上 下
484 / 984
第0.5章 まほうつかいの国のアリス

14 森のお友達1

しおりを挟む
 それからわたしは『魔女の森』で楽しい毎日を過ごした。
 一日中森の中を探検して回って、不思議なものを見つけたり動物さんたちと遊んだり。
 そしてたくさん遊んで疲れたら、神殿にあるふかふかのベッドでぐっすり眠る。

 レイくんはちょこちょこどこかへ出掛けてしまうけれど、クロアさんはよくわたしと遊んでくれた。
 この森の外がどうなっているのかも気になったけれど、森の中だけでも探検しきれていないから、外へ行っている場合じゃなかった。

『魔女の森』は本当にヘンテコな森なんだ。
 色んなものが巨大なことはもう慣れてしまったけれど、それ以外にもわたしの中の普通とは違うことがたくさんあった。

 まず、この間のキノコと同じように、この森の植物はみんな動けるということ。
 草や木や花、全ての植物は自分の意思で動いて、しかも移動までしてしまう。
 だからその日のみんなの気分で森の様子が変わってしまって、何回迷子になりそうになったかわからない。
 けど、わたしが神殿に帰ろうと思うとみんな一斉に道を作ってくれるから、本当に迷子になったことはないんだけれど。

 あと、この森の動物さんたちはびっくりするくらいおりこうさん。
 おしゃべりはできないけれど、わたしの言うことは大体わかってくれるし、いつも誰かしら一緒に遊んでくれる。
 森に住む動物さんたちは、もうすっかりわたしのお友達。
 でも正直それくらいはもはや普通で、たまにやけに人間っぽい動物がいたりする。

 切り株に座ってぷかぷかパイプをふかしている猿がいたり、火を起こして料理みたいなことをしているネズミがいたり、釣竿を持って魚釣りをしている猫がいたり。
 妙に動物らしくないというか、人間っぽいというか、びっくりするようなことをしている子というのがいる。
 そこまでできるならおしゃべりできたらいいのに、話しかけると返ってくるのは鳴き声だけなのです。

 他にも色々ヘンテコに思うことはたくさんあって、毎日が驚きと発見ばかり。
 いつも色んなことが起きるものだから、わたしは全くあききることなく毎日を目まぐるしくすごしていた。
 不思議なこと、おかしなこと、楽しいこと。それに夢中で、遊ぶのが楽しくて、わたしの頭はそのことでいっぱいだった。

 そんなある日のこと。
 わたしはクロアさんと一緒に神殿前の木陰で紅茶を飲んでいた。
 クロアさんはいつもお昼から少し経つとお茶とお菓子を用意してくれるから、お茶の時間を取るのはほぼ日課になっている。

「レイくんはよくどこかに行っちゃうけど、どこに何しに行ってるの?」
「あらあら、姫様はレイさんがいらっしゃらないとお寂しいですか?」

 わたしが質問すると、クロアさんはやわらかくクスクスと笑った。
 それがなんだかちょっぴり恥ずかしくて、わたしはあわてて首を横に振った。

「べ、別にそんなんじゃないけど……! クロアさんがいるし、森のみんなはいつも遊んでくれるし。ただ、何をしてるのかなぁーって」
「そうですねぇ。わたくしも詳しくは聞いておりませんが、レイさんは魔女の安寧のために尽力されているのだと思います」
「……?」

 少しだけムキになったわたしのことをやんわりと笑い見てから、クロアさんはちょっと難しい言い回しをした。
 でもなんとなく、レイくんが魔女のために何かを頑張っているんだってことはわかった。
 それを聞いて、わたしはふと思ったことをそのまま口に出した。

「そういえば、わたしまだ自分が何をどうすればいいのか聞いてないよ。ねぇクロアさん、わたしって何をすれば良いの?」
「姫様にお力をお貸し頂く時は必ず参ります。しかし、いつどのようにかはわたくしにもわかりません。その時はレイさんからお声がかかるでしょう」
「そうなの? わたし、毎日好きに遊んでるだけだから、こんなんで良いのかなぁって思って」

 レイくんにはたっぷり好きなだけ遊びなって言われたから、わたしは思いのままに遊んでいるけれど。
 でもレイくんは力を貸して欲しくてわたしをここに連れてきたわけだし。
 このままで良いのかなぁなんて思ってしまった。

 そんなわたしを見て、クロアさんは優しく笑った。

「姫様は大変お優しくいらっしゃる。大丈夫ですよ。今は思うように、気の向くまま心の向くままお過ごし下さい。あなた様が日々を楽しく過ごすことこそが、今のわたくしたちの望みですよ」

 クロアさんはニコニコと笑いながら、わたしにとても優しい目を向けてくる。
 優しくてあったかくて、とってもうれしい気分になる目。
 わたしはクロアさんのこのやわらかい顔が好き。

「本当? それで大丈夫かなぁ?」
「もちろんですとも。それにわたくし個人と致しましては、こうして日々姫様と穏やかな時間を過ごすことができるのが、何よりも幸福な時間なのです」

 そう言ってクロアさんはわたしのほっぺをつんと突いた。

「あなた様のように愛らしく、そして優しいお方のそばで過ごす日々は、わたくしにとって輝きに満ちております。わたくしは正直、この日々が続けばそれで満足とすら思ってしまっております」
「おおげさだよ~。わたしもクロアさんとお茶飲んだりお菓子食べたりするの好きだけどね。ぎゅっとするとあったかくてやわらかくて、それに良い匂いするし」

 手をかいくぐってその胸に抱き付くと、クロアさんはまぁと声を上げた。
 でもすぐにぎゅぅっとやわらかく抱きしめてくれた。

「わたくしは幸せなのです。今わたくしは、一番幸福を感じているのです。わたくしには今まで、こんな満ち足りた日々などありませんでしたから」

 かみしめるように言うクロアさんは、きゅうきゅうとわたしを抱きしめてくれる。
 まるでお母さんみたいに温かくてやわらかいクロアさん。
 わたしはそんなクロアさんに抱きしめられるのがとっても好き。

「ですから姫様。あなた様は今、ただいてくださるだけで良いのです。そして毎日を豊かに、輝かしく過ごしていただければ。今はそれが、わたくしたちの支えになります」
「うーんと……わかった! まだまだ不思議なこといっぱいあるし、もっと色々探検してるよ!」

 クロアさんが良いって言うんだから、きっと良いんだ。
 とりあえず今は目の前に広がるたくさんの不思議に色々挑戦しよう。
 この森にいたら、時間がいくらあっても足りないくらいだ。

 わたしが元気よく応えると、クロアさんはやわらかく頷いた。

「ですが、無用心は禁物です。この森にあなた様へ害をなす輩はいないはずですが……それでも何があるかはわかりません。きちんと、気をつけてお過ごし下さいね」
「うん、わかってるよ!」

 本当にお母さんみたいなことを言うクロアさん。
 ちょっとお小言っぽいけれど、でも心配と優しさからくる言葉だってことはよくわかる。
 わたしが素直に頷くと、クロアさんはニッコリと微笑んで頭を撫でてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

令嬢キャスリーンの困惑 【完結】

あくの
ファンタジー
「あなたは平民になるの」 そんなことを実の母親に言われながら育ったミドルトン公爵令嬢キャスリーン。 14歳で一年早く貴族の子女が通う『学院』に入学し、従兄のエイドリアンや第二王子ジェリーらとともに貴族社会の大人達の意図を砕くべく行動を開始する羽目になったのだが…。 すこし鈍くて気持ちを表明するのに一拍必要なキャスリーンはちゃんと自分の希望をかなえられるのか?!

処理中です...