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第7章 リアリスティック・ドリームワールド
78 姉妹の迎え
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上空から呼びつけられて思わずびくりとする。
慌てて空を見上げてみれば、ものすごいスピードで滑空してくる二人分の黒い人影があった。
「あぁ……! アリス様、よかった!」
戦闘機のような勢いで突風を撒き散らしながら飛んできたその人影は、私のすぐ脇で着地した。
空気を叩きつけたような風圧がぶわっと辺りに広がって、花々が大きくたなびき、花弁が大量に舞い散った。
しかし人影はそんなことなど気にせずに、私に顔を向けて通り抜けるような明るい声を上げた。
「ご無事でなによりです。ホッとしました」
「シ、シオンさん! それにネネさんも!」
漫画に出てくる超人のような慌ただしい登場をしたのは、漆黒の軍服を着込んだ姉妹の魔女狩り、シオンさんとネネさんだった。
ロード・ホーリー傘下の、H1、H2である二人だ。
闇をまとうような漆黒のロングコートタイプの軍服。
それと対照的なスタイリッシュなショートパンツと、引き締まった脚を包む網タイツ。
厳格さの中に女性らしい艶やかさを含んだその風体は、以前会った時と変わっていない。
真っ先に身を乗り出してきたのは、姉のシオンさん。
柔らかな風に優雅になびく茶髪を振りながら、爽やかな笑みを浮かべて私の手を取った。
長めの前髪によって隠れている片目が風によってチラチラと見え、そこに安堵の色が窺える。
そのすぐ後ろには妹のネネさんが控えていた。
シオンさんの背中に身を寄せて、その肩に顎を乗せて私にクイっと顔を向けてくる。
艶々としたストンとストレートな黒髪と、ツンとした仏頂面は相変わらず。
けれど直向きに注がれる視線を受ければ、彼女もまた心配してくれていたというのがわかった。
「先日はあまりお力になれず、すみませんでした。しかし此度こそはと、急ぎ馳せ参じました。ライト様より、あなたが不本意な度界をされたと伺いましたので」
「ありがとうございます。不本意というか……まぁちょっとトラブルで友達と逸れちゃったって感じなんですけど」
キリッとした凛々しくも、優しく私を労うように身を寄せてくるシオンさん。
最近では数日前に一度会っただけではあるけれど、封印が解けたことで、お姫様をしていた頃に何回か会ったことがあるのを思い出した。
だから二人は頼もしく信頼できることはよくわかっている。
姉妹の来訪に、正直大分ホッとした。
「元々あの城を経由するって聞いてたから、取り敢えず見に来てみたんだよ。もしここにいなかったら他にアテがなかったし、見つかってラッキーだったよ」
「私も見つけてもらえてラッキーでした。でも、どうして私がこっちに来ることや、あの城に来ることを知ってたんですか?」
「ライト様がナイトウォーカーから知らせを受けてね~」
「…………!?」
シオンさんの背中にもたれ掛かったまま、ネネさんは気の抜けたような喋り方で言った。
何の気無しの軽い口調ではあったけど、私としては驚きを隠せなかった。
ナイトウォーカーとは、夜子さんのことだ。
夜子さんからロード・ホーリーに知らせを送るなんて、二人には何か繋がりがあるっていうこと?
