を奮い立たせて、私は空高く飛び上がった。
そんな私に向けて髪の蛇たちが執拗に追いかけてくる。
私は高速で飛行してそれをかわしながら、ホワイトの頭がある高さまで昇った。
擬似再臨をしたことで怪物のような姿となり、そしてドルミーレを映したことで驚異的な力を得たホワイト。
その姿は見ることすら躊躇うほどに恐ろしく、人間では理解できない存在感に拒絶の意を覚える。
けれど何故だか、力を掠め取られたことに対する怒りのようなものはなかった。
勝手で強引な手段を持って、私からドルミーレの力を映し出し、その身にまとっているホワイト。
お陰で私は肉体的にも精神的にもフラフラだし、力だって思うように使えない。
けれど、それに対する怒りや悔しさのような、負の感情は湧いてこなかった。
奪い取られたわけじゃなく、飽くまで映し出されただけで、この心から抜け出たわけではないからかもしれない。
けれどきっと、そんなことよりも、彼女に対する哀れみや危惧の方が大きいからかもしれない。
ドルミーレの力は、決して素晴らしいものとは言えない。
確かに大きな力ではあるけれど、その力はあまりにも冷たく寂しく苦しいものだ。
そんな力を私から嬉々として掠め取り、そしてドルミーレの心をその身に降ろそうとしているホワイトは、私にはとても危うく見えた。
ホワイトは、この力の恐ろしさと、ドルミーレの恐ろしさをわかっていない。
そう思ってしまうから、私は現状に怒りを覚えないのかもしれない。
そもそも私自身が、自分がこの力を持つことにこだわりがないから、というのもあるかもしれないけれど。
『チョロチョロと逃げ回る元気がまだおありなのですか。しかし、それがいつまで続くでしょう』
自身に比べてちっぽけな私を鼻で笑い、ホワイトは髪も蛇の頭を全て私に向けた。
その口はまるで砲門のように大きく広げられ、そこから眩いレーザーが放たれた。
マンガみたいなレーザービームが沢山の蛇の頭から一斉に撃ち放たれて、空間を切り裂くように光の線が走った。
「…………!」
逃げ道を見出せないほどに入り組んだ光線の数々。
私はそれを『真理の剣』掻き消しながら、一直線にホワイトの頭部に向けて飛び込んだ。
絶え間なく私に向けてレーザーが放たれ、かと思えば髪の蛇の牙が死角から飛び込んでくる。
その頭部を剣で切り落としても、髪でできたそれはすぐに再生し形を取り戻す。
巨体による大振りな動作のお陰で何とかそれらの間を掻い潜って、私は彼女の眼前に到達した。
「私は、あなたには負けない!」
『それはどうでしょう』
『真理の剣』を大きく振りかぶり、できる限りの魔力を込める。
それをその巨大に叩き込もうと握り込んだ時、ホワイトの蛇のような瞳が煌めいた。
そう、私が認識した瞬間、瞳の輝きがエネルギーを持って眩い熱量を持った光線と化した。
剣を振り下ろす間もない攻撃だったけれど、咄嗟にその光を掌握しようと意識を向ける。
けれど、その光線の力は凄まじく、いつもあっさりと奪い取れる幻想がビクともしなかった。
一瞬だけ押さえ込むこと、それだけで精一杯だった。
「う、ぐっ…………!」
力が流れ出ている今、他者の幻想を包み込み奪い取ることにも限度があるのかもしれない。
どんなに意識を向けても私の幻想で飲み込めない光線に苦戦したその一瞬。
その僅かな隙に、横から巨大な蛇の尾が振り下ろされた。
「ッ────────!!!」
完全に意識の外からの攻撃。
目の前のことに精一杯だった私に、それへのリアクションなんて取れなかった。
すんでのところで私の胸に氷の華が咲き、そこから放たれた氷が盾を張ってくれた。
けれど私の身を包むほど大きな氷の盾も、視界を埋め尽くすような大蛇の尾には敵わなくて。
私は、盾ごと地面に叩き落とされた。
盾が一部の衝撃を防いでくれたとはいえ、私の体に響いたものは凄まじかった。
全ての感覚が吹き飛んで、一瞬死んでしまったのかと錯覚して。
けれど直後に襲ってきた激痛に自分の生存を確認する。
それでも痛みだけが全身を苛んで、何も考えられなくなった。
気がついた時には、私は地面に横這いに倒れ込んでいた。
一瞬意識を失っていたのか、それとも認識が追い付かないほどの刹那の出来事だったか。
いずれにしても、身体中が意味わからないくらい痛かった。
「ぅ、あっ…………」
ぼやける意識で、立たなきゃと考える。
順序立てた思考はできなくて、ただ本能的に、反射で治癒の魔法を駆け巡らせた。
それによって僅かに視界がクリアになったところに、第二撃の蛇の尾が落ちてきていることに気がついた。
