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第0.5章 まほうつかいの国のアリス
74 お花畑と城と剣8
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「アリス!!!」
レオとアリア、二人の大きな叫び声でわたしはハッとした。
頭の中にひびいていたドルミーレの声に夢中で、周りのことなんて気にできてなかった。
そしてハッとしたのと同時に、わたしは自分が後ろ向きに倒れそうになっているのに気づいた。
イスの背もたれに突き刺さっていた剣はすっぽりと抜けいて。
まるで剣を引き抜いた勢いでひっくり返っているみたいに体が傾いていた。
そんなわたしに、二人があわてた声で叫びながら寄ってきて、ガシッと抱きとめてくれた。
二人が後ろから抱きしめてくれたおかげで、わたしはすこしよろけるくらいすんだ。
「アリス! ねぇ大丈夫!? わたしたちの声聞こえる!?」
「しっかりしろアリス! ぼけっとしてんじゃねぇ!」
二人が一斉に大きな声でわたしに呼びかけてくる。
とてもあせっていて、引きつったような声で。
今さっき意識がハッキリしたわたしは、そんな二人のせっぱつまった声を聞いても、いまいちことの重大さがわからなかった。
むしろ、どうして二人はそんなにあわててるんだろうなんて、そんなのんきなことを考えちゃったくらい。
でもすぐに、自分が今まで何をしていたのかを思い出した。
ドルミーレの力をもっと使えるようになりたいと思って、ドルミーレの剣にさわって。
そしたらドルミーレの声が聞こえたから、おしゃべりをして、それからとってもかなしい気持ちになって、それで……。
ドルミーレの強い力と、それに真っ黒な気持ちに押しつぶされそうになっちゃっところを助けてくれたのは、確かにあられちゃんだった。
それからドルミーレはもう興味なさそうに、勝手にしなさいって言って消えちゃった。
すこし気持ちを向けてみると、心の奥で何か大きなものがあるのを感じる。
ドルミーレの『そんざいかん』だけが、わたしの中に残っていて、これが力なんだってなんとなくわかった。
うまくおしゃべりはできなくて、なんだかすれちがってばっかりだった気がするけれど。
でも、力は使えるようになったのかもしれない。
「アリス! ねぇアリス!!! お願い返事して!」
「────ご、ごめん。ちょっと、ボーッとしちゃって」
意識はハッキリしたけど、今あったことを考え込んじゃっているわたしの耳に、アリアが泣きそうな声で叫ぶのが聞こえた。
わたしのことを後ろから支えてくれながら、でもどちらかというとわたしにすがりついているみたいなかんじのアリア。
その声を聞いて、やっとわたしは現実にスーッと気持ちが帰ってきた。
すぐに自分の足でちゃんと立って、振り向いてあやまる。
泣きそうというか、もう目に涙をたくさんためているアリアの顔が、わたしを見てくしゃっとつぶれた。
「バカ! もぅ、心配させないでよ……! ぴくりとも動かなくなっちゃって、呼んでも応えないし、急に倒れるし……。アリスが、力に負けちゃったんじゃないかって、心配で、わたし……」
「ごめん。ごめんね、アリア。心配かけてごめん」
ヒクヒクと『おえつ』まじりに、ふるえる声で言うアリアに、わたしはただあやまることしかできなかった。
わたしはドルミーレとおしゃべりをしていただけだけれど、まわりのみんなから見たらわたしは一人で突っ立ってるだけの変な光景だったのかもしれない。
いつもは冷静でわたしなんかよりも大人っぽいアリアだけど、今はくしゃくしゃの顔をして、今にもわんわん泣きそうになるのをガマンしていた。
それでもガマンしきれない涙がポロポロとこぼれてる。
アリアはそれをぐいっと袖でふいて、正面からわたしに抱きついてきた。
「わたし、こわかったよ。アリスがどうにかなっちゃうんじゃないかって。ものすごく強くて恐ろしい力を感じて、それにアリスが飲み込まれちゃんうんじゃないかって、心配だった。こわかったよぉ……」
「ごめんねアリア。でも、もう大丈夫だから。わたし、何にも変なことになってないよ。わたしは、ちゃんとわたしだから」
