338 / 984
第6章 誰ガ為ニ
22 いたはず
しおりを挟む
「ちょ、ちょっと待ってください」
ラブホテルの前からしばらく走った所で、私はアゲハさんの手を振り払って足を止めた。
一目散に駆けるアゲハさんに連れられるがままに走ってきてしまったけれど、どこに行くのかもわからないまま、どこまでも連れられるわけにはいかない。
私たちは駅前からどんどんと離れ、街外れの方へと向かっていた。
人気のない路地は、街灯も少なくて暗い。
さっきまで派手な電飾に溢れた所にいたから、余計静かな暗さが際立った。
立ち止まった私に倣って足を止めたアゲハさんは、ようやく私の方を見てニカッと笑った。
その笑顔はさっきまでクロアさんに向けていた険悪な雰囲気とは全く違う。
とっつきやすく人当たりのいい笑みだった。
「いやぁここまで来れば大丈夫か。間一髪だったねぇ」
「は、はぁ……」
正直私はまだ状況が飲み込めていない。
どうして仲間である二人がああも対立していたのか。
裏切り者とは、どういうことなのか。
クロアさんから感じたただならぬ雰囲気と、絡みつくようなおどろおどろしい感情にその手を拒絶してしまったけれど。
でも、一体何がどうなっているのかはさっぱりわからない。
「あの、アゲハさん。さっきのは一体……」
「もー固いぞアリスぅ。私たち友達でしょ? 仲良くしよーよー」
恐る恐る目を向けて尋ねてみると、アゲハさんは軽い調子で私の肩を抱いてきた。
容赦のない接触に私は思わずビクッと身を縮こませたけれど、アゲハさんは構わず体を押し付けてる。
大きく開いた胸元からこぼれそうな胸が、その圧倒的な弾力を持って私に存在を訴えかけてくる。
「アゲハさん、ちょっと……」
私が拒否の意を示しても、アゲハさんは私を放してはくれなかった。
無二の親友のようにぴったりと体をくっつけてニコニコ笑みを浮かべてくる。
その様子はやっぱり、さっきクロアさんと一触即発のやり取りをしていた人のものとは思えない。
でも、そもそもアゲハさんは恐ろしく切り替えが早い人だった。
私とだって、この間あんな苛烈な戦いをしたのにケロリと絡んでくるわけだし。
私としてはまだまだ思うところがあるけれど。
でも、ちゃんとお話をしてくれるのならツンケンしていたって仕方がない。
「あの、アゲハさん。さっきのは一体どういうことなんですか? 二人は仲間なのに。それに、裏切り者って……?」
「ん? そんなのもう言うまでもないっしょ?」
引き剥がすのを諦めてされるがままになりながら尋ねると、アゲハさんはキョトンとした顔で言った。
「クロアのやつはアンタが大好きすぎて、ワルプルギス本来の目的にそぐわないことを考えてたの。マジありえないよねぇ」
「それは、記憶と力の封印を解かせないようにするってことですか?」
「ま、そんなとこじゃない? 一緒に逃避行でもしようとしたのか、それともどこかに隔離しようとしたのか、その辺りはわかんないけどさ」
あーやだやだと溜息をつくアゲハさん。
私はその言葉を聞いて、また背筋が凍るような思いがした。
あのまま誰にも止められていなかったら、どうなっていたんだろう。
「前からそういうところあったから、目を光らさせてたの。アリスに傾倒しすぎてる感じだったからさ。そしたら案の定今日、行動に出たってわけ。全体の目的よりも自分の利益を優先したんだから、まぁ裏切り者って言われても仕方ないよね」
裏切り者。ワルプルギスにとっては、クロアさんのあの行動はそうなるのかな。
でも、クロアさんはワルプルギスとしての使命もちゃんと抱いていた。
けれどその中で、私に向ける個人的な感情があっただけ。私にはそう見えた。
確かに自分本位な行動に出たことになるのだろうけれど、それで裏切り者になってしまうのかな。
それを言えば、ワルプルギスの方針に反して私に襲いかかってきたアゲハさんだって同じようなものな気がする。
まぁ、ワルプルギスの中の問題を私がどうこういうことではないけれど。
何だったとしても、クロアさんが私に向けてきた激情に、黒いものが混じっていたことは確かだ。