「────ぐ、っぁああ!!!」
瞬間的に意識が覚醒して、何も考えずに全身に魔力を巡らせた。
それに反応したのか氷の華が勢いよく咲き乱れ、私の体を持ち上げて吹き飛ばした。
まさに間一髪。
ギリギリのところで蛇の尾の一撃を逃れた私は、宙を舞った体を強引に捻って、なんとか四つん這いで着地した。
全身どこもかしこも痛いし、骨は軋むし脳が潰れそうだ。
それでも、私の心を守ってくれている繋がりが、私を折れないように支えてくれた。
だから私は全ての意識を回復に向けて、震える足で地を踏みしめた。
『真理の剣』を握る手の感覚は少し曖昧だけれど。
それでも諦めてしまったら、そこで全てが終わってしまうから。
『か弱いというのにしぶとくていらっしゃる。潔く負けを認めた方が楽でしょうに』
「私が負けたら……何も、守れないから。あなたが掲げる正義じゃ、私の友達が笑えない、から……!」
呆れたような声を上げるホワイトに、私は呂律の回らない口で答えた。
息をするのも苦しい。声を出すと喉が焼けるようだ。
上を見上げるのは億劫だし、目を開くのにすら力がいる。
それでも、彼女に屈服なんてしたくないから。
「……ホワイト。私は諦めない。あなたのその誤った正義を止めるまで、私は…………!」
『貴女様は本当に、愚かな人…………』
掠れる声で叫ぶと、ホワイトは重く溜息をついた。
突き放したような、酷く冷たい声。
その言葉に柔らかさはなく、ただ蔑みのこもったものだった。
『どうやらお姫様気分が抜けていないご様子。声を上げれば誰かに聞き止めてもらえると思われているのでしょうか。なんと健気で愚かな。貴女様はもう、必要などないというのに……!』
高らかな声と共に、その白い巨体が光輝いた。
テカテカと艶やかな白い鱗が燦然とし光を振り撒き、その体を更に大きく見せる。
後光をまとう神々の如く、しかし正反対の悪魔の如く、神々しくも悍ましい輝きが周囲を満たす。
その光に怯んでいる暇はなかった。
私のことを完全に仕留めようとしているホワイトが、その黒い髪でできた蛇の頭を撃ち放ってきたからだ。
ただでさえ長い髪は自由自在に伸縮し、蛇の頭をいくつももたげて私に向けて飛びかかってくる。
雨のように降りかかってくる無数の黒い蛇の顎を、私は後ろに大きく飛び退くことでかわした。
気を抜けばすぐに脱力しそうな体を、気合で鞭打って。
ホワイトにドルミーレが投影されたことで、心の奥底から湧き上がってくる力はとても少なく感じられる。
力を全く使えなくなったわけじゃないから、大体の魔法を使えそうではあるけれど。
その力のほとんどは彼女の方に流れて行ってしまっているみたいで、出力があまり出せないように感じた。
それでも戦えないわけじゃない。
『真理の剣』はこの手にあるし、友達との繋がりだって感じてる。
それにここに来るまでの戦いだって、結局私は大きな力を使うことを避けてきたわけだし。
そういう意味では条件はあまり変わらないかもしれない。
そう自分を奮い立たせて、私は空高く飛び上がった。
そんな私に向けて髪の蛇たちが執拗に追いかけてくる。
私は高速で飛行してそれをかわしながら、ホワイトの頭がある高さまで昇った。
擬似再臨をしたことで怪物のような姿となり、そしてドルミーレを映したことで驚異的な力を得たホワイト。
その姿は見ることすら躊躇うほどに恐ろしく、人間では理解できない存在感に拒絶の意を覚える。
けれど何故だか、力を掠め取られたことに対する怒りのようなものはなかった。
勝手で強引な手段を持って、私からドルミーレの力を映し出し、その身にまとっているホワイト。
お陰で私は肉体的にも精神的にもフラフラだし、力だって思うように使えない。
けれど、それに対する怒りや悔しさのような、負の感情は湧いてこなかった。
奪い取られたわけじゃなく、飽くまで映し出されただけで、この心から抜け出たわけではないからかもしれない。
けれどきっと、そんなことよりも、彼女に対する哀れみや危惧の方が大きいからかもしれない。
ドルミーレの力は、決して素晴らしいものとは言えない。
確かに大きな力ではあるけれど、その力はあまりにも冷たく寂しく苦しいものだ。
そんな力を私から嬉々として掠め取り、そしてドルミーレの心をその身に降ろそうとしているホワイトは、私にはとても危うく見えた。
ホワイトは、この力の恐ろしさと、ドルミーレの恐ろしさをわかっていない。
そう思ってしまうから、私は現状に怒りを覚えないのかもしれない。