「うん……」
わたしのことをぎゅうぎゅう抱きしめてくるアリアの背中をよしよしさすってあげる。
いつもはわたしが励ましてもらったり優しくしてもらってるから、なんだかちょっぴり新鮮な気持ちだった。
心配かけちゃってるのに、こういうこと思うのはよくないかもしれないけど。
「ったく、心配かけやがって。ハラハラしたんだからな」
「レオもごめんね。でもわたし、本当に大丈夫だから。大きな力がふくれ上がって、わたしもこわかったけど。でも、大丈夫だから」
腕を組んではぁと重いため息をついて見せるレオ。
その顔には汗が流れていて、レオもわたしのことをとっても心配してくれていたんだってことがわかった。
今はほっとした顔をしてるけど、顔色が何となく悪い気がする。
「……ドルミーレの力、使えるようになったのか?」
「うん、多分。今まではとっさに思わず使っててよくわかってなかったけど。でも今は、自分の中に大きな力があるっていうのがわかる。自分がしたいことをするためにはどうすればいいのか、わかる気がするんだ」
「……そうか」
わたしがうなずくと、レオはすこし複雑そうな顔しながらやんわりと笑った。
レオははじめからわたしが『始まりの魔女』の力を使うのに賛成じゃなかったから。
わたしも、『じっさい』にドルミーレと話してみて、やっぱりとってもこわい人だって思った。
その考え方も気持ちもわたしとはぜんぜんちがうし、力もとっても暗くて重苦しかった。
でも、この力を使うことで友達を助けることができるんだったら。
わたしは、自分にできることをしたいんだ。
「ねぇレオ、アリア」
わたしはアリアのことをはなして、あらためて二人の顔を見た。
「わたしね、二人のことが大好き。レオとアリアのことが大好きだよ。だから、いっぱいわたしの力になってくれた二人のために、わたしも力になりたいの。わたしのこの力でできることがあるなら、わたしはそれをしたい」
「アリス……」
真っ赤に泣きはらした目で、アリアがよわよわしくわたしを見る。
何かにすがりつくように、両手を組み合わせながら。
「この剣をにぎって、ドルミーレの声が聞こえて、その力がわたしの中でふくれ上がった。ドルミーレの力はとっても大きかったけど、でもとってもさみしかった。そう感じた時、思ったんだ。でもわたしは一人じゃないって。いつでも繋がってる友達がいるんだから、この力を使ってそのために使って友達を守りたいって」
それに、ドルミーレの力を自分の中に感じられるようになったからか、この剣からも何か強い意志を感じるようになった気がする。
『何か』を救いたい、救わなくっちゃいけないっていう強い意志みたいな、強い気持ち。
この剣をにぎったからには、わたしは『何か』を救うべきなんだって、そういう気がする。
それは、わたしが友達を守りたいっていう気持ちとぴったり合わせって、さらに強い意志になる。
「だからね、わたしは二人が住むこの国を、たくさんの友達が住んでいるこの国を救いたいって思った。たくさんの人をこまらせて苦しめている、あのわがままな女王様を倒さなきゃいけないって。この力を持って、この剣を持ったわたしは、それをしなきゃいけない、したいってそう思うんだよ」
「女王陛下を倒す……マジかよ、アリス」
レオが引きつった顔でつぶやく。
そんなこと『むぼう』だって、めちゃくちゃだって顔だ。
「本気だよ。この国を二人と冒険してきて、いろんな町を見て、いろんな人たちと会った。みんなみんな、女王様にこまってたもん。わたしは、二人のために、みんなのために、女王様と戦おうと思う」
「……お前はホント、いつもめちゃくちゃなことばっかり……」
レオはわたしの目を見て、ため息をつきながら頭をくしゃくしゃっとかいて、こまった顔で笑った。
それはわたしを怒っているわけでもあきれているわけでもなくて。
しょーがないなって、そう言いながらいつもわたしのむちゃくちゃを助けてくれる時と、同じ顔。
「そんなこと言われて、怒れるかよ。その力がどうだとか、無茶なことするだとか、言えるわけがねぇ。お前は本当に、優しいやつだよ……」
「レオ……」