私を思う気持ちの中に、捻れた感情と考えが混じっていたのは。
クロアさんは私の心が変わってしまうことを恐れていた。
今の私の純粋さが損なわれてしまうと、不安そうにしていた。
だからそれはクロアさんなりの、私のためだったんだろうけれど。
でもやっぱりそれは私の望むところじゃない。
私もその不安を抱きながら、けれど真実に向き合うことを選んだんだから。
何を取り戻しても、今の自分を見失わないと信じているんだから。
そしてそんな私を信じて、後押ししてくれる友達がいるから。
同じように私のためを想ってくれていても、こうも在り方が違う。
でも、クロアさんが私のことを想ってくれている気持ちは本物だとわかってしまうから、僅かに心が痛む。
その気持ちに応えてあげられないことに、罪悪感を抱いていないとは言い切れない。
だから彼女に対して恐れを覚えるのと同時に、悲しみに暮れる姿を哀れんでしまう気持ちもあった。
「クロアのこと気にしてんの? アリスやっさしー。優しすぎって感じもするけど」
抱いた肩をバシバシと叩きながらアゲハさんは言う。
それは自覚しているから、指摘されると何も言えない。
私はどうしても人を嫌いになりきれない傾向があるから。
「ま、アイツのことはいいじゃん。ほっときゃそのうち頭冷えるっしょ」
「アゲハさんはちょっと冷たすぎないですか?」
「えー。だってそもそも私、クロアと反り合わないしねぇ。アリスがクロアより私を選んで、ざまぁって感じっ」
「別に私、アゲハさんを選んだつもりはないですけど……」
意地の悪いニタニタ顔を浮かべるアゲハさんに、私は不満を露わにして返した。
アゲハさんもクロアさんも、私にしてみれば同じワルプルギスの魔女で、正直穏やかな相手ではないんだから。
けれどアゲハさんは私の様子など気にも止めずに、相変わらず私の肩を強く抱いてくる。
スキンシップが激しいのはいいけれど、なんだか拘束されてるみたいにガッチリ肩を組まれているものだから、少し居心地が悪い。
この状況をどうしたものかと考えていた時、私はとても大切なことを思い出した。
「そうだ、あ、あの……! ホテルの前に千鳥ちゃんいませんでしたか!? 私を待っててくれたはずなんですけど」
本来ならばあの場にいたはずの千鳥ちゃんがいなかった。
出てすぐに起きた一触即発の空気で、そのことに意識を向けている余裕がなくて、すぐに気付かなかった。
待ちくたびれて帰ってしまった、という線も千鳥ちゃんの場合はまぁ否定できない気もするけれど。
でもあの子はああ見えて人情深かったりするし、流石にそれはないように思う。
だとすれば、千鳥ちゃんの身に何かあったなんてことは……。
「千鳥? ……あぁ、クイナのこと? 見た見た。ホテルの前にいたよ、アイツ」
人差し指で下唇をぐいっと突いて少し考える素ぶりを見せてから、アゲハはハッと思い出すように言った。
クイナっていうのは確か、千鳥ちゃんの本当の名前だったはず。
本人の口から聞いたわけじゃないけれど、前もアゲハさんは千鳥ちゃんのことをそう呼んでいた。
「あぁーでも、私の顔見るなり真っ青になってどっか行っちゃったけどね。マジありえなくない? 実の姉に対してさぁ」
「そう、ですか……」
ぶーぶーと文句を垂れるアゲハさんに、私は安堵と焦燥の混じった息を吐いた。
ひとまず怪我をしたりってことはなさそうだけれど、苦手にしているアゲハさんと対面して逃げちゃったのか。
なんか悪いことしちゃったなぁ。
アジトに乗り込むから、外で待っている分には何もないと思っていたけれど。
千鳥ちゃん大丈夫かなぁ。
置いていかれてしまった心細さを感じつつ、千鳥ちゃんが心配でたまらなかった。
ラブホテルの前からしばらく走った所で、私はアゲハさんの手を振り払って足を止めた。
一目散に駆けるアゲハさんに連れられるがままに走ってきてしまったけれど、どこに行くのかもわからないまま、どこまでも連れられるわけにはいかない。
私たちは駅前からどんどんと離れ、街外れの方へと向かっていた。