いやでも、思えば五年前の封印の出来事に関しても、夜子さんはロード・ホーリーと繋がりがあるようなことを言っていた。
元々同じ魔法使いとして『まほうつかいの国』にいたわけだから、何かしらの関わりがあってもおかしくはない、か。
ロード・ホーリーはシオンさんたち曰く、私のことを心配してくれている人だから、他の人たちとは違うらしいし。
でも個人的には、晴香を魔女にして鍵の命運を背負わせた彼女には、とてもじゃないけれど良い印象は持てなかった。
けれど、夜子さんが頼るのだから一応信頼できる人ではあるんだろう。
「私たちはライト様より、あなたの確保と護衛を言い付っています。ですのでもうご安心を」
「あ、はい。ありがとうございます……」
頭をぐるぐると巡らせていた私に、シオンさんがふんわりと微笑んだ。
大人のお姉さんらしい落ち着いた雰囲気は、こうしてそばにいてもらえるだけで心が安らぐ。
ただ、黒いロングコートから覗くスラリと長い網タイツの脚があまりにもセクシーで、安心と共にドキドキもついてくる。
軍帽も含めて全て黒で統一されているから、短いショートパンツから伸びるその白い脚が眩しく目立って仕方ない。
「ですが、今は少々問題がありまして……」
優しく浮かべた笑顔を真剣な眼差しに変えて、シオンさんは困ったように眉を落とした。
「本来であれば他の魔法使いの目を避けるため、私たちの拠点であるロード・ホーリーの館にお連れしたい所なのですが……」
「今、王都はワルプルギスの襲撃を受けてるんだよ。だから流石にその渦中にアリス様を連れてはいけないんだよね」
「え! ワルプルギスが!?」
ネネさんがしれっと口にした言葉に、私はビクリと反応してしまった。
王都がワルプルギスに襲撃を受けている。
それはつまり、ホワイトによる魔法使いへの大規模な叛逆の作戦が動き始めてしまっているということだ。
「遅かった……!」
無謀なその戦いを未然に防ぎたかったのに、できなかった。
多くの魔女が明らかに形成不利な戦いに投じられ、命を危険に晒してしまっている。
いても立ってもいられなくなった私は、すぐさま王都に向かおうと足を動かした。
けれどそんな私の手を、シオンさんが強く握って止める。
「お待ち下さいアリス様。どこに行かれようというのです?」
「もちろん王都です! 私は、ワルプルギスの無謀な戦いを止めるために、魔法使いと魔女の争いを止めるために、またこの世界に来たんですから。早く、止めに行かないと!」
「お待ち下さい!」
振り払って行こうとしても、シオンさんは手を放してくれない。
どうしてと思わず睨むように顔を向けると、思い悩むような静かな瞳が私に向けられていた。
そんなシオンさんと目が合い、少し冷静になる。
「お気持ちはわかります。私たちとて、魔法使いと魔女の争いは愚かなものだと思っております。しかし、あなたは御身の重要性をわかっておられるのですか? あなたは、戦いの渦中に飛び込むべきお方ではありません」
「自分の立場は、よくわかってます。だからこそなんです。だからこそ私は、自分の責任を果たすために行かなきゃいけないんです」
穏やかな口調で諭すように語りかけてくるシオンさん。
確かに、普通の一国のお姫様だとしたら、危険に飛び込むべきじゃない。
でも私は、『まほうつかいの国』のお姫様である前に、ドルミーレと『始まりの力』を持つ人間だから。
それが原因で起きている問題を、見過ごすことなんてできない。
「心配してもらえるのは嬉しいですけど、ごめんなさい。私はこの為に来たんです。これ以上、悲しむ人を出さない為に」
「ですが、アリス様────」
「まぁまぁ姉様。アリス様がこう言ってるんだからさ」
不安な面持ちで渋るシオンさんを、ネネさんがふわっと宥めた。
寄り掛かっていた体をのっそりと離して、私からシオンさんの手を解くネネさん。
その代わりに自身が私たちの渡りとなって、眠たそうな緩い笑みで私たちを交互に見た。
「ライト様に言われた通り、私たちは魔法使いと魔女の行末を見なきゃでしょ? その為には、アリス様の望む通りにしてもらった方がいいんじゃない?」
「そ、それは……まぁ、確かに……」
やる気のなさそうな抑揚の少ない喋り方で、しかししっかりと意見を述べるネネさん。
それを受けたシオンさんは、若干俯いて小さく唸った。
けれどすぐにあげた顔には、意を決した凛としたものがあった。
「わかりました。アリス様のご意志のままに。私たちが王都まで安全にお送り致しましょう」
そう頷いたシオンさんに、ネネさんが私に向かってニヤッとした。
慌てて空を見上げてみれば、ものすごいスピードで滑空してくる二人分の黒い人影があった。
「あぁ……! アリス様、よかった!」
戦闘機のような勢いで突風を撒き散らしながら飛んできたその人影は、私のすぐ脇で着地した。
空気を叩きつけたような風圧がぶわっと辺りに広がって、花々が大きくたなびき、花弁が大量に舞い散った。
しかし人影はそんなことなど気にせずに、私に顔を向けて通り抜けるような明るい声を上げた。
「ご無事でなによりです。ホッとしました」
「シ、シオンさん! それにネネさんも!」
漫画に出てくる超人のような慌ただしい登場をしたのは、漆黒の軍服を着込んだ姉妹の魔女狩り、シオンさんとネネさんだった。
ロード・ホーリー傘下の、H1、H2である二人だ。
闇をまとうような漆黒のロングコートタイプの軍服。
それと対照的なスタイリッシュなショートパンツと、引き締まった脚を包む網タイツ。
厳格さの中に女性らしい艶やかさを含んだその風体は、以前会った時と変わっていない。
真っ先に身を乗り出してきたのは、姉のシオンさん。
柔らかな風に優雅になびく茶髪を振りながら、爽やかな笑みを浮かべて私の手を取った。
長めの前髪によって隠れている片目が風によってチラチラと見え、そこに安堵の色が窺える。
そのすぐ後ろには妹のネネさんが控えていた。
シオンさんの背中に身を寄せて、その肩に顎を乗せて私にクイっと顔を向けてくる。
艶々としたストンとストレートな黒髪と、ツンとした仏頂面は相変わらず。
けれど直向きに注がれる視線を受ければ、彼女もまた心配してくれていたというのがわかった。
「先日はあまりお力になれず、すみませんでした。しかし此度こそはと、急ぎ馳せ参じました。ライト様より、あなたが不本意な度界をされたと伺いましたので」
「ありがとうございます。不本意というか……まぁちょっとトラブルで友達と逸れちゃったって感じなんですけど」
キリッとした凛々しくも、優しく私を労うように身を寄せてくるシオンさん。
最近では数日前に一度会っただけではあるけれど、封印が解けたことで、お姫様をしていた頃に何回か会ったことがあるのを思い出した。
だから二人は頼もしく信頼できることはよくわかっている。
姉妹の来訪に、正直大分ホッとした。
「元々あの城を経由するって聞いてたから、取り敢えず見に来てみたんだよ。もしここにいなかったら他にアテがなかったし、見つかってラッキーだったよ」
「私も見つけてもらえてラッキーでした。でも、どうして私がこっちに来ることや、あの城に来ることを知ってたんですか?」
「ライト様がナイトウォーカーから知らせを受けてね~」
「…………!?」
シオンさんの背中にもたれ掛かったまま、ネネさんは気の抜けたような喋り方で言った。
何の気無しの軽い口調ではあったけど、私としては驚きを隠せなかった。
ナイトウォーカーとは、夜子さんのことだ。
夜子さんからロード・ホーリーに知らせを送るなんて、二人には何か繋がりがあるっていうこと?
いやでも、思えば五年前の封印の出来事に関しても、夜子さんはロード・ホーリーと繋がりがあるようなことを言っていた。
元々同じ魔法使いとして『まほうつかいの国』にいたわけだから、何かしらの関わりがあってもおかしくはない、か。
ロード・ホーリーはシオンさんたち曰く、私のことを心配してくれている人だから、他の人たちとは違うらしいし。
でも個人的には、晴香を魔女にして鍵の命運を背負わせた彼女には、とてもじゃないけれど良い印象は持てなかった。
けれど、夜子さんが頼るのだから一応信頼できる人ではあるんだろう。
「私たちはライト様より、あなたの確保と護衛を言い付っています。ですのでもうご安心を」
「あ、はい。ありがとうございます……」
頭をぐるぐると巡らせていた私に、シオンさんがふんわりと微笑んだ。
大人のお姉さんらしい落ち着いた雰囲気は、こうしてそばにいてもらえるだけで心が安らぐ。
ただ、黒いロングコートから覗くスラリと長い網タイツの脚があまりにもセクシーで、安心と共にドキドキもついてくる。
軍帽も含めて全て黒で統一されているから、短いショートパンツから伸びるその白い脚が眩しく目立って仕方ない。
「ですが、今は少々問題がありまして……」
優しく浮かべた笑顔を真剣な眼差しに変えて、シオンさんは困ったように眉を落とした。
「本来であれば他の魔法使いの目を避けるため、私たちの拠点であるロード・ホーリーの館にお連れしたい所なのですが……」
「今、王都はワルプルギスの襲撃を受けてるんだよ。だから流石にその渦中にアリス様を連れてはいけないんだよね」
「え! ワルプルギスが!?」
ネネさんがしれっと口にした言葉に、私はビクリと反応してしまった。
王都がワルプルギスに襲撃を受けている。
それはつまり、ホワイトによる魔法使いへの大規模な叛逆の作戦が動き始めてしまっているということだ。
「遅かった……!」
無謀なその戦いを未然に防ぎたかったのに、できなかった。
多くの魔女が明らかに形成不利な戦いに投じられ、命を危険に晒してしまっている。
いても立ってもいられなくなった私は、すぐさま王都に向かおうと足を動かした。
けれどそんな私の手を、シオンさんが強く握って止める。
「お待ち下さいアリス様。どこに行かれようというのです?」
「もちろん王都です! 私は、ワルプルギスの無謀な戦いを止めるために、魔法使いと魔女の争いを止めるために、またこの世界に来たんですから。早く、止めに行かないと!」
「お待ち下さい!」
振り払って行こうとしても、シオンさんは手を放してくれない。
どうしてと思わず睨むように顔を向けると、思い悩むような静かな瞳が私に向けられていた。
そんなシオンさんと目が合い、少し冷静になる。
「お気持ちはわかります。私たちとて、魔法使いと魔女の争いは愚かなものだと思っております。しかし、あなたは御身の重要性をわかっておられるのですか? あなたは、戦いの渦中に飛び込むべきお方ではありません」
「自分の立場は、よくわかってます。だからこそなんです。だからこそ私は、自分の責任を果たすために行かなきゃいけないんです」
穏やかな口調で諭すように語りかけてくるシオンさん。
確かに、普通の一国のお姫様だとしたら、危険に飛び込むべきじゃない。
でも私は、『まほうつかいの国』のお姫様である前に、ドルミーレと『始まりの力』を持つ人間だから。
それが原因で起きている問題を、見過ごすことなんてできない。
「心配してもらえるのは嬉しいですけど、ごめんなさい。私はこの為に来たんです。これ以上、悲しむ人を出さない為に」
「ですが、アリス様────」
「まぁまぁ姉様。アリス様がこう言ってるんだからさ」
不安な面持ちで渋るシオンさんを、ネネさんがふわっと宥めた。
寄り掛かっていた体をのっそりと離して、私からシオンさんの手を解くネネさん。
その代わりに自身が私たちの渡りとなって、眠たそうな緩い笑みで私たちを交互に見た。
「ライト様に言われた通り、私たちは魔法使いと魔女の行末を見なきゃでしょ? その為には、アリス様の望む通りにしてもらった方がいいんじゃない?」
「そ、それは……まぁ、確かに……」
やる気のなさそうな抑揚の少ない喋り方で、しかししっかりと意見を述べるネネさん。
それを受けたシオンさんは、若干俯いて小さく唸った。
けれどすぐにあげた顔には、意を決した凛としたものがあった。
「わかりました。アリス様のご意志のままに。私たちが王都まで安全にお送り致しましょう」
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