「お前が戦うっていうんなら、オレも戦うさ。こうなったら、お前のやりたいことにとことん付き合ってやるよ」
「いいの? わたしは、この国の女王様と戦おうとしてるのに……」
「当たり前だろ。女王陛下にはオレだってうんざりしてたしよ。それに、オレは何よりもお前の味方だ。お前が戦うなら、それがオレたちのためだってんなら、一緒に戦うのは当然だ」
そう言って、レオはニカっと笑う。
頭の後ろで手を組んで、強くたくましく、でもやさしく。
いつもわたしたちを守ってくれる、頼りになるお兄さんの顔で。
「わたしも……わたしも戦う!」
そんなレオと、それからわたしを見て、アリアがあわてて言った。
まだ涙がにじんでいた目元をギュッとふいて、キリッとした顔を作る。
「わたしだって、アリスの友達だもん。ここまで一緒に来たんだもん。最後まで、わたしもアリスの味方だよ」
「ありがとう。ありがとう二人とも。ごめんね、まだわがままに付き合わせちゃう」
わたしがお礼を言いながらあやまると、二人はそろって首を横にふった。
それから二人してわたしの手をにぎって、やさしい顔で笑ってくれる。
「オレたちは友達だ。アリスを助けるって、アリスの力になるって決めたんだ。そのお前が今度はオレたちのために戦うって言ってくれたんだ。ずっと一緒に決まってんだろ」
「大変なことはたくさんあったけど、でも楽しいこともたくさんあった。それは、アリスといられて、三人でいられたからだよ。だからわたしたち三人が一緒にいれば、きっと何でもできる。だから、どこまでもついてくよ」
「……うん。うん。わたしたちはずっと一緒。ずっと友達だよ……!」
ぎゅっと、わたしたちは手をにぎり合った。
わたしたちはまだまだ子供で、『みじゅく』かもしれないけど。
それに相手はこの国の女王様。わがままな女王様。
でも、三人でなら何とかなる、そんな気がした。
『むぼう』でむちゃくちゃで、とっぴょうしもないことだって、よくわかってる。
でも、こうしたいって思っちゃったんだ。レオやアリア、友達を救いたいって。
ドルミーレのものすごい力と、この剣があればきっとそれができるから。
だからわたしは、あの女王様と戦うって、そう決めた。
二人と一緒なら、なにもこわくない。
レオとアリア、二人の大きな叫び声でわたしはハッとした。
頭の中にひびいていたドルミーレの声に夢中で、周りのことなんて気にできてなかった。
そしてハッとしたのと同時に、わたしは自分が後ろ向きに倒れそうになっているのに気づいた。
イスの背もたれに突き刺さっていた剣はすっぽりと抜けいて。
まるで剣を引き抜いた勢いでひっくり返っているみたいに体が傾いていた。
そんなわたしに、二人があわてた声で叫びながら寄ってきて、ガシッと抱きとめてくれた。
二人が後ろから抱きしめてくれたおかげで、わたしはすこしよろけるくらいすんだ。
「アリス! ねぇ大丈夫!? わたしたちの声聞こえる!?」
「しっかりしろアリス! ぼけっとしてんじゃねぇ!」
二人が一斉に大きな声でわたしに呼びかけてくる。
とてもあせっていて、引きつったような声で。
今さっき意識がハッキリしたわたしは、そんな二人のせっぱつまった声を聞いても、いまいちことの重大さがわからなかった。
むしろ、どうして二人はそんなにあわててるんだろうなんて、そんなのんきなことを考えちゃったくらい。
でもすぐに、自分が今まで何をしていたのかを思い出した。
ドルミーレの力をもっと使えるようになりたいと思って、ドルミーレの剣にさわって。
そしたらドルミーレの声が聞こえたから、おしゃべりをして、それからとってもかなしい気持ちになって、それで……。
ドルミーレの強い力と、それに真っ黒な気持ちに押しつぶされそうになっちゃっところを助けてくれたのは、確かにあられちゃんだった。
それからドルミーレはもう興味なさそうに、勝手にしなさいって言って消えちゃった。
すこし気持ちを向けてみると、心の奥で何か大きなものがあるのを感じる。
ドルミーレの『そんざいかん』だけが、わたしの中に残っていて、これが力なんだってなんとなくわかった。
うまくおしゃべりはできなくて、なんだかすれちがってばっかりだった気がするけれど。
でも、力は使えるようになったのかもしれない。