人気のない路地は、街灯も少なくて暗い。
さっきまで派手な電飾に溢れた所にいたから、余計静かな暗さが際立った。
立ち止まった私に倣って足を止めたアゲハさんは、ようやく私の方を見てニカッと笑った。
その笑顔はさっきまでクロアさんに向けていた険悪な雰囲気とは全く違う。
とっつきやすく人当たりのいい笑みだった。
「いやぁここまで来れば大丈夫か。間一髪だったねぇ」
「は、はぁ……」
正直私はまだ状況が飲み込めていない。
どうして仲間である二人がああも対立していたのか。
裏切り者とは、どういうことなのか。
クロアさんから感じたただならぬ雰囲気と、絡みつくようなおどろおどろしい感情にその手を拒絶してしまったけれど。
でも、一体何がどうなっているのかはさっぱりわからない。
「あの、アゲハさん。さっきのは一体……」
「もー固いぞアリスぅ。私たち友達でしょ? 仲良くしよーよー」
恐る恐る目を向けて尋ねてみると、アゲハさんは軽い調子で私の肩を抱いてきた。
容赦のない接触に私は思わずビクッと身を縮こませたけれど、アゲハさんは構わず体を押し付けてる。
大きく開いた胸元からこぼれそうな胸が、その圧倒的な弾力を持って私に存在を訴えかけてくる。
「アゲハさん、ちょっと……」
私が拒否の意を示しても、アゲハさんは私を放してはくれなかった。
無二の親友のようにぴったりと体をくっつけてニコニコ笑みを浮かべてくる。
その様子はやっぱり、さっきクロアさんと一触即発のやり取りをしていた人のものとは思えない。
でも、そもそもアゲハさんは恐ろしく切り替えが早い人だった。
私とだって、この間あんな苛烈な戦いをしたのにケロリと絡んでくるわけだし。
私としてはまだまだ思うところがあるけれど。
でも、ちゃんとお話をしてくれるのならツンケンしていたって仕方がない。
「あの、アゲハさん。さっきのは一体どういうことなんですか? 二人は仲間なのに。それに、裏切り者って……?」
「ん? そんなのもう言うまでもないっしょ?」
引き剥がすのを諦めてされるがままになりながら尋ねると、アゲハさんはキョトンとした顔で言った。
「クロアのやつはアンタが大好きすぎて、ワルプルギス本来の目的にそぐわないことを考えてたの。マジありえないよねぇ」
「それは、記憶と力の封印を解かせないようにするってことですか?」
「ま、そんなとこじゃない? 一緒に逃避行でもしようとしたのか、それともどこかに隔離しようとしたのか、その辺りはわかんないけどさ」
あーやだやだと溜息をつくアゲハさん。
私はその言葉を聞いて、また背筋が凍るような思いがした。
あのまま誰にも止められていなかったら、どうなっていたんだろう。
「前からそういうところあったから、目を光らさせてたの。アリスに傾倒しすぎてる感じだったからさ。そしたら案の定今日、行動に出たってわけ。全体の目的よりも自分の利益を優先したんだから、まぁ裏切り者って言われても仕方ないよね」
裏切り者。ワルプルギスにとっては、クロアさんのあの行動はそうなるのかな。
でも、クロアさんはワルプルギスとしての使命もちゃんと抱いていた。
けれどその中で、私に向ける個人的な感情があっただけ。私にはそう見えた。
確かに自分本位な行動に出たことになるのだろうけれど、それで裏切り者になってしまうのかな。
それを言えば、ワルプルギスの方針に反して私に襲いかかってきたアゲハさんだって同じようなものな気がする。
まぁ、ワルプルギスの中の問題を私がどうこういうことではないけれど。
何だったとしても、クロアさんが私に向けてきた激情に、黒いものが混じっていたことは確かだ。
私を思う気持ちの中に、捻れた感情と考えが混じっていたのは。
クロアさんは私の心が変わってしまうことを恐れていた。
今の私の純粋さが損なわれてしまうと、不安そうにしていた。
だからそれはクロアさんなりの、私のためだったんだろうけれど。
でもやっぱりそれは私の望むところじゃない。
私もその不安を抱きながら、けれど真実に向き合うことを選んだんだから。
何を取り戻しても、今の自分を見失わないと信じているんだから。