そもそも私自身が、自分がこの力を持つことにこだわりがないから、というのもあるかもしれないけれど。
『チョロチョロと逃げ回る元気がまだおありなのですか。しかし、それがいつまで続くでしょう』
自身に比べてちっぽけな私を鼻で笑い、ホワイトは髪も蛇の頭を全て私に向けた。
その口はまるで砲門のように大きく広げられ、そこから眩いレーザーが放たれた。
マンガみたいなレーザービームが沢山の蛇の頭から一斉に撃ち放たれて、空間を切り裂くように光の線が走った。
「…………!」
逃げ道を見出せないほどに入り組んだ光線の数々。
私はそれを『真理の剣』掻き消しながら、一直線にホワイトの頭部に向けて飛び込んだ。
絶え間なく私に向けてレーザーが放たれ、かと思えば髪の蛇の牙が死角から飛び込んでくる。
その頭部を剣で切り落としても、髪でできたそれはすぐに再生し形を取り戻す。
巨体による大振りな動作のお陰で何とかそれらの間を掻い潜って、私は彼女の眼前に到達した。
「私は、あなたには負けない!」
『それはどうでしょう』
『真理の剣』を大きく振りかぶり、できる限りの魔力を込める。
それをその巨大に叩き込もうと握り込んだ時、ホワイトの蛇のような瞳が煌めいた。
そう、私が認識した瞬間、瞳の輝きがエネルギーを持って眩い熱量を持った光線と化した。
剣を振り下ろす間もない攻撃だったけれど、咄嗟にその光を掌握しようと意識を向ける。
けれど、その光線の力は凄まじく、いつもあっさりと奪い取れる幻想がビクともしなかった。
一瞬だけ押さえ込むこと、それだけで精一杯だった。
「う、ぐっ…………!」
力が流れ出ている今、他者の幻想を包み込み奪い取ることにも限度があるのかもしれない。
どんなに意識を向けても私の幻想で飲み込めない光線に苦戦したその一瞬。
その僅かな隙に、横から巨大な蛇の尾が振り下ろされた。
「ッ────────!!!」
完全に意識の外からの攻撃。
目の前のことに精一杯だった私に、それへのリアクションなんて取れなかった。
すんでのところで私の胸に氷の華が咲き、そこから放たれた氷が盾を張ってくれた。
けれど私の身を包むほど大きな氷の盾も、視界を埋め尽くすような大蛇の尾には敵わなくて。
私は、盾ごと地面に叩き落とされた。
盾が一部の衝撃を防いでくれたとはいえ、私の体に響いたものは凄まじかった。
全ての感覚が吹き飛んで、一瞬死んでしまったのかと錯覚して。
けれど直後に襲ってきた激痛に自分の生存を確認する。
それでも痛みだけが全身を苛んで、何も考えられなくなった。
気がついた時には、私は地面に横這いに倒れ込んでいた。
一瞬意識を失っていたのか、それとも認識が追い付かないほどの刹那の出来事だったか。
いずれにしても、身体中が意味わからないくらい痛かった。
「ぅ、あっ…………」
ぼやける意識で、立たなきゃと考える。
順序立てた思考はできなくて、ただ本能的に、反射で治癒の魔法を駆け巡らせた。
それによって僅かに視界がクリアになったところに、第二撃の蛇の尾が落ちてきていることに気がついた。
「────ぐ、っぁああ!!!」
瞬間的に意識が覚醒して、何も考えずに全身に魔力を巡らせた。
それに反応したのか氷の華が勢いよく咲き乱れ、私の体を持ち上げて吹き飛ばした。
まさに間一髪。
ギリギリのところで蛇の尾の一撃を逃れた私は、宙を舞った体を強引に捻って、なんとか四つん這いで着地した。
全身どこもかしこも痛いし、骨は軋むし脳が潰れそうだ。
それでも、私の心を守ってくれている繋がりが、私を折れないように支えてくれた。
だから私は全ての意識を回復に向けて、震える足で地を踏みしめた。
『真理の剣』を握る手の感覚は少し曖昧だけれど。
それでも諦めてしまったら、そこで全てが終わってしまうから。
『か弱いというのにしぶとくていらっしゃる。潔く負けを認めた方が楽でしょうに』
「私が負けたら……何も、守れないから。あなたが掲げる正義じゃ、私の友達が笑えない、から……!」
呆れたような声を上げるホワイトに、私は呂律の回らない口で答えた。
息をするのも苦しい。声を出すと喉が焼けるようだ。
上を見上げるのは億劫だし、目を開くのにすら力がいる。
それでも、彼女に屈服なんてしたくないから。
「……ホワイト。私は諦めない。あなたのその誤った正義を止めるまで、私は…………!」
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