「アリス! ねぇアリス!!! お願い返事して!」
「────ご、ごめん。ちょっと、ボーッとしちゃって」
意識はハッキリしたけど、今あったことを考え込んじゃっているわたしの耳に、アリアが泣きそうな声で叫ぶのが聞こえた。
わたしのことを後ろから支えてくれながら、でもどちらかというとわたしにすがりついているみたいなかんじのアリア。
その声を聞いて、やっとわたしは現実にスーッと気持ちが帰ってきた。
すぐに自分の足でちゃんと立って、振り向いてあやまる。
泣きそうというか、もう目に涙をたくさんためているアリアの顔が、わたしを見てくしゃっとつぶれた。
「バカ! もぅ、心配させないでよ……! ぴくりとも動かなくなっちゃって、呼んでも応えないし、急に倒れるし……。アリスが、力に負けちゃったんじゃないかって、心配で、わたし……」
「ごめん。ごめんね、アリア。心配かけてごめん」
ヒクヒクと『おえつ』まじりに、ふるえる声で言うアリアに、わたしはただあやまることしかできなかった。
わたしはドルミーレとおしゃべりをしていただけだけれど、まわりのみんなから見たらわたしは一人で突っ立ってるだけの変な光景だったのかもしれない。
いつもは冷静でわたしなんかよりも大人っぽいアリアだけど、今はくしゃくしゃの顔をして、今にもわんわん泣きそうになるのをガマンしていた。
それでもガマンしきれない涙がポロポロとこぼれてる。
アリアはそれをぐいっと袖でふいて、正面からわたしに抱きついてきた。
「わたし、こわかったよ。アリスがどうにかなっちゃうんじゃないかって。ものすごく強くて恐ろしい力を感じて、それにアリスが飲み込まれちゃんうんじゃないかって、心配だった。こわかったよぉ……」
「ごめんねアリア。でも、もう大丈夫だから。わたし、何にも変なことになってないよ。わたしは、ちゃんとわたしだから」
「うん……」
わたしのことをぎゅうぎゅう抱きしめてくるアリアの背中をよしよしさすってあげる。
いつもはわたしが励ましてもらったり優しくしてもらってるから、なんだかちょっぴり新鮮な気持ちだった。
心配かけちゃってるのに、こういうこと思うのはよくないかもしれないけど。
「ったく、心配かけやがって。ハラハラしたんだからな」
「レオもごめんね。でもわたし、本当に大丈夫だから。大きな力がふくれ上がって、わたしもこわかったけど。でも、大丈夫だから」
腕を組んではぁと重いため息をついて見せるレオ。
その顔には汗が流れていて、レオもわたしのことをとっても心配してくれていたんだってことがわかった。
今はほっとした顔をしてるけど、顔色が何となく悪い気がする。
「……ドルミーレの力、使えるようになったのか?」
「うん、多分。今まではとっさに思わず使っててよくわかってなかったけど。でも今は、自分の中に大きな力があるっていうのがわかる。自分がしたいことをするためにはどうすればいいのか、わかる気がするんだ」
「……そうか」
わたしがうなずくと、レオはすこし複雑そうな顔しながらやんわりと笑った。
レオははじめからわたしが『始まりの魔女』の力を使うのに賛成じゃなかったから。
わたしも、『じっさい』にドルミーレと話してみて、やっぱりとってもこわい人だって思った。
その考え方も気持ちもわたしとはぜんぜんちがうし、力もとっても暗くて重苦しかった。
でも、この力を使うことで友達を助けることができるんだったら。
わたしは、自分にできることをしたいんだ。
「ねぇレオ、アリア」
わたしはアリアのことをはなして、あらためて二人の顔を見た。
「わたしね、二人のことが大好き。レオとアリアのことが大好きだよ。だから、いっぱいわたしの力になってくれた二人のために、わたしも力になりたいの。わたしのこの力でできることがあるなら、わたしはそれをしたい」
「アリス……」
真っ赤に泣きはらした目で、アリアがよわよわしくわたしを見る。
何かにすがりつくように、両手を組み合わせながら。
「この剣をにぎって、ドルミーレの声が聞こえて、その力がわたしの中でふくれ上がった。ドルミーレの力はとっても大きかったけど、でもとってもさみしかった。そう感じた時、思ったんだ。でもわたしは一人じゃないって。いつでも繋がってる友達がいるんだから、この力を使ってそのために使って友達を守りたいって」
それに、ドルミーレの力を自分の中に感じられるようになったからか、この剣からも何か強い意志を感じるようになった気がする。
『何か』を救いたい、救わなくっちゃいけないっていう強い意志みたいな、強い気持ち。
この剣をにぎったからには、わたしは『何か』を救うべきなんだって、そういう気がする。
それは、わたしが友達を守りたいっていう気持ちとぴったり合わせって、さらに強い意志になる。
「だからね、わたしは二人が住むこの国を、たくさんの友達が住んでいるこの国を救いたいって思った。たくさんの人をこまらせて苦しめている、あのわがままな女王様を倒さなきゃいけないって。この力を持って、この剣を持ったわたしは、それをしなきゃいけない、したいってそう思うんだよ」
「女王陛下を倒す……マジかよ、アリス」
レオが引きつった顔でつぶやく。
そんなこと『むぼう』だって、めちゃくちゃだって顔だ。
「本気だよ。この国を二人と冒険してきて、いろんな町を見て、いろんな人たちと会った。みんなみんな、女王様にこまってたもん。わたしは、二人のために、みんなのために、女王様と戦おうと思う」
「……お前はホント、いつもめちゃくちゃなことばっかり……」
レオはわたしの目を見て、ため息をつきながら頭をくしゃくしゃっとかいて、こまった顔で笑った。
それはわたしを怒っているわけでもあきれているわけでもなくて。
しょーがないなって、そう言いながらいつもわたしのむちゃくちゃを助けてくれる時と、同じ顔。
「そんなこと言われて、怒れるかよ。その力がどうだとか、無茶なことするだとか、言えるわけがねぇ。お前は本当に、優しいやつだよ……」
「レオ……」
「お前が戦うっていうんなら、オレも戦うさ。こうなったら、お前のやりたいことにとことん付き合ってやるよ」
「いいの? わたしは、この国の女王様と戦おうとしてるのに……」
「当たり前だろ。女王陛下にはオレだってうんざりしてたしよ。それに、オレは何よりもお前の味方だ。お前が戦うなら、それがオレたちのためだってんなら、一緒に戦うのは当然だ」
そう言って、レオはニカっと笑う。
頭の後ろで手を組んで、強くたくましく、でもやさしく。
いつもわたしたちを守ってくれる、頼りになるお兄さんの顔で。
「わたしも……わたしも戦う!」
そんなレオと、それからわたしを見て、アリアがあわてて言った。
まだ涙がにじんでいた目元をギュッとふいて、キリッとした顔を作る。
「わたしだって、アリスの友達だもん。ここまで一緒に来たんだもん。最後まで、わたしもアリスの味方だよ」
「ありがとう。ありがとう二人とも。ごめんね、まだわがままに付き合わせちゃう」
わたしがお礼を言いながらあやまると、二人はそろって首を横にふった。
それから二人してわたしの手をにぎって、やさしい顔で笑ってくれる。
「オレたちは友達だ。アリスを助けるって、アリスの力になるって決めたんだ。そのお前が今度はオレたちのために戦うって言ってくれたんだ。ずっと一緒に決まってんだろ」
「大変なことはたくさんあったけど、でも楽しいこともたくさんあった。それは、アリスといられて、三人でいられたからだよ。だからわたしたち三人が一緒にいれば、きっと何でもできる。だから、どこまでもついてくよ」
「……うん。うん。わたしたちはずっと一緒。ずっと友達だよ……!」
ぎゅっと、わたしたちは手をにぎり合った。
わたしたちはまだまだ子供で、『みじゅく』かもしれないけど。
それに相手はこの国の女王様。わがままな女王様。
でも、三人でなら何とかなる、そんな気がした。
『むぼう』でむちゃくちゃで、とっぴょうしもないことだって、よくわかってる。
でも、こうしたいって思っちゃったんだ。レオやアリア、友達を救いたいって。
ドルミーレのものすごい力と、この剣があればきっとそれができるから。
だからわたしは、あの女王様と戦うって、そう決めた。
二人と一緒なら、なにもこわくない。
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