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第6章 誰ガ為ニ

66 変身

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「カルマちゃんが復活した理由は、まぁ一応わかったよ。いや、よくはわかってないけど、とりあえずわかったことにするよ」

 私は頭を抱えながらも次の疑問に進むことにした。
 どちらかといえば、カルマちゃんが復活した理屈よりもこっちの方が重要だし。

「でも、そもそもどうしてカルマちゃんが復活したの? さっき、まくらちゃんが新しく願ったからって言ってたけど、でもそんなこと……」

 私が尋ねると、カルマちゃんは得意げな笑みを浮かべた。
 さっきから張りまくっている胸を更に張って、最早天を仰ぐように背中を反っている。

「まさしくその通り! カルマちゃんはまくらちゃんに必要とされたんだよーん!」
「どういうこと?」

 カルマちゃんという存在は確か、一人孤独だったまくらちゃんがその寂しさを紛らわすために作り出した存在だったはず。
 今はカノンさんと一緒に楽しく過ごしているまくらちゃんが、カルマちゃんの存在を求めるとは考えにくい。

「それが実は、さっきの話に繋がるんだ」

 私が首をひねっていると、カノンさんが言いにくそうに口を開いた。

「ロード・ケインの誘いを断ったアタシは、裏切り者として正当に処罰されそうになった。その時、まくらがアタシを助けようとして、その時カルマのヤツが出てきたんだ」
「まくらちゃんは戦う力を持ってなかったからね~。それでも必死にカノンちゃんを守りたいって思った結果、カルマちゃんを呼んだってこと! いやぁカノンちゃんには感謝してほしいなぁ」
「お前が調子に乗んな!」

 ドヤ顔に更に意地の悪い笑みを乗せて言うカルマちゃんに、カノンさんはキッと睨みを向けた。
 けれどカルマちゃんは特に気にしていない風で、変わらず一人ニタニタしている。

「この間の一件の後、まくらにはアイツの自身のことを説明したんだ。アイツが魔女だってことや、カルマっていう別人格を作っていたことをな」
「そうだったんだ。だからまくらちゃんの中で、戦うってことがカルマちゃんと繋がったのかな」
「ああ、多分そういうことだと思う。アイツ自身は、魔女を自覚しても魔法は使えてなかったからな。魔法を使ったり戦ったり、そういうことのイメージが全部カルマに偏ったのかもしれねぇ」

 魔女になってしまったからこそ、家族から捨てられてしまったまくらちゃん。
 けれど自分が魔女だということを知らず、そしてカルマちゃんがもう一つの人格として表に出てきていることも、何もあの子は知らなかった。

 でもカノンさんから説明を受けて、まくらちゃんにはカルマちゃんという夢の中の友達が、戦う力を持つ存在に映ったのかもしれない。
 だからカノンさんを守りたいって思った時、戦うすべを持たないまくらちゃんは、カルマちゃんの存在を願って作り出したんだ。

「ま、そんなわけでね! つまりカルマちゃんは、まくらちゃんが戦いたい時、誰かを守りたい時に変身するバトルモードってことなのさ! どうどう? かっこよくない???」
「確かに、ちょっと漫画みたいだね」

 普段大人しい女の子が、誰かを守るために強い自分に変身して戦う。
 それは確かに漫画やアニメの設定みたいだ。
 ただ変身先がこの破茶滅茶なカルマちゃんというのが、なんというか、格好良さとはかけ離れたものを感じさせる。

 でも、変身という言い方は言い得て妙だ。
 カルマちゃんは飽くまでまくらちゃんの別人格だから、肉体そのものは共通のもの。
 人格が変わることで着ている服を切り替えているけれど、全く別人のようになっても結局二人は同一人物なんだから。
 確かに、これは変身だ。

 でも、あの安っぽい煙の演出はどうなんだろう。
 十中八九カルマちゃんのおふざけだと思うんだけど。
 カルマちゃんという存在そのものがもう既にふざけているけれど、あの変身シーンはコミカルすぎないかなぁ。

「まくらはもうカルマを認識してるからか、任意で人格を切り替えられるんだ。替わろうとすると表に出ている方が眠って、裏からもう片方が出てくる。眠ってる状態だから、記憶は共有してないらしい」
「そうなんだよねーん。そこが不便なところかなぁ。こうやって出てきてない時は、基本寝ちゃってるからつまんないんだよねーん。まぁ、寝る子は育つって言うし、だからこそカルマちゃんはこんなセクシーなんだけどっ! いやん!」

 ガバッと立ち上がってマントを大きく広げ、グラマラスな身体を惜しげもなく見せびらかしてくるカルマちゃん。
 中学生程の小柄な体格ながらその発育は早く、女性らしいフォルムがしっかりとできあがっている。
 見た目の幼さと反比例するその扇情的なボディラインは、何というかとても背徳的な匂いがする。

 カルマちゃんの、まくらちゃんのグラマスさはひとまず置いておくとして。
 眠ることで人格が切り替わるというのは前と同じなんだな。
 だからこそさっきも、そしてここに帰ってくる前も一旦眠ったんだ。
 それはもう彼女たちの性質みたいなものなのかもしれない。

「そういう事情だったんだね。カルマちゃんが助けに来てくれた時はびっくりしたけど、まくらちゃんの意思だったみたいで安心したよ」

 身体を見せびらかしているカルマちゃんをカノンさんが窘めているのを見ながら、私は安堵の笑みを浮かべた。
 さっきは戦うことで精一杯だったからとりあえず肩を並べたけど、カルマちゃんに対して不安はあったから。
 そこにまくらちゃんの意思があって、そしてカノンさんを守りたいという想いから生まれものならば、それは信頼に値する。

「ああ。ロード・ケインもまくらのことを戦力としては見てなかったみたいでな。突然カルマに切り替わったことで意表を突けた。その隙になんとか逃げおおせたんだ」

 カルマちゃんを強引に座らせながらカノンは言う。
 ぶーぶー文句を垂れるカルマちゃんの頭をポカリと叩くと、カルマちゃんは余計にぎゃーぎゃーと喚いた。
 カノンさんはそれを面倒臭そうに見て溜息をついた。

「逃げられたのは良かったけど。でも、そもそもロード・ケインの目的はなんだったんだろう。そのスパイっていうのはやっぱり……」
「あぁ。状況やタイミング的に、多分アゲハのことなんだろうな。魔法使いであるアイツが魔女を使ってお前を殺そうとするなんて、思ってもみなかったけどよ」

 苦い顔をしてこぼすカノンさん。
 そう、問題なのはそこだ。カルマちゃんの話になって変に頭を悩ませてしまったけれど。
 今肝心なのは、ロード・ケインがやって来たこと。
 そしてそのスパイが、恐らくアゲハさんを指しているということ。

 一体、何が起こっているんだろう。
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