そしてそんな私を信じて、後押ししてくれる友達がいるから。
同じように私のためを想ってくれていても、こうも在り方が違う。
でも、クロアさんが私のことを想ってくれている気持ちは本物だとわかってしまうから、僅かに心が痛む。
その気持ちに応えてあげられないことに、罪悪感を抱いていないとは言い切れない。
だから彼女に対して恐れを覚えるのと同時に、悲しみに暮れる姿を哀れんでしまう気持ちもあった。
「クロアのこと気にしてんの? アリスやっさしー。優しすぎって感じもするけど」
抱いた肩をバシバシと叩きながらアゲハさんは言う。
それは自覚しているから、指摘されると何も言えない。
私はどうしても人を嫌いになりきれない傾向があるから。
「ま、アイツのことはいいじゃん。ほっときゃそのうち頭冷えるっしょ」
「アゲハさんはちょっと冷たすぎないですか?」
「えー。だってそもそも私、クロアと反り合わないしねぇ。アリスがクロアより私を選んで、ざまぁって感じっ」
「別に私、アゲハさんを選んだつもりはないですけど……」
意地の悪いニタニタ顔を浮かべるアゲハさんに、私は不満を露わにして返した。
アゲハさんもクロアさんも、私にしてみれば同じワルプルギスの魔女で、正直穏やかな相手ではないんだから。
けれどアゲハさんは私の様子など気にも止めずに、相変わらず私の肩を強く抱いてくる。
スキンシップが激しいのはいいけれど、なんだか拘束されてるみたいにガッチリ肩を組まれているものだから、少し居心地が悪い。
この状況をどうしたものかと考えていた時、私はとても大切なことを思い出した。
「そうだ、あ、あの……! ホテルの前に千鳥ちゃんいませんでしたか!? 私を待っててくれたはずなんですけど」
本来ならばあの場にいたはずの千鳥ちゃんがいなかった。
出てすぐに起きた一触即発の空気で、そのことに意識を向けている余裕がなくて、すぐに気付かなかった。
待ちくたびれて帰ってしまった、という線も千鳥ちゃんの場合はまぁ否定できない気もするけれど。
でもあの子はああ見えて人情深かったりするし、流石にそれはないように思う。
だとすれば、千鳥ちゃんの身に何かあったなんてことは……。
「千鳥? ……あぁ、クイナのこと? 見た見た。ホテルの前にいたよ、アイツ」
人差し指で下唇をぐいっと突いて少し考える素ぶりを見せてから、アゲハはハッと思い出すように言った。
クイナっていうのは確か、千鳥ちゃんの本当の名前だったはず。
本人の口から聞いたわけじゃないけれど、前もアゲハさんは千鳥ちゃんのことをそう呼んでいた。
「あぁーでも、私の顔見るなり真っ青になってどっか行っちゃったけどね。マジありえなくない? 実の姉に対してさぁ」
「そう、ですか……」
ぶーぶーと文句を垂れるアゲハさんに、私は安堵と焦燥の混じった息を吐いた。
ひとまず怪我をしたりってことはなさそうだけれど、苦手にしているアゲハさんと対面して逃げちゃったのか。
なんか悪いことしちゃったなぁ。
アジトに乗り込むから、外で待っている分には何もないと思っていたけれど。
千鳥ちゃん大丈夫かなぁ。
置いていかれてしまった心細さを感じつつ、千鳥ちゃんが心配でたまらなかった。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~
石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。
しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。
冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。
自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。
※小説家になろうにも掲載しています。
